高校時代に寸胴を買ってラーメン作りを開始したラーメン好き店主の店

間口の広い店内は、一人当たりのスペースが大きく、清潔感もある。「コロナをきっかけに間隔をあけましたが、この方が女性のお客さんが入りやすいと思ってそのままにしています。他のお客さんと近すぎない方がいいですよね」とやさしい口調で話す店主の石井友司(いしいゆうじ)さん。

石井さんは、ラーメン店に携わるようになってもうすぐ30年。高校時代にはラーメン店でアルバイトを始め、小さな寸胴鍋を買って自宅でもラーメンを作っていた。学生時代から「独立するならラーメン屋」と考えて、いろいろなスタイルのラーメン店や居酒屋などで修業。ずいぶんたくさんのラーメンを食べ歩いてもきた。

独立したのは2009年。最初は荻窪にお店を開き、スープの香りや風味を全面に出したいと「風味堂(ふうみどう)」と名付けた。2011年には東日本大震災がきっかけとなって地元である国分寺に移転。そのとき店名を平仮名の『ふうみどう』に変更して今に至る。学生街でもある国分寺はラーメン激戦区だが、『ふうみどう』は平日のランチタイムは近隣の企業で働く人、土曜日は夫婦連れなど、落ち着いた年齢層が訪れる。

何度でも食べたくなる看板メニュー、醤油味の中華そば

味玉中華そば890円。丼の表面3分の2を覆うチャーシューも迫力あり。
味玉中華そば890円。丼の表面3分の2を覆うチャーシューも迫力あり。

『ふうみどう』の看板メニューは、味玉中華そばだ。

「ベーシックな中華そばを今風に作っています。よく『昔ながらの中華そばだね』と言われますが、昔のスープはこんなに分厚くはなかったはずです」

石井さんがいう分厚さとは、旨味の強さや複雑さ。スープは動物系と魚介系のダブルスープを別々に炊く。しかもそれぞれ複数の材料で出汁を抽出している。動物系は鶏ガラ、豚足、モミジなどで、炊く時間は6時間ほど。魚介系のスープは昆布、煮干し、節類などを使用し、和風で濃い出汁に。

スープは少し強めの火で炊くことで、旨味を引き出している。醤油はあきる野で作られるキッコーゴを使用。
スープは少し強めの火で炊くことで、旨味を引き出している。醤油はあきる野で作られるキッコーゴを使用。

最後に2つのスープを合わせて、もう一度火を入れ、一体感を出している。

早速渾身のスープをいただくと、塩分とは違う濃さとふわりとした魚介由来の苦味が奥行きを作っている。魚介系の出汁に由来する複雑さと、ナルトがのったビジュアルのコンビネーション。食べる人を懐かしい気持ちにさせる理由はこのあたりにありそうだ。

麺は中細ストレート。スープがよく絡み、すすり心地がいいようにと製麺所に依頼している。「麺がスープの味を邪魔しないように、強くないものを使っています」と石井さん。

チャーシューは、豚の肩ロースを低温調理器で。温度を少し高めに設定して、見た目が生っぽくならないようにしている。薄く切られて舌の上で跳ねるような独特の柔らかさがある。こちらもスープを邪魔しない味付けだ。いかにスープを味わってもらうか。そのために一杯が作られている。

一方で旨味がしっかりしたやさしい醤油味のスープは、最後まで飽きないし重くもない。かつて石井さんの祖母も90歳をすぎてから完食したというほど食べやすいのも魅力だ。

もうひとつの人気メニュー、台湾ラーメン

『ふうみどう』には、もうひとつの人気メニューがある。それが台湾ラーメンだ。3人から4人に1人は頼むという。台湾と名がつくものの名古屋発祥の豚挽き肉がのった辛みのあるラーメンとしておなじみだ。

【辛】台湾ラーメン880円。挽いた背脂が使われているが、決してしつこくなく、辛すぎることもない。
【辛】台湾ラーメン880円。挽いた背脂が使われているが、決してしつこくなく、辛すぎることもない。

石井さんの台湾ラーメンは、ほんのりピリ辛。スープと麺は中華そばと共通で、豚の粗挽きミンチと背脂を挽いたものがのっている。辛さの元となるラー油も自家製で、背脂のラードと2種類の唐辛子を使用している。スープの複雑な旨味にほどよい辛さ、肉と脂の食べ応え。これはハマる一杯だ。

店主の石井友司さん。
店主の石井友司さん。

醤油味の中華そばか台湾ラーメンか。

片方ばかりを食べるのは、もったいないような気さえする。看板メニューと人気メニューを食べ比べるために何度か訪れてみてはいかがだろうか。

住所:東京都国分寺市本町2-12-1/営業時間:11:30~14:30・17:30~20:30/定休日:日/アクセス:JR中央線・西武鉄道国分寺線・多摩湖線国分寺駅から徒歩4分

取材・撮影・文=野崎さおり