シェフは大阪堺出身、蒲田に感じた堺東の雰囲気

シェフの虻川直生さん。
シェフの虻川直生さん。

オーナーシェフの虻川直生さんは、銀座の名店『アロマフレスカ』の系列店出身で、広尾など都心の店で腕を磨いてきた。お会いしてみると、ふんわりとした関西弁で話されるので、どうやら蒲田が地元でもなさそうだ。どうしてここに出店を決めたのか話を伺った。

出身は大阪府堺市で、上京して最初に住んだ街が蒲田だったという。「大阪に堺東という駅があるんですけど、蒲田はその街と雰囲気が似ていたんですよ。まだ駅ビルのグランデュオができる前だから、20年くらい前ですね。その頃の蒲田って雑多で、こんなん言っていいかわからんけど寂れた感じで、そこに堺東を感じました。じゃあ、ええんちゃう(笑)と。アクセスもいいですしね。そのまま蒲田に住みました」と話す。

席数は前身の店よりもあえて少なくした全14席。
席数は前身の店よりもあえて少なくした全14席。

それからずっと蒲田に住み、広尾の「リストランティーノ バルカ」(現『TACUBO』)を経て、『autentico』と同じ場所にあった「ウン・パッソ」というイタリア料理店で4年ほどシェフを務める。

それ以降も他店で働きながら、独立を目指して物件を探していた。そのタイミングで以前働いていた「ウン・バッソ」のオーナーから「閉店することにしたので、この場所で開業しないか」と声がかかったという。

愛着のある蒲田で、しかも目が届くこの規模のお店は願ってもないことだった。それから5年、『autentico』は店名の通り、本物の味を求めるファンの間で評判となり、虻川さんにとって蒲田は第二のホームタウンになっていった。

手打ちパスタと旬の食材を美しい器で提供

ヤリイカとポロ葱のタリオリーニ カラスミ添え。
ヤリイカとポロ葱のタリオリーニ カラスミ添え。

この日いただいた料理は、土曜・祝日限定の6000円のランチコースから2品。まずパスタ「ヤリイカとポロ葱のタリオリーニ カラスミ添え」は、2種提供されるパスタの内の1品だ。幅3mmほどの平打ちバスタ、タリオリーニは手打ち。小麦の風味も感じられるモチモチ食感が味わい深い。ヤリイカの甘みと旨み、軽く焦げ味をつけたポロ葱も香ばしい。カラスミも加わるとより一層深みを増す。

それにしても和風の器が美しい。「これは古伊万里なんです。肉料理の器は、作家さんの一点物です。器は好きなんで、つい色々と買ってしまいます。母親が陶芸をやっていて、その影響で自分も器に興味を持ちました。料理と器は母の影響が強いですね。なんでも手作りする人なんですよ」と虻川さん。他にも手作業の跡が見える無骨な風合いの皿や、虻川さんの母が作った器など、様々な器を揃えている。料理と一緒に器も愛でてみたい。

料理のおいしさはもちろんだが、器との調和もよく、虻川さんのセンスが光る。
料理のおいしさはもちろんだが、器との調和もよく、虻川さんのセンスが光る。

メインの鹿児島黒豚肩ロースの炭火焼きも絶品だ。脂に甘さを感じる柔らかい肩ロース肉に、特製のソースをつけていただくと、エスニックな爽やかさも加わる。ハリッサというインド料理のスパイスがベースになっている。スパイシーだけど後味はやさしい。

「ソースはパプリカとスパイス、はちみつ、そしてちょっとだけトマト加えています。それをピューレ状にした甘辛いパプリカのソースです。付け合わせの野菜は北海道産の金美ニンジンと、その上はイタリアの菜花の一種チーマディラーバです。パスタもそうですが、工程は複雑だけど出来上がった料理自体は食材の味がはっきりわかるものを心がけています」と虻川さん。日本の菜花と違い秋冬に旬を迎えるチーマディラーバは、独特の苦味がアクセントになっている。

メニューは旬の食材に合わせて2週間から1ヶ月の間隔で変えていくが、こんな例外も。「もし今週の土曜日に来て、次の土曜日にも来てくださることがあれば、料理を変えてお出ししています」。お客さんに合わせて柔軟に、そして旬の味を大切にするお店だから、訪れるたびに新しい発見があるのかも知れない。

コースに含まれるカフェ・エスプレッソ。
コースに含まれるカフェ・エスプレッソ。

6000円のランチコースは、この他にアミューズと前菜、デザートとカフェがつく。他に肉料理がつかない4000円のランチコースと、ディナーと同じ内容の11000円のランチコースもある。土曜・祝日は、いずれもこの金額に別途コペルト代(席料)500円がつく。平日の限定ランチはサラダとパスタで1200円(全て税込)だ。

ほっとくつろぐ温もりあふれるインテリア

左奥にある絵画は、店主がスペイン旅行中に出会った画家さんの作品。
左奥にある絵画は、店主がスペイン旅行中に出会った画家さんの作品。

店内のインテリアは、木の温もりを生かしたシンプルかつナチュラルな雰囲気。暖色の照明がやさしく灯り、テーブルにはさりげなく花が飾られている。客席の間もゆったりと広めなので、親しい人とゆっくりと食事を楽しむには最適な空間だ。

コース主体のイタリアンというと敷居が高そうで構えてしまうけれど、ここなら肩肘張らずに過ごせる。週末のご褒美ランチに、ぜひおすすめしたい。

住所:東京都大田区蒲田5-21-1 2F/営業時間:11:30〜14:30、18:00〜23:00(~21:00LO)/定休日:日/アクセス:JR蒲田駅から徒歩5分

取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン