銀座の路地裏に潜む海の家をイメージした『ウミノイロ』

地下鉄東銀座駅3番出口から晴海通りに出ると、ツアーとおぼしき観光バスがたくさん走っていて、まあ外国人の多いこと! しかし、ランチタイムが落ち着いていた時間帯だったこともあるのだろう、一本路地に入ると人はまばらだ。人混みから逃れてほっとひと息つき、海の家のような外観の『ウミノイロ』にたどり着いた。

店頭にはなぜかブランコと風車。なぜなんだっ⁉︎
店頭にはなぜかブランコと風車。なぜなんだっ⁉︎

カフェのようなPOPな雰囲気とは裏腹に、どうやら絶品のラーメンを出すらしい。店内に入ると、番頭(店長)の岩井哲人さんとスタッフの髙橋梨々子ライラさんが、「いらっしゃいませ〜!」と元気に声をかけてくれた。

とても気さくな岩井さんとオープン当初からここで勤務する髙橋さん。お2人とも潮風が似合う!
とても気さくな岩井さんとオープン当初からここで勤務する髙橋さん。お2人とも潮風が似合う!

『ウミノイロ』は、豊海町にある海鮮丼の人気店『マグロ卸のフィッシャリーズテラス』の姉妹店だ。「勝どき駅近くの豊海埠頭にある本店では海鮮丼が人気なんですけど、冬は寒くてなかなかお客さんが来ないんですよ。それならあったかいもんを作ろうって、ラーメンを提供しはじめたらちょっと評判になってきたので、もっとたくさんの人に食べていただこうと2020年にこの店を出しました。でもね、ラーメンだけだと心配だから(笑)、本店で人気の海鮮丼も提供してるんですよ」。

店内にはサーフボードが。てっきり岩井さんのものかと思ったら「自分はサーフィンやらないっす」とのこと。
店内にはサーフボードが。てっきり岩井さんのものかと思ったら「自分はサーフィンやらないっす」とのこと。

オープン当初は通り掛かりの人たちが「ここ何屋?」と話す声が聞こえていたそう。確かに店構えだけ見るとタピオカでも飲めそうなカフェ風だが……。「本店が都会のリゾート風なので、この店も銀座の街にある海の家っていうことで(笑)。居抜き物件だったので、オーナーがいろいろ好きなものを持ってきたりしてDIYしました」。

白を基調にした店内。客席はカウンターのみ。
白を基調にした店内。客席はカウンターのみ。

岩井さんはもともと河岸(かし)で働いていて、マグロ問屋のほうで交流があったのをきっかけに本店でバイトをはじめ、2018年に社員になった。

「河岸にいたので魚は捌けるんですけど、飲食店のキッチンは初めてだったので料理長にイチから教わりました。この店はコロナ渦でオープンしたのでどうなるかわからなかったけど、今は固定客がついて。平日のランチは近隣で働く会社員の方たちを中心に並んでいただけるようになりました。うれしいんですけど、オープン当時からの常連さんには怒られちゃって(笑)。申し訳ないですねぇ」。

麺や丼はテイクアウトを実施しているから、オフィスで食べるのもアリかも。ゆっくり食事したいなら土曜が狙い目だ。

赤身ならではのコクと旨味が凝縮したマグロ丼

券売機の横に魅力的な写真が掲示されていた。山盛りになったトロたく丼もフォトジェニック!
券売機の横に魅力的な写真が掲示されていた。山盛りになったトロたく丼もフォトジェニック!

店頭にあるメニューを見ながら、何をいただいてみようか悩んだ。ラーメンを食べたいけれど、マグロ卸問屋のマグロを使った人気の丼が食べられるなら、ぜひいただいてみたい。

髙橋さんが「マグロを使った丼は赤身と、ネギトロの2種類があります。ネギトロはトロたくにもアレンジ可能ですよ」と補足してくれたが、とてもこんなに食べられそうにない。ラーメンと丼がそれぞれハーフサイズになった、ハーフソバ&ミニ丼セット1600円をオーダーした。

せっかく来たからラーメンもマグロ丼も欲張りたい。
せっかく来たからラーメンもマグロ丼も欲張りたい。

ミニ丼といいながら、ご飯は一般的なお茶碗に1杯分くらいはある。上に乗るマグロは、当然本店で使っているのと同じマグロだ。「そのときで少し変わるんですけど、だいたいバチマグロかインドマグロです」と岩井さん。

マグロの切り身に醤油ベースのつけだれをくぐらせ、盛り付ける。
マグロの切り身に醤油ベースのつけだれをくぐらせ、盛り付ける。

丼に赤身の切り身を4枚乗せて完成だ。ツヤツヤしたマグロがすっごくおいしそうだけど、今はまだお預け。続いてセットのミニソバに取り掛かる。

とろ〜りと濃い! 海老を味わい尽くせる濃厚海老そば

ラーメンのテイストは紫(江戸前の貝の旨味醤油ソバ)、赤(濃厚海老ソバ)、白(江戸前の貝の旨味塩ソバ)の3種類。

POPをじっくり読み込み、赤(濃厚海老ソバ)に決めた!
POPをじっくり読み込み、赤(濃厚海老ソバ)に決めた!

テーブルの前に置いてあったPOPにそれぞれの味の特徴が書かれている。“濃厚なビスクスープに鶏白湯を合わせてラーメン風に仕上げた”という文言に惹かれ、赤を注文した。本店の料理長が2年近くかけて作ったレシピの海老そばをこの店でも提供しているのだとか。

大量の赤海老の頭で出汁をとる。
大量の赤海老の頭で出汁をとる。
煮込んだ海老の頭をブレンダーで粉砕し、濃厚な海老のエキスを抽出。これを濾(こ)してサラサラのスープにする。
煮込んだ海老の頭をブレンダーで粉砕し、濃厚な海老のエキスを抽出。これを濾(こ)してサラサラのスープにする。
特製の合わせ味噌などを加え、ビスクのような濃厚海老スープになる。おたまですくった様子からもトロッと濃厚そうな感じだ。
特製の合わせ味噌などを加え、ビスクのような濃厚海老スープになる。おたまですくった様子からもトロッと濃厚そうな感じだ。
赤や緑、オレンジに茶色と色合いも食欲をそそる。ラーメンと丼が揃い、いよいよ実食〜。
赤や緑、オレンジに茶色と色合いも食欲をそそる。ラーメンと丼が揃い、いよいよ実食〜。

「麺が伸びやすいですよー」と岩井さんが声をかけてくれたので、撮影も早々に濃厚海老ソバに着手。スープを一口いただくと、赤味噌やいろんな調味料を入れた自家製のブレンド味噌が味を下支えしているが、やはり海老の風味が先に立つ。まろやかでぎゅっと濃縮した海老の風味が口のなかで海老反っているぞ!

鶏胸肉を低温調理したハーブが香るチャーシューと、ほどよい酸味のバルサミコペースト。脱皮したてのソフトシェルシュリンプは頭から尾まで食べられる。
鶏胸肉を低温調理したハーブが香るチャーシューと、ほどよい酸味のバルサミコペースト。脱皮したてのソフトシェルシュリンプは頭から尾まで食べられる。

「海老の風味を強調させるために、スープを取ったあとの海老殻を乾燥させて細かく砕いた粉を加えています。ちょっと舌触りがザラザラするんですけど、それも狙いです」という。おいしくってサステナブルだなんて素晴らしい! パツンとした歯ごたえが心地いい細麺は、ほどよくスープを持ち上げてくれる。

レンゲでスープをすくうと、エビの殻の粒子がわかる。海老づくしのスープだ。
レンゲでスープをすくうと、エビの殻の粒子がわかる。海老づくしのスープだ。
麺を半分くらい食べたら旨辛香味オイルを加えて味変だ。個人的な感想だが、見た目より辛くない。
麺を半分くらい食べたら旨辛香味オイルを加えて味変だ。個人的な感想だが、見た目より辛くない。

「うちはメニューごとに麺を変えているんです。オーナーがラオタなんでけっこう凝ってるんですよ。ちょっと変なところでこだわりが入ってくるんですよね(笑)」。ラーメン好きとしては、そんなこだわりも大歓迎。うーん、濃厚海老ソバはフルサイズも食べてみたくなるなあ。

あらかた食べ終えて、お次はマグロ丼へ。

マグロの赤身は、あっさりとしているイメージがあるが、マグロ本来の旨味やコクが味わえる。
マグロの赤身は、あっさりとしているイメージがあるが、マグロ本来の旨味やコクが味わえる。

個人的には脂が乗ったトロよりも、ダンゼン赤身派だ。丼の上に乗ったマグロの赤身を一切れ食べてみると、ねっとりとした舌触りで旨味がある。さっと赤身を潜らせた醤油ダレと、やや塩が利いた酢飯が赤身の味を引き立てているぞ。

海老ソバとの相性はもちろんだけど、醤油ソバや塩ソバとも相性が良さそう。岩井さんの「塩ソバはホンビノス貝の出汁でうまいですよ」という一言に再訪したくなった。今度は塩とマグロ丼のハーフソバ&ミニ丼セットにしてみようかな。

住所:東京都中央区豊海町3-13/営業時間:11:00〜14:30・17:00〜19:30(金・土は〜21:00)/定休日:月・火/アクセス:地下鉄大江戸線勝どき駅から徒歩15分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢