“鬼門の地”で生き抜く実力派ラーメン店
立川駅の南口から8分ほど歩いた交差点の一角、『ホテル日航立川 東京』の向かいに2019年オープンした『麺屋 かなで』。ラーメン店が集まる立川駅の周辺から少し離れたエリアににある隠れ家的な店だ。
厨房に立つのは、20年以上にわたり多種多様なジャンルのラーメン店で修業を積んできた沖護(おき まもる)さん。究極まで自分の理想を追求したラーメンを作りたいと、この地に自身の店を構えた。
しかし、オープンからすぐに想定外のことが……。
「オープンしてから、店に来るお客さんが次々に“頑張ってね”と応援の言葉をかけてくれるので、なんでだろうと思っていたんです。よく話を聞いてみると、この場所は地元の人たちの間でラーメン店が次々と変わる“鬼門の地”と呼ばれているそうで。店をオープンしてから知ったので最初は焦りましたね」
さらに、オープンからほどなくしてコロナ禍が始まり逆境だらけのスタートとなったが、めげずにコツコツと店に立ち続けた沖さん。お客が少ないときでも、ひたすらにラーメンの研究を続けた。
そんな努力の甲斐あって、ラーメンを食べた人からじわじわと口コミが広がると、ラーメン激戦区の立川でも名が知られるほど話題の店に。沖さんの人柄も相まって、今では常連客やスタッフからも愛される店となっている。
これまでいろんなジャンルのラーメン作りに携わってきた沖さんだが、自身が作るラーメンに選んだのは淡麗系中華そば。シンプルなように見えて、長年の修業により身に付いたテクニックが詰め込まれた奥深い一杯だ。あえて、これまでの修業先を明かさないのは「イメージがついてしまうから」とのこと。あくまで自分のラーメンにこだわる姿はまさに職人だ。
鶏×醤油が旨味を奏でる鶏中華そば
沖さんが「初めての人に食べてほしい」と話すのが、醤油味の鶏の中華そば。店のオープン時から提供する定番メニューだ。丸鶏と鶏ガラを炊き込み厳選の醤油ダレを合わせたスープは、沖さんのこれまでの経験や技術が詰まっている。理想の味を作り出すために、ときには深夜まで研究に没頭することもあったのだとか。
透き通った淡麗系のスープは、醤油のコクが鶏の旨味を引き出した、丁寧な手仕事を感じる味わい。すっきりしているが鶏の油もしっかりと感じられて満足感がある。深みのある醤油味が、懐かしさも演出している。スタンダードな中華そばでも具材がたっぷりと入っているのがうれしい。特に器の中央に鎮座するワンタンは、沖さんのちょっとしたこだわりだ。
「少しだけラーメンを格上げしたいと思って初めは軽い気持ちで入れたんですが、お客さんがすごく喜んでくれたので、今では外せない店のトレードマークになっています」
さらに、お客からのリクエストに応じて誕生した鶏塩そば900円もおすすめ。やさしい塩味で、かなり人気が高いそう。2回目の来店時にはぜひ食べたい一品だ。
もちもちとした食感がクセになる細麺は、沖さん自身も大ファンだという『村上朝日製麺所』のオリジナル麺。全粒粉入りで、噛むたびに豊かな香りと味わいが鼻を抜ける。また、チャーシューは低温調理でしっとり食感に仕上げた豚肩ロースと鶏胸肉の2種類を楽しめる。こうしたすべての具材が、店主がたどり着いた“渾身の一杯”を作り出しているのだ。
沖さんは「ラーメンを作っていると“これは自分にしか作れない味だ”という気持ちに行きつくときもあるんです。自分の中で盛り上がっているだけなんですが、お客さんに“一つこだわりが感じられる”とか、褒めていただけると調子に乗ってしまいますね」と笑いつつ、「スープは昨日と今日で違うので、常に“今日が一番”と思える味を目指して作っています。お客さんに驚いてもらえるようなラーメンを作りたい」と続ける。味はもちろんのこと、ラーメンへの情熱も激戦区の地元客に認められた理由だろう。
油そばやつけ麺、お酒メニューにも注目
鶏中華そばのほかにも、油そばやつけ麺、ご飯ものなどバラエティ豊かなメニューを展開。それぞれのメニューが個性的なので、来店するたびに「今日はどれを頼もう」と選べる楽しさがある。お酒のメニューもあるので、ちょっと飲みたいときにも利用できる。
ラーメン激戦区の立川で、地元客に愛される通な店を探している人は、ぜひ一度立ち寄ってみてはいかがだろう。
取材・文・撮影=稲垣恵美