先代の想いを継ぐラーメン店

立川駅の北口から歩くことおよそ13分。駅前からほどよく離れた閑静な路地にある『麺や★Fuji』は、2019年の3月にオープンしたラーメン店。看板には「ラーメンと日本酒のお店」という魅力的な文字が書かれている。

カウンターとテーブル席を配した、温かい雰囲気の空間。
カウンターとテーブル席を配した、温かい雰囲気の空間。

店内に入ると、店主の石川久美子さんが「いらっしゃいませ」と明るく出迎えてくれた。厨房に立つ料理長は息子の達也さん。店は親子2人で切り盛りしており、いつも温かい空気に包まれている。この日来店したタイミングでは、店の常連客と久美子さんが日本酒トークに花を咲かせていた。

写真右が代表の石川久美子さん、左が息子で料理長の達也さん。
写真右が代表の石川久美子さん、左が息子で料理長の達也さん。

石川さん親子がこの店を始めたきっかけは、『麺や★Fuji』を創業した先代の存在にあった。

「立川の栄町で割烹料理店を営んでいた平山さんという方がいて、その息子さんがお父さんの割烹料理店の跡地に初代の『麺や★Fuji』をオープンしました。平山さん親子とは昔から家族ぐるみで仲が良く、私はお店のスタッフとしても長年お世話になっていました」と久美子さん。

そんななか現在の場所に店を移転して一年も経たず、店主の平山さんが病気のため30代の若さで亡くなった。久美子さんは、昔からの付き合いがあり店も移転オープンしたばかりだったため、思い切って自分が引き継ごうと決心。当時大学生だった達也さんも久美子さんとともに店を引き継ごうと決めたのは、先代との信頼関係があったからこそ。

達也さんは「先代は僕にとって兄貴のような存在で、万が一のときに備えて僕にラーメンの作り方を教えてくれていたんです。本人から店を継いでくれと言われたわけではないけど、いつの間にか“これはやるしかねぇだろ!”という気にさせられていましたね」と語る。

店名やラーメンの味は先代の想いを受け継ぎながら、久美子さんがもともと好きだった“日本酒”の要素を掛け合わせることで新生の『麺や★Fuji』が誕生した。

あっさり好きにも刺さる、コク深い白湯スープ

この日は白ふじらーめん(並)780円に、味玉120円をトッピングした。
この日は白ふじらーめん(並)780円に、味玉120円をトッピングした。

看板メニューの白ふじらーめんは、先代から受け継いだ秘伝の白湯スープを味わえる一杯。かつては音楽フェスの“フェス飯”としても常連だった『麺や★Fuji』のラーメンは、真っ白なスープで満たされた器を、定番の具材が彩る安定感抜群のヴィジュアル。初めての来店にはもってこいのメニューだ。

豚と鶏の旨味が詰まった秘伝の白湯スープ。手もみ風の中太麺もスープによく絡む。
豚と鶏の旨味が詰まった秘伝の白湯スープ。手もみ風の中太麺もスープによく絡む。

豚骨と鶏ガラ・げんこつを18時間炊き、2週間寝かせて熟成させた塩だれを合わせた白湯スープは、深いコクがあるのに後味は非常にさっぱりしている。その理由は久美子さんいわく「うちのラーメンは余分な脂はとりのぞいて、あっさりだけどコクがある味わいを目指しているんです」とのこと。白湯スープのいい部分を抽出し、罪悪感は少なめで食べられる貴重な一杯だ。

そんな白ふじらーめんと並んで人気なのが赤ふじらーめん850円(並)。白ふじらーめんと相反した真っ赤なスープは、白ふじらーめんのスープをベースに香ばしい自家製ラー油を加えてアレンジした一品。マイルドな辛さがクセになると評判だ。

最近リニューアルしたというチャーシューは、達也さんのアイディア。肉のおいしさをダイレクトに感じられる、存在感のあるチャーシューだ。

「以前は豚バラのチャーシューを使っていました。バラ肉はおいしいけれど、脂が多い分、苦手な方だとまるまる残してしまうことがあって。肩ロースに変えてみたら、みなさん気に入ってくれています。低温調理にして、味も濃くしすぎないことで肉々しいチャーシューに仕上げています」と達也さん。

さらに「基本は先代から教わったものを引き継いでいますが、同じことをやるだけではなく、自分なりに“こうした方がいいんじゃないか”と感じるところは変えさせてもらっています。だから白ふじらーめんも、最初の頃よりどんどんおいしくなっていると思いますよ」と笑顔で語ってくれた。

一度提供して好評だった限定の特製味噌らーめんが再び登場!
一度提供して好評だった限定の特製味噌らーめんが再び登場!

そんな達也さん渾身のメニューが、期間限定で登場する限定ラーメンだ。これまでに、タンメンや豆乳カルボナーラ、トマトらーめんなど数々の個性豊かなメニューが登場してきた。スープとタレは白ふじらーめんをベースにしながら、達也さんが研究と試作を繰り返し、多彩なアイディアが盛り込まれている。今ではこの限定ラーメンを目当てに訪れる人もいるのだとか。

現在は、特製味噌らーめん(並盛 1000円、大盛1100円)を提供中。パンチがきいた特製味噌ダレのスープに、炒め野菜の旨味が溶け込んだ一杯。2023年12月27日までの期間限定なので、気になる人は駆け込んでみよう。

日本酒の飲み比べも楽しい!

店のもうひとつのコンセプトとなっている日本酒は、日本酒好きの久美子さんが全国各地からセレクトした銘柄がそろう。その日によって、岩手県の「赤武」や埼玉県の「花陽浴」といった、辛口からフルーティーまで幅広い地酒が数種類ラインナップする。日本酒について知りたいことがあれば、久美子さんに尋ねてみよう。

「いろんな日本酒を飲んでみたい」という人は、お試しサイズ(60ml)280円~があるほか、お試しサイズを3種類飲み比べられる飲み比べセット1000円~があるので試しやすい。日本酒以外にもビールやハイボール、レモンサワーなど各種アルコールがあるのもうれしい。

また、毎年春と秋の終わりの年2回「日本酒の会」という貸し切りイベントが開催される。ラーメンは一切提供されず(!)生粋の日本酒好きが飲んで語るイベントだ。日本酒好きの人もちょっと興味のある人も、気軽に参加してみてはいかがだろう。

カウンター席は、しっぽりと飲める雰囲気。
カウンター席は、しっぽりと飲める雰囲気。

日本酒と一緒に食べたいおつまみは、全てオリジナルメニュー。季節の焼き魚や特製のポテサラ、玉子焼きなど、居酒屋顔負けの本格的な品ぞろえ。締めにラーメンも食べられるので一石二鳥かも?

「ここはラーメンを食べている方とお酒を飲んでいる方が共存するお店です。ラーメンの方もお酒だけの方も、どちらもお気軽にお越しください!」と久美子さんはニコリ。通えば通うほど、まるで親戚の家のようになじんでいく『麺や★Fuji』は、いろんな場面で足を運びたい一軒だ。

住所:東京都立川市高松町2-25-31 1F/営業時間:11:30~14:30LO・17:30~22:00LO/定休日:月/アクセス:JR立川駅から徒歩13分

取材・文・撮影=稲垣恵美