和食料理人だった店主が、浅草橋で洋食屋を始めた理由とは?
2023年で創業26周年を迎える、浅草橋の老舗洋食店『気まぐれキッチン石橋』。ビルの地下1階にひっそりと佇む洋食店は、一見さんは少々入りにくいようにも思える。
しかし『気まぐれキッチン石橋』は、地元の人をはじめ、古くからの常連さんで常に賑わう、浅草橋きっての人気洋食店なのだ。
「うちは確かに常連さんが多いけど、新規のお客さんもたくさん来るよ。口コミの影響もあるけど、常連さんが新しいお客さんを連れて来てくれるの。お店がずっと続いているのは、本当にお客さんのおかげ」と語る石橋さん。
生粋の洋食料理人なのかと思いきや、意外にも石橋さんは和食料理出身なのだとか。
「最近だと天然鮎のコンフィをよく作るけど、ぼくは和食出身だから、魚の皮が剥けちゃうのが嫌で。だから、うちのコンフィは最初に魚の皮目だけ焼くの。そうすると、皮が剥けないきれいなコンフィができる」。
和食の習わしを巧みに洋食に活かせるのは、長年和食料理人として厳しい修業を積んできた石橋さんだからこそ成せる技だ。
聞けば1997年頃、奥様の親族が営んでいたとんかつ屋の跡地に『気まぐれキッチン石橋』をオープンさせたという。
長年和食に携わってきた石橋さんが、なぜ洋食店を営もうと思ったのだろうか?石橋さんの答えは、驚くほどシンプルなものだった。
「知らないことをやりたかった。だから洋食の方が面白いと思って」。
今も昔も変わらぬ店主の好奇心とチャレンジ精神があるからこそ、『気まぐれキッチン石橋』は、食の激戦区で20年以上もの間愛され続けているのであろう。
高級店顔負けのクオリティ!店主のこだわりが詰まりに詰まったハンバーグとポークソテー
『気まぐれキッチン石橋』では、10種のメイン料理から好みの2品を選べる、組み合わせ自在のお得なランチセットがいただける。今回はお店で一番人気という、ハンバーグとポークソテーのランチセット1100円を注文した。
一見ボリューミーなランチに見えるが、男性だけでなく女性客からの注文も多いのだそう。
ナイフを入れると、ジューシーな肉汁がここぞとばかりに溢れ出すハンバーグ。インパクトのある見た目とは裏腹に、食感はふわふわと柔らかで非常に繊細だ。肉は店主自らが挽き、下味にはデミグラスソースを使っているのだとか。噛めば噛むほどに豚肉の旨味を堪能できるポークソテーは、店主こだわりの山形豚を使用。
「本当に美味しい肉は、肉の油がほのかに甘い」と語る石橋さん。確かに、この店のポークソテーは、ソースをつけずともお肉そのものから上品な甘みが感じられる。
これまで四元豚やマンガリッツァポークなど、あらゆる豚肉でポークソテーを試してきたそうだが、最終的に行き着いたのが現在使っている山形豚とのこと。食材にはとことんこだわる石橋さんだが、風味高く繊細な肉質の山形豚を使うことで、ようやく納得のいくポークソテーが提供できるようになったそうだ。
濃厚なソースが肉の旨味を引き立て、思わずご飯が進む。
お客さんを魅了する、芯のある「気まぐれ料理」が楽しめる唯一無二の洋食店
「この間の宴会ではせり鍋を用意してね、あと最近はお客さんが食べたいっていうから、鮎を使ってリゾットを作ったよ」。今回の取材中、石橋さんの口からはメニューにはない料理名が次から次へと出てくる。
しかも料理のジャンルは洋食に留まらず、刺し身や鍋など多岐にわたる。
どうやら『気まぐれキッチン石橋』の「気まぐれ」には、「お客さんの気まぐれな要望にいつでも応えられる店でありたい」という、石橋さんの強い想いが込められているそうだ。
過去にはお客さんに「おいしい鶏料理が食べたい」とリクエストされ、夜中の3時に市場の鶏屋に足を運び、その道のプロから鶏の捌き方を教えてもらったこともあるそう。石橋さんの料理に対するこだわりは、留まるところを知らない。
出てくる料理は気まぐれでも、どの料理にも芯のあるブレない美味しさを感じるのは、石橋さんの揺るぎない信念があるからだろう。店主こだわりの一品を味わいに、浅草橋を訪れた際は、ぜひ一度『気まぐれキッチン石橋』に足を運んでみてはいかがだろうか。
17:30〜23:00LO/定休日:土・日・祝/アクセス:JR・浅草橋駅より徒歩2分
取材・文・撮影=杉井亜希