眠らない街・歌舞伎町らしいラーメン居酒屋

朝から晩までネオンがギラギラ灯る歌舞伎町を1人で歩くのは、いくつになっても緊張する。さくら通りのゲートをくぐり、店を探すが看板がありすぎて目がチカチカしてくる。ズラリと並ぶ看板の中から『麺松 歌舞伎町店』見つけ出すのになかなか難儀した。

さくら通りを入り、右手の並びを見ながらすぐの雑居ビル。やきとん屋さんの2Fに『麺松 新宿歌舞伎町店』がある。龍のイラストの看板だ。
さくら通りを入り、右手の並びを見ながらすぐの雑居ビル。やきとん屋さんの2Fに『麺松 新宿歌舞伎町店』がある。龍のイラストの看板だ。

エレベーターで2階に上がると、外の看板とは逆で擬人化した野菜たちが丼を囲むファンシーな看板がある。期待に胸を膨らませながら店に入ると、個室がズラッと並んでいて、まるでカラオケ店やマンガ喫茶みたい。へぇー、面白い。

外の看板とは雰囲気が違い、ファンシーな食材たちが丼の周りで大はしゃぎしている。
外の看板とは雰囲気が違い、ファンシーな食材たちが丼の周りで大はしゃぎしている。

仕事柄、いろいろな飲食店に行かせていただくのだが、こういうお店は初めてだ。大将の松下裕利さんに話を聞いた。

「この店は、さいたま市北区で2009年にオープンした『初代 麺松』の姉妹店で、2023年5月にオープンしました。『麺松』では、ジャガイモとタマネギを主体に大山どりと豚骨を加えたベジポタスープの“体に優しいら〜めん”を追求してきました。現在、人員不足などの関係で『初代 麺松』は休業中なのですが、歌舞伎町店で同じ味を提供しています」。

もともとは別の業界で働いていた松下さんだったが、ラーメン好きが高じて独学でラーメンの道へ。自分の舌と目を頼りにこの味を作り上げたという。

個室だと閉塞感がある人にはカウンターがおすすめ。
個室だと閉塞感がある人にはカウンターがおすすめ。

個室の店が意外と多い⁉︎ 歌舞伎町で個室がウケるわけとは

松下さんに促され個室の中に入ってみた。見た目よりもゆったりとしていて、向かいに座った松下さんとの距離感もほどよい感じだ。以前ここはチェーン系居酒屋で、居抜きだったためテーブルをリメイクして使用しているという。

歌舞伎町に個室店が多い理由については、松下さんがこう分析する。

「歌舞伎町という土地柄、水商売の方が多いんですよね。そういう方がたとえばアフターで使った時に、知ってる人とあんまり顔合わせたくないっていうのもあると思うので、個室の方がいいんじゃないのかなと思いました」と松下さんは語る。

個室だと人の目を気にせずゆっくりできる。
個室だと人の目を気にせずゆっくりできる。

歌舞伎町には個室の居酒屋が割と多いのは、そういった事情があるのかもしれない。個室の店は比較的高価な印象があるが、『麺松』は1杯1000円ちょっとで食べられる庶民的なラーメンというところが新しい!

「そうですね、個室のラーメン店はまだ珍しいと思いますね。歌舞伎町全域を把握しているわけではありませんが、この店のほかに1、2軒くらいだと思います」。

へぇー、そうだったんだ!

個室といってもドアの一部は格子になっていて、外から室内の様子が見られる。
個室といってもドアの一部は格子になっていて、外から室内の様子が見られる。

スープを完食しても胃もたれしないベジポタつけ麺

それでは、自慢のラーメンをいただいてみよう。注文は個室内にある備え付けのタブレットで行う。メニューのメインはつけ麺、ラーメン、肉汁つけ麺の3つ。餃子、チャーハンといったラーメン屋の定番メニューのほか、サーモンとアボカドサラダや鶏とカシューナッツ炒めといった居酒屋メニューまで網羅。ちょい飲みもガッツリ飲みも自在だ。

「メインはラーメンですけど、居酒屋でもあるので。10万円のアルマンドゴールドやドンペリといった歌舞伎町らしいお酒も置いています」。

ドリンクは1杯290円のオレンジジュースから1本10万円のアルマンドゴールドまで幅広く用意。
ドリンクは1杯290円のオレンジジュースから1本10万円のアルマンドゴールドまで幅広く用意。

ベジポタスープを使用したラーメンとつけ麺は素材からこだわっている。ジャガイモは北海道産、タマネギは淡路島産を厳選。

「そのなかでも特にタマネギにはこだわりたいという思いがありました。いろいろ食べ比べたところ、いちばん私の舌にあった減農薬でタマネギを作っているという2525(ニコニコ)ファームさんのものに決めました。甘みも違うし、肉厚だし。うちはスープにするので形がなくなってしまいますけど、できればそのまま食べていただきたいくらいおいしいんです」。

注文はタブレットで注文。メニューの写真をタップするとコメントが表示されるので参考にしよう。
注文はタブレットで注文。メニューの写真をタップするとコメントが表示されるので参考にしよう。

野菜をじっくり煮込んだスープに豚骨や鶏でとったスープと合わせているそうだ。いかにもおいしそう! 「スープを全部飲んでも胃もたれしない」と、松下さんも太鼓判を押すベジポタつけ麺1100円をオーダーしてみた。また、「そうそう、半チャーハンはオーダーが入ってから中華鍋であおって作ってるんですよ」というので、追加オーダーする。

丁寧に仕込んだ豚バラチャーシューと、やわらかい穂先メンマ、シャキシャキの水菜をトッピングして完成だ。
丁寧に仕込んだ豚バラチャーシューと、やわらかい穂先メンマ、シャキシャキの水菜をトッピングして完成だ。

ほっかほかの湯気をたてながら、ベジポタつけ麺が筆者のテーブルにやってきた。わぁ、おいしそう〜!

麺とスープのビジュアルもいい感じ。食欲をそそる!
麺とスープのビジュアルもいい感じ。食欲をそそる!
スープをすくってみた。いかにも濃厚そうだ。
スープをすくってみた。いかにも濃厚そうだ。

まずはスープをちょっと飲んでみた。野菜の甘みに鶏と豚骨の旨味が加わって、濃厚だけど口当たりはまろやかで後味はスッキリ。あら、確かにこれは胃に優しそう。

麺は菅野製麺所の若干ウエーブがかかった太麺で、小麦の香りも強め。もちもちと弾力があって、パワーのあるベジポタスープに合うなあ。「つけ麺をしめる時、夏場だと水がぬるいので必ず氷水を使うんですよ。しっかりしめないとこの歯ごたえが表現できません」と、松下さん。醤油をきかせた自慢の豚バラチャーシューもパンチがあって美味だ。

麺を食べ終えたらスープ割りをオーダーするのが定番。スープ割りのスープは、鶏と魚介のダブルスープで、香り付けに柚子を入れている。

太麺にベジポタスープがよくからむ。
太麺にベジポタスープがよくからむ。

半チャーハンは卵、チャーシュー、タマネギだけのシンプルな味で、昔ながらの町中華にあるような懐かしテイスト。

飲んだ後のシメに最適な半チャーハン。
飲んだ後のシメに最適な半チャーハン。

世の中にはいろんなおいしいものがあるけど、(あくまでも筆者の嗜好的には)結局、半チャンラーメンを超えられるものって少ないと思う。一晩で数百万の支払いをする人も、朝からしっかり働いた人も、『麺松 新宿歌舞伎町店』のベジポタスープがやさしい味わいで癒やしてくれる。1人ではちょっと怖かった歌舞伎町に新しい居場所ができました。

住所:東京都新宿区歌舞伎町1-6-5 新宿ゴールド第一ビル2F/営業時間:24時間営業/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢