前列に奥秋亜矢さん(『西荻案内所』運営者)、後列左から奥秋圭さん(同)、松岡美由起さん(インド料理店『ガネーシャガル』オーナー)、平野亜紀子さん(まちづくり関連サポーター)、福田倫和さん(『暮らしのいろいろ ていねいに、』店主)
西荻窪駅南口から徒歩4分の神明通り沿いにある『西荻のことビル(ことビル)』。軒先ではフリーマーケット、1階では飲食や物販、整体をする人らがにこやかに客と話している。内装は現代的なカフェながら、雰囲気は昭和の商店街のようだ。「ここは主に西荻で暮らしたり、商いをする人たちが共同出資で会社を作り、十数人で運営しているビル。メンバーは本業の傍ら、週に1回ミーティングを行い、交代で“日直”としてここを訪れ管理しているんです」と福田倫和さんは話す。
2020年、西荻窪の道路拡幅の問題を考えるため、十数人で『西荻のこと研究所』を発足したことが今につながる。「道路が拡幅したとしても、小さな商店がなくなり今のにぎわいが失われることは阻止したい。僕らができることを考えたとき、大きなスペースを借りて空間を仕切り、手が届く賃料で“作り手”に貸すという案に行きつきました」(福田さん)。
飲食や物販、整体も。西荻窪のプレーヤーをサポート
32年続いた手芸用品店「カントリーキルトマーケット」が閉店すると聞き、同店が入居していたビルを1棟借りることに。有志で「株式会社西荻のこと」を作り、建物を「西荻のことビル」と命名。1階は日替わり出店の『西荻のことカフェ(ことカフェ)』、2階には多目的スペースの『西荻シネマ準備室』と「カントリーキルトマーケット」の元スタッフ3人が開いた新しい手芸用品店『bleu de nimes(ブルー・ドゥ・ニーム)』、3階にはオフィスが入居。「シェア施設としての経験を蓄積できたら、街に変化があったとしてもこのノウハウを活かせるんじゃないかと。そのためにさまざまなことを実験中」と奥秋圭さん。近所の小学生が自分で育てたアサガオの苗を100円で販売したり、手芸部などのサークル活動を行ったりと、『ことカフェ』は老若男女が集まる場になっている。
最後に、西荻らしさについて聞いてみた。「“人がおもしろい”に尽きる。『ことビル』は西荻のプレーヤーをサポートするがコンセプトなので、出店者のやりたいことを応援していきたい」と福田さん。「西荻はチャレンジできる場所。今も昔も、新しく入ってきた人を地域の人がサポートしながらできた街です」と奥秋さんが言うと、「なれ合わず、お互いのやりたいことを尊重する。だけど、独立独歩ゆえにまとまらない(笑)。それが西荻の良さじゃない?」と妻・亜矢さんが楽しそうに答えてくれた。
『西荻シネマ準備室』
『ことビル』2階には『西荻シネマ準備室』なる多目的スペースが。「未来の西荻を空想するイベントをやったとき、映画館がほしいという意見が多くあり、その思いを込めて命名しました」(奥秋圭さん)。生花教室やヨガスタジオなどを行い、ときどき上映会も。『西荻のこと研究所』の拠点でもある。
『bleu de nimes(ブルー・ドゥ・ニーム)』
珍しいUSAコットンやチロリアンテープを一から仕入れ販売。ワークショップも人気。閉店した「カントリーキルトマーケット」に15年勤務した中村さんは「大好きな職場がなくなった寂しさで一念発起。地元の方に喜ばれてうれしい」。
・11:00~17:00。木~日のみ営業。
・☎03-5941-8131
『西荻のことビル』店舗詳細
取材・文=川端美穂 撮影=佐藤侑治
『散歩の達人』2023年8月号より