パンとコーヒーどっちもハイレベル!
京急本線立会川駅を出ると、そこはいきなり商店街。細い通りに飲食店などが並び、ゴチャッとした感じは人間くささがあって、東京の東側の街と同じ雰囲気がある。
その中にある『カフェ ロティ』の店先に置かれた看板には「挽きたて珈琲とぬくもり手作りパン」と書かれている。2階がカフェになっていて、1階の店舗で買ったパンをコーヒーと一緒に楽しめるのだ。
この1杯280円のコーヒーがえらくうまい。上島珈琲のスペシャリテを使ったコーヒーは香り高く、スッキリしつつも力強い味わいで、その旨さに驚く。聞けば、店主の渡辺茂さんは、無類のコーヒー好き。パンありき、というよりはコーヒーと一緒にパンを楽しませる店、というコンセプトで始めたのだという。
もともと、ここ立会川では渡辺さんの両親がそば店を営んでいた。そのそば店は1989年に駅が高架化されたタイミングで移転したという。一方の茂さんはそば店を手伝っていたが、年齢的なこともあって両親は引退。縁のある立会川でパンとコーヒーの店を始めようと、大森にあったベーカリーで1年修業してパン作りを学び、98年に『カフェ ロティ』を妻の智子さんと一緒に始めたのだ。
オリジナリティあふれるパン
おいしいのはコーヒーだけではなく、パンもすごい。総菜パンからハード系、クロワッサンなどのリッチ系、さらに焼菓子までそろっているうえに、どれもオリジナルな要素が入っていて、ほかでは食べられないおいしさがある。驚くのは、店を始めてから独学でこれらのパンを作っていったのだという。一緒に働く職人さんの協力もあったというが、なんというバイタリティ!
目を引くのは、看板商品のロティフランス330円だ。天然塩と豆乳を加えて作られた生地は、ふんわりふかふか。最近は皮はバリッと、中は高加水でトロッとしたフランスパンが人気だが、それとはまったく違う。ちょっと食べたことがないフランスパンなのだ。
もちろん、これも独学で、ウズベキスタンで食べられているパンを参考にしている。聞けば旅行先で現地のパンに感動し、「うちのパンはこれでいく」と、試行錯誤を重ねて開発したのだという。
「本格的なフランスパンは、そういうお店にお任せしてという考えですね」と智子さん。ここでしか食べられないパンがある。だからこそ、人は惹かれる。実際、ロティフランスは店の人気商品だ。
プレミアムクリームパン200円もまた、カスタードクリームが濃厚かつフレッシュで後を引くうまさ。これまた他ではなかなかない味わいだ。これもまた、茂さん、智子さん、職人さんで協力し合いながら、作り出してきたものだという。
「他にはないパン、そして地域の方たちが喜んでくれるような、そんなパンを作っていきたいんです」と、智子さんは『カフェロティ』のあり方を語る。
地域の憩いの場に
そんな姿勢が支持されているのだろう、店には切れ目なく地元のお客さんがやってくる。そして、2階ではパンとコーヒーを楽しむ人たちが。この2階がいいのだ。チェーン系のカフェのようにBGMがかかるでもなく、店員が歩きまわることもない。ゆっくりとした幸せな時間が流れる中で、グループ客がおしゃべりしていたり、ひとり本を読む人がいたり。
「毎日、朝と仕事帰り、1日に2回来てくれるお客様もいます。95歳の男性のお客様も毎日、2階でサンドイッチとコーヒーを楽しみながら、自分史を書いていたり」と智子さん。この店がどれだけ地域の人に愛されているのかが分かる。
開店以来、ほぼ無休でやってきた『カフェ ロティ』だが、年齢的なこともあり日曜祝日は休むことにしたそうだ。無休という営業形態は、ながらく常連さんから心配され「もっと休んだほうがいい」と言われていたようで、これもまた店が愛されているからなのだろう。
立会川にとって、なくてはならないベーカリーとなっている『カフェ ロティ』。智子さんは「本当にみなさんに助けられて、ここまでやってきました」と言っていたが、その幸せな関係は、これからも続いていきそうだ。
取材・撮影・文=本橋隆司