ピエール瀧

1967年、静岡県出身。1989年に、石野卓球らと電気グルーヴを結成。音楽活動の他、俳優、声優、タレント、ゲームプロデュース、映像制作などマルチに活動を行う。
近著は「ピエール瀧の23区23時 2020-2022」(産業編集センター)。

脈々と続く黒いタイヤ群の景色

―― 遊具のほとんどが、廃材となったタイヤでできています。

パッと見ただけでも、連載タイトル「ファンキー公園」にふさわしい公園だわ。フリー、ファンキー、ファンタスティック全てある。ここはなんでこのタイヤ推しの仕上がりになったの?

―― 前回訪れた萩中公園を設立した際、古タイヤを使った遊具が子供たちに大変好評だったことから、タイヤだけを集めた公園を作ることになったとのことです。その数、約3000個。タイヤは自動車修理工場や運送事業者から寄付されたもの、とタイヤを寄付したブリヂストンのホームページに書いてありました。

なるほど。古くからあるっていうことはさ、タイヤを定期的に入れ替えてるってことだよね。いろんなタイヤにお目にかかれる面白さもあるな。これはトラック用、これは乗用車用とかさ。メーカーもブリヂストンだけじゃないよ。これはダンロップ、そっちはヨコハマタイヤ、こっちのはブリヂストンだな。こんな風にタイヤを半分地面に埋める遊具さ、俺が子供の頃は近所の公園とか学校の校庭とかに結構あったけどね。

今は転ばないようにとか、安全のためなのか、あんまり見かけなくなったけど、ここではバリバリの現役だね。しゃがんで目線を低くして見てみると最初に全体見た印象と変わるな。こうしてみると脈々と続く黒いタイヤ群の景色になる。すげぇキてるわ。背を低くしててみた方が面白いよ。小さい子は見通しが悪くてちょっと怖がるかもしれないけど、小学生はもうヒャッハーでしょ。あとさ、普通だとタイヤに色塗ってカラフルにしたくなるじゃんか。でも全然塗ってないとこがいいよね。あそこに青く塗ってあるやつはあるけれど、他は一切ないもんね。とにかく黒一色。

―― オブジェに使ってるタイヤに、挿し色が入ってるくらいですよね。

まったく前情報持ってなかったら「これはインスタレーションです」って言われたら信じそうだもん。あの怪獣のオブジェとかもさ、京浜東北線の車内から何気に目撃しちゃったらすげぇ気になってたまらないだろうね。しかしここはマジで子供のテンション爆アガる公園だと思うわ。実生活とは無縁の超異空間だもんな。

このジャングルジム風の遊具の段差とかもさ、タイヤをはめ込むのを前提にデザインして作られてるよね。

手すりの塗装が両手の位置でハゲてる。ここをカタパルトとして、たくさんの子供がバーン!て飛び出して遊んだんだろうな。長い歴史を感じるよ。

この地面がさ、柔らかい砂ってのもいいよね。

―― 特に東京都内では、あんまり見なくなりましたよね、この感じ。

今だとウッドチップとかだったりするじゃん。あとはラバーとか。そこを今どき砂でっていう初心感。このタイヤはまた一段とデッカいね。でもこれもブリヂストン製なんだな。

―― これは飛行機のタイヤかもしれないですね。

なるほど、確かに飛行機っぽい。この大きさのタイヤを使うものってそれくらいしか思いつかないもんね。飛行機ってタイヤの溝が少なくて浅いんだな。実物からしか感じ取れないことってあるね。

タイヤって、水食べること忘れてた(笑)

―― あっちにあるロボットのオブジェも見てみましょうか。

ロボね。この連載の初回にさ、六本木の通称「ロボロボ園」に行ったじゃん。でも、あれよりこっちの方がロボ感ある、俺の中では(笑)。このロボの配置最高だね。

団地バックってのもさらにいいわ。

―― 登るの禁止って書いてますけど、まあ子供は登っちゃいますよね。

だろうね。おそらくひと昔前は登れただろうしね。後は、あの大山すべり台っていうのもいいな。

すべり台の幅の広さが「順番待ちなんかさせないぞ!」っていうキャパシティね。行けるときに、行けるとこでいくっていうサーファーのマナーが学べるっていうかさ(笑)。行けると思ったら、滑ってよし!っていう己次第な感じ。

―― 子供がいっぱいいたときの発想で作られてますよね、とにかく数をさばくことに重きを置いているというか。

そうね。あれ? ここのタイヤを束ねてるゾーンは何だろ?トレーニング用で置いてるのかな。ちょっと持ってみて……うわ!水が入ってた! 忘れてた、タイヤって水食べるんだった(笑)。この懐かしい感覚を忘れてたよ、俺。うっかりタイヤいじると、茶色い水がビチャーッてかかるんだよね。いやでもさ、アジア圏とかだとタイヤでサンダル作ったりして再利用するけどさ、世の中行き場のないタイヤって山ほどあるわけじゃん? こういう再利用の仕方はいいよね。

―― そうですね、花壇にもタイヤが使われてますもんね。

しかも花がさ、ちゃんと綺麗に手入れされてるよね。こんなふうに、思いつきでタイヤをモチーフにして遊び場を作ってはみたものの、その後はほったらかしになってしまい、長年かけて崩れ落ちていくって末路になりそうなんだけど、ここはそうじゃないのが感心するよね。放っておくと、年々ディストピア感出てきちゃうと思うんだけど、そうなってないのがすごい。大田区っていう土地柄がそうさせるのかな。

―― ちゃんと管理棟もあって、管理人さんもいらっしゃいますからね。

そうそう。多目的トイレや手洗い場も新しく作り直されていてきれいだし、ちゃんと行き届いてる。休憩所もあるし、公園の前に自販機もあるしね。だけど、あんまり口うるさい人はここには来ない感じがする。俺みたいに大人が全力で遊んでちゃマズいかな?(笑) でもそれこそさ、『散歩の達人』を読んでるような読者がここで遊んでから、線路の向こうの商店街を物見遊山で散策するっていうのはアリだと思うな。あと欠点ね! 真夏の昼間はヤバいと思うな。全部のタイヤが熱を帯びてタイヤに乗れねえ!触れねえ!ってなりそう(笑)。

西六郷公園 Data

公園充実度:★★★★★
夏アチアチ度:★★★★★
ホスピタリティ度:★★★★☆

水飲み場:あり  トイレ:あり
自販機:なし  灰皿:なし

※駐車場は公園そばにあり。

住所:東京都大田区西六郷1-6-1/営業時間:入園自由/定休日:入園自由/アクセス:JR・私鉄蒲田駅から徒歩12分

構成=カルロス矢吹 撮影=横井明彦
『散歩の達人』2023年9月号より