善重寺「聖徳太子像」【群馬】
年に一度だけ会える秘仏
「会えない時間が愛育てるのさ」とは郷ひろみの往年の曲の歌詞。会えない時間が長くなる仏像といえば、公開時期が限定されそれ以外は拝観することのできない「秘仏」です。
茨城県水戸市の善重寺には2月22日の年に1度、しかも1時間しかご開帳(公開)されない「聖徳太子像」が祀られています。
当日は、この日を待ちに待った人たちが全国から駆けつけ行列も。
16歳の聖徳太子だというその姿は、無垢な少年のような美しさの奥に、芯の強さと神聖さを宿し、仏教徒でなくても手を合わせたくなるような顔立ちをしています。
鎌倉時代の作で、作られてから約800年も経っているのに、鮮やかに当時の色彩が残っているのは、秘仏として大切に守られているおかげ。
ほんの限られた時間だけの逢瀬ですが、その為に水戸へ出かけてみてはいかがでしょう。
安倍文殊院「文殊菩薩像」【奈良】
ナンバーワンのイケメン
東寺の「帝釈天」や興福寺の「阿修羅」など、”イケメン”と言われる仏像が日本にはいくつか存在します。
そんな中で、私ツバキングが最もイケメン仏像だと思うのが、奈良県安倍文殊院の「騎獅文殊菩薩像(きしもんじゅぼさつぞう)」。
切れ長の目に、均整のとれた鼻や口。表情は強い意志を持ちながらも涼やかな雰囲気が漂っています。このお顔と表情に私は、心を撃ち抜かれ何十分も文殊菩薩を見上げ続けました。
いくつもの名作を世に送り出した大仏師・快慶の作品です。
そのイケメンっぷりをブーストさせているのが、大きな獅子の豊かな表情と周りを囲む御付きの方々のチーム感。
こうした一団で祀られる文殊菩薩を「渡海文殊」といい、雲海を渡って私たちを助けにたり智慧を授けたりしてくれる様子を表しています。
まさに、ヒーローのような存在!たまりません!
常楽院 ふしぎな仏像【東京】
半分鬼で半分仏という奇抜な仏像を祀る
京都や奈良に比べれば、東京はあまり仏像のイメージが強くはありません。しかし、ぜひご紹介したい不思議な仏像が調布市の常楽院に所蔵されています。
左が仏で右が鬼という見たこともない姿です。約50cmほどの大きくないサイズで江戸時代の作だとご住職。
半分は仏の姿であるのに、不思議と恐ろしいような感覚にも襲われます。
かつて専門家が文化財調査に来た時にも、こうした仏像は他に例がなく、制作された意図もわからなかったそう。
左手の形を見ると、流れるような衣紋の袖口から出る手が、人差し指と親指を輪にした印を結んでいることから、阿弥陀如来であることがわかります。
昭和世代には、キカイダーやあしゅら男爵、半分が谷村新司でもう半分が研ナオコという清水アキラのモノマネを連想する方もいるような、不思議な仏像です。
應仁寺「五劫思惟阿弥陀如来」【愛知】
苦行の辛さがビシビシ伝わる仏像に息を呑む
「五劫思惟(ごこうしゆい)阿弥陀如来」という像をご存知でしょうか。京都の金戒光明寺などが有名ですが、五劫という1万年でも足りないほどの長い時間、悟りと民衆を救うことについて思惟(深く考えること)していた阿弥陀如来で、時間の長さを表現するためにアフロヘアのように髪が伸びた形で表現されます。
しかし、愛知県碧南市應仁寺の「五劫思惟の像」は一味もふた味も違います。
ガリガリにやせ細り、さらにその肉体は真っ黒。苦悩の表情を浮かべているようにさえ見えます。
ひとつのテーマについて、何万年も思考を続けるということはまさに苦行です。
私の推測では、その表現をファニーなアフロヘアではなく鬼気迫る苦行の姿に表したのではないかと思います。
また、「阿弥陀如来」とは記載がされていない点から、阿弥陀が悟りを開く前の「法蔵菩薩」という存在だった時の思惟の様子を表していると考えられています。
いずれにしても、インパクトの強い仏像です。
浄土寺「阿弥陀三尊立像」【兵庫】
マジ極楽!な空間に立つ快慶の傑作
平安~鎌倉時代にかけて「臨終の際に、阿弥陀如来が迎えに来てくれて極楽に連れて行ってくれる」と信じられました。
阿弥陀如来の迎えに来てくれる様子が最も感じられるのが、兵庫県小野市の浄土寺です。
同寺に安置される「阿弥陀三尊立像」は、あの大仏師・快慶の作。
高さ5.3mを誇る大きさと、快慶の技術が注ぎ込まれた彫刻の素晴らしさが目を引きます。
こちらでは、周囲360度どこからでも仏像を拝観することができますが、見逃してはいけないのが横からの姿。三尊がわずかに前傾していることがわかります。
これは、三尊が今まさに迎えに歩み出そうとしている表現なのです。
そして、このお寺に行って欲しい時間帯は絶対に「夕方」!
三尊の後方から夕日が差し込む作りになっており、その光の中に仏像が浮かび上がります。さらに朱塗りの柱や梁に光が反射すると、堂内が赤く染まっていくのです。
阿弥陀如来は西の彼方にある極楽浄土に居ると経典にありますが、そこから迎えに来る瞬間が、浄土寺で感じられるのです。
キャラクターの濃い仏像ばかりだったと思います。
この記事から「好みの系統」を見つけていただいて、お寺へのお出かけや旅に役立ててください!
写真・文=Mr.tsubaking