コロナ禍が産んだ肉寿司食べ放題!
JR秋葉原駅中央口からヨドバシカメラを右側に見て歩くこと1分ほど。電気街へ抜ける地下道近くに立つ富士ソフト秋葉原ビル1階に店はある。店の外にもテーブルやイスが並べられ、海外のバルを彷彿とさせる。
創業は2019年11月。全国展開する「肉寿司」のフランチャイズ店で腕を磨いてきた社長の川満洸大(こうだい)さんが、念願の出店を果たした。ところが、すぐに新型コロナウイルスまん延の危機に見舞われた。
「当初はビジネスマン向けの居酒屋を目指していたのですが、お酒の販売を規制されたり、テイクアウト需要が増えたりする世の中の動きを見て、ご飯や食事をメインに据えた店に転換しました」
そこで考案したのが“肉寿司食べ放題”だ。もともとフランチャイズ店の一部で実施していたが、川満さんはレギュラー化して、内容もブラッシュアップした。
店主の心意気が伝わり予約が殺到
肉寿司食べ放題は制限時間100分間で前日までの予約制だ。最初に馬肉、牛肉、豚肉、鶏肉を使った10種類以上の盛り合わせが提供される。その後、食べ放題メニューから好きな寿司タネを1貫から何貫でも注文できる。ただし、食べ残しは厳禁だ。
注目は食べ放題限定品のNIKURAドッグ。ホットドッグに見立てたU字型の軍艦巻き風で、酢飯の上に馬肉の赤身とこうね脂(たてがみ)を叩いたネギトロとイクラがのる。さらに2023年は地域・都市フェアと題して、1~2カ月ごとに北海道、東北、北陸、静岡、名古屋、関西と入れ替えながら名物をトッピング。北海道ならばカニ、東北は牛タン、北陸はノドグロ、名古屋はひしまぶし(ウナギ)といった具合だ。食べ放題ゆえのボリュームはもちろん、お客さんを喜ばせる娯楽性も大切している。
それだけにこんな出来事もあった。2023年1月、ある女性がSNSで肉寿司に失望したと投稿した。偶然、その投稿を見た川満さんもメニューの写真と実物があまりにも違いすぎて愕然としたという。
「当店を含む肉寿司グループとは全く関係ありませんが、これでは肉寿司業界の評判が地に落ちると憤りました。何より、投稿者は友だちとの新年会で利用したらしく、立場もないだろうなと。そこで、代金は要りませんから当店で新年会をやり直しませんか?と人生初のダイレクトメッセージを送りました」
翌日、投稿者たちが来店し、“本物”の肉寿司に大感動。SNSに事の顛末(てんまつ)と料理の写真を投稿すると瞬く間に評判が広がり、1日に400人から予約申込みがあり、1カ月先まで席は埋まってしまったそうだ。
寿司タネを引き立てる名脇役にもこだわり
改めて肉寿司を説明すると、寿司タネには馬肉、牛肉、豚肉、鶏肉などを使う。いずれも安心安全に食べられるよう、生食用や生食風に調理したものを使っている。馬肉は国内で唯一、生食が許可されており、店では刺し身用を使用する。単品の肉寿司では赤身、漬け赤身、ネギトロ、えんがわ(背脂)、ユッケなどがある。
牛肉はブロック肉を芯温63度でじっくり火を通す特定加熱(低温調理)で調理するため、見た目は生肉のようだが安全で、柔らかくジューシーな仕上がりになっている。単品の肉寿司にはローストビーフ、タン、塩熟成牛モモ、和牛とろカルビ、和牛赤身などがある。
鶏肉は特定加熱(低温調理)した鶏むね肉やカモ肉など。豚肉はイベリコ豚やカルビなどを加熱調理して提供する。
寿司といえば、酢飯の役割も大きい。ご飯は国産米を肉寿司に合うようブレンドして、昆布出汁で炊く。これによりご飯の内部までうまみが染み込むそうだ。酢はバルサミコ酢を含む3種類を配合して、通常の寿司酢よりも酸味を抑えている。
そして、醤油は老舗のヤマサ醤油と肉寿司本部が協力し、コクがあり、ほんのり甘い“肉に合う”醤油を開発。寿司タネ、酢飯、醤油の全てに妥協しないからこそ、おいしい肉寿司が味わえるのだ。
目の前で焼く名物さしとろは大迫力
単品の肉寿司でぜひ味わいたいのが名物さしとろだ。大きな角皿にサシの入った国産牛リブロースの一枚肉(80〜100g)がのせてあり、中央がポコリと膨らんでいた。
「膨らみの下には酢飯があるので、これも肉寿司に入ります」
ニコリと笑いながら、川満さんが合図を送ると、スタッフはガスバナーを点火して、肉の表面を炙り始めた。ゴオッ〜と響く音と炎の迫力あること! その後に肉の脂が燃える香りが漂い、腹の虫が大合唱するのが分かった。
「脂を気化させることで肉のうまみが凝縮します。表面に岩塩と黒コショウをかけていますから、まずはそのままで味わい、次にワサビやニンニクで味変を楽しむ方が多いです」
その言葉通りに最初は肉だけをパクリ。上質な脂の甘さと肉のうまみが口いっぱいに広がり驚いた。次は薬味をのせ、酢飯と一緒に。こちらは酢飯の効果で食べやすくなり、味に奥行きが加わった感じがした。なるほど。これも肉寿司だ。肉の厚さや酢飯の量が絶妙のバランスでよく研究されていると感心してしまった。
現在は、食事に軸足を置いているが、日本酒、ビール、ハイボール、焼酎、ワインなどの酒類も取り揃えている。とくに日本酒は而今(じこん)、鍋島、十四代など、常時30種類を用意している。べっこう玉、ユッケ、馬肉コロッケ、松坂ポークのメンチカツなどを肴にして、お気に入りの一本を探してみるのもいいだろう。
取材・文・撮影=内田 晃 構成=アド・グリーン