厳選された肉を店内で熟成する
秋葉原駅電気街口から徒歩3分。中央通りに立つドン・キホーテ近くのビル6階に店はある。秋葉原らしいメイドカフェ、プラモデルなどのホビーショップが同居する雑居ビルだが、エレベーターの扉が開くと、大人好みの落ち着いた空間が待っている。
創業は2015年。海外の熟成肉のおいしさに感動したオーナーが、その魅力を多くの人に伝え、自分も楽しめるように開業した。
入り口正面、レジ奥に見えるのは熟成庫。その中には牛ロース肉と豚ロース肉の枝肉(骨付き肉)が吊るされている。
「当店ではドライエイジング製法といって、庫内の温度を2〜3度に保ち、枝肉に風を当てて熟成させます。牛肉は15日間、豚肉は24日間もかかるのですが、余分な水分を飛ばすことで、肉の旨味が凝縮します」とはスタッフの今野健吾さん。
旨味の凝縮のほか、肉質が柔らかくなり、ナッツに似た芳ばしい香りも加わるそうだ。熟成を終えた枝肉は、外側をきれいに取り除き、調理しやすい大きさにカット。スチームオーブンで低温調理すれば下準備は完了だ。あとはオーダーを受けた後に、表面に焼き色をつける程度に焼いて提供する。
熟成肉=牛肉という概念を破り、豚の熟成肉に成功
熟成肉といえば、牛肉のイメージが強かったが、豚肉もあるのに少し驚いた。
「牛の熟成肉はどうしても値段が高くなります。手軽な価格で熟成肉を味わってもらおうと豚肉に挑戦したところ、牛肉に負けない自慢の一品に仕上がりました」(今野さん)
実際に食べてみると、豚肉の柔らかさは残しながらも、身が詰まった感じがあり、噛むほどに香りと旨味が広がっていく。脂も少なくサッパリして、いくらでも食べられそうだ。
初めて訪れる人は「特選!熟成肉の2種盛り(100g☓2種)」で、牛と豚の熟成肉を食べ比べてみるとよいだろう。
スタッフが惚れ込んだイベリコ豚ステーキ
看板商品の熟成肉だけでなく、柔らかくジューシーなサーロイン、赤身のしっかりした食感が味わえるランプ、牛ハラミ、牛フィレなどのステーキのほか、若鶏の唐揚げ、イタリアンソーセージ、ピザなどのメニューも揃えている。
なかでも、同店スタッフがプライベートでも食べに来るという一品がイベリコ豚ステーキだ。調理方法は下味を付けたイベリコ豚を真空パックにした後、じっくりと低温調理する。
「加熱時間が重要で、何度となく失敗しました。イベリコ豚の赤身は霜降り牛のようにサシが入り、脂の甘さが特徴です。低温調理を行うと、柔らかな食感になり、サッパリとした味わいになります。味付けの決め手となるスパイスを探し出すのもひと苦労でした」
人気メニューを開発した綿貫彰さんは、懐かしそうに当時を振り返る。綿貫さんはソムリエでもあり、さまざまな肉料理に合うワインを揃えている。
「肉料理=赤ワインのイメージが強いですが、イベリコ豚は白ワインとの相性も抜群です。赤ワインなら、フランスのブルゴーニュ地方で180年以上の歴史を誇るワイナリー“アルベール・ビショー”のピノ・ノワールをぜひ。赤ワインのブドウ品種ではカベルネが有名ですが、ピノ・ノワールも香り高く素晴らしい。高級ワインではないのでお財布にも優しいですよ」
綿貫さんはもちろん、ホールスタッフもワインに精通しているので、相談してみるのもおもしろそうだ。熟成肉とワインのマリアージュを楽しむコツは、口の中で熟成肉をよく噛んで香りや味わいを感じ、その余韻が消える前にワインを含むこと。ゆったり、一口を味わってみよう。
日替わりサービス付きの平日ランチで満腹に
この店でもう一つ特筆したいのが平日ランチだ。時間は11時30分から17時まで。ランチ(昼食)を通り越して、夕方までがんばっているのだ。しかも、山形県酒田市産のひとめぼれを土鍋で炊いたご飯とスープは食べ放題! 月曜はステーキ50g増量、火・水曜はたまごかけ御飯(卵2個)、木曜はカレーの食べ放題、金曜はソフトドリンク1杯無料のオマケも付く。
そして、ランチメニュー限定なのがハンバーグ。オリジナル配合のひき肉を使い、オーブンで短時間、火を通すことで肉汁を閉じ込めてある。ナイフで切ればまさにあふれ出す感じで、歓声が上がること間違いなし。下味に数種類のスパイスを効かせてあり、そのままでもおいしいが、和風、デミグラス、マスタードの中から好みのソースを1つ選べる。
訪問時は、大学生とおぼしき若い男性グループや、大柄の外国人観光客たちもニコニコ顔でステーキやハンバーグをほお張っていた。その笑顔の一つひとつが、店の実力を表す証に感じた。
取材・文・撮影=内田 晃 構成=アド・グリーン