味噌の味はしっかり、でも優しい丸鶏味噌ラーメン

「トッピングはしばらく食べ進めてから混ぜていただくと味の変化を楽しめます」と店長の高畑さん。立派なチャーシューにかぶりつきたい欲を抑えてまずは麺からいただく。

今回の無料トッピングは黒マー油。
今回の無料トッピングは黒マー油。

中太の平打ち麺は滑らかで歯ごたえがいい。スープもしっかりと絡んでくれる。噛みしめると小麦の風味がまろやかな味噌と溶け合って至福の味だ。

濃厚でとろりとした味噌の味が鶏出汁のスープと素晴らしいハーモニーを奏でる。まろやかでやさしく、かつこってりとクリーミーでしっかりと味噌の風味を感じるが、決して主張をしすぎず、全体のバランスが絶妙だ。あまりののどごしの良さについつい飲み干してしまいたくなる。

滑らかでとろける味噌ラーメン用の中太麺。
滑らかでとろける味噌ラーメン用の中太麺。

チャーシューは柔らかく煮込まれた大判の肩ロースで、肉の味ががつんとくる。スープの味を邪魔しないあっさり風味なのがまたうれしい。スープとチャーシュー、麺とチャーシューを同時に頬張るとまさに楽園。

肉みそはスープと同じ味噌で炒められたもので相性はもちろん抜群。炒めたことで味噌の旨味が凝縮されてジューシーなアクセントをくれる。

半分ほど食べたところで黒マー油を混ぜてみる。力強いはずの黒マー油だけど、濃厚な味噌スープはまったく負けることがない。滑らかな旨味の味噌スープに黒マー油の香ばしさとほのかな苦みが深みをプラスして後半になっても箸の勢いは少しも落ちない。

試行錯誤でイタリアンからラーメン屋に転向

もともと、店長の高畑浩さんは30年近くイタリアンレストランを経営していた。最後の数年は現在『蔵前 中華そば 高ひろ』のある場所で営んでいたけれど、コロナ禍を契機に元々やりたかったというラーメン屋に転向したという。

「もともと60歳になったらラーメン屋をやりたいなと思っていたのですが、コロナ禍でディナーの流れが悪くなってきたことをきっかけに想定より5年ほど早かったんですが思い切って始めたんです」

ラーメン屋での経験はなかったので、試行錯誤をしながらの開店だったという。

内装はイタリアン時代のまま。
内装はイタリアン時代のまま。
天井にはシャンデリアが。
天井にはシャンデリアが。

「内装はほぼイタリアンのときのままです。壁の写真だけはもともと西洋画だったんですが今はチャーシューのものにしていますね。それくらいです」

当時、製麺屋のツテはなくインターネットで検索して探していたという。そして偶然見つけた愛知の太陽食品という製麺所から仕入れることになった。

「料理人としては長いですがラーメンに関しては素人なので、太陽食品さんから麺のことなどいろいろ教えてもらいながら何度も打ち合わせを重ねました。スープがおいしくできても、麺との相性でしっくりこなくなったりするんですよ。イタリアンではそういう経験がないので本当に難しかったですね。そうして何とか納得のいくものができたんです。醤油は細麺のストレートで味噌は中太の平打ちです。味噌の麺は麺の周りが少し溶け出してとろみと滑らかさがでるようになっています」

味噌の絡む滑らかなのど越しの秘密はそこにあった。

壁の絵のみが当時とは違う。
壁の絵のみが当時とは違う。

「味噌のスープは丸鶏の清湯です。それに白湯もブレンドしていますね。少量の豚脂は入っていますが豚骨は使っていません。醤油は透明な清湯のみで透明なあっさり風味にしています。私はこのあたりで生まれ育ったのですが、子どもの頃に食べたようなラーメンの味を再現するつもりで作っています」と高畑さん。

たしかに、味噌ラーメンは濃厚ながらも優しい味で食べやすい。正統派といった味わいだ。

基本に忠実に。誰もが親しめるラーメンで勝負を。

長らく携わっていたイタリアンでの経験を活かしたりはしていないのだろうか。

「むしろイタリアンのことは意識しないようにしています。ラーメンに関しては初心者なので素直に基本に忠実に作るようにしています。味噌ラーメンにはチーズも合いそうだな、というようにイタリアンの味付けを活かせるようなアイデアも浮かんできますが、まずは基礎をしっかり固めるのが先です。将来的にはそういった変わり種も出てくるかもしれませんが、今は基本のラーメンで勝負します」と高畑さんは謙虚に語る。

『蔵前 中華そば 高ひろ』の外観。
『蔵前 中華そば 高ひろ』の外観。

正統派の味わいで、誰もがなじみやすいラーメンは高畑さんの決意から生まれているのだ。

子どもからお年寄りまで楽しめるラーメンを食べるなら、ぜひ『蔵前 中華そば 高ひろ』に立ち寄ろう。

住所:東京都台東区蔵前3-16-3 シンエイマンション蔵前1F/営業時間:11:00~14:30(土・日・祝は 11:00-15:00)
/定休日:月/アクセス:地下鉄蔵前駅から徒歩3分

取材・文・撮影=かつの こゆき