感動するほどおいしい本場のハンバーガーの味を届けたい
JR五反田駅東口から御殿山方面に向かって徒歩6分ほど。高級住宅街の一角に店を構えるハンバーガーレストラン『7025 Franklin Avenue』は、日本におけるグルメバーガーの先駆けとして知られている。
日本でハンバーガーチェーン店が台頭し始めた1980年代、オーナーの松本幸三さんはファストフード店の軽食ではなく、「レストランでいただく食事のようなハンバーガー」を提供する店を立ち上げるため、ロサンゼルスに渡った。
「私はもともと洋食のシェフで、飲食関連の企業でキッチンマネージャーを務めていました。当時、本場さながらのハンバーガー専門店を日本につくってほしい、という依頼を受けて現地のハンバーガーレストランをいくつも回り、本格的なハンバーガーのつくり方や食べ方など、アメリカのさまざまな食文化を学んだんです」。
各店で厨房を見せてもらえたことにはとても感謝しているそうで、「パティに使う肉の配合からパティの焼き方まで彼らはなんでもオープンにしてくれて、レストランに“秘密”があってはならない、ということも教わりました」と松本さん。
ロサンゼルスの人たちに恩返しをしたいという気持ちも込めて、アメリカの食文化の魅力を日本に広めようと、1990年に『7025 Franklin Avenue』を開店した。
『7025 Franklin Avenue』とは、松本さんが滞在していたホテルの住所。当時、ホテルのプールサイドでバーベキューパーティーをしていた外国人に、ドでかいハンバーガーをふるまわれた松本さん。そのあまりの旨さに衝撃を受け、この時に食べたハンバーガーの味と感動を日本中に伝えよう! と心に決めたのだという。
アメリカでは、レストラン協会が定めたパティの条件をすべて満たした店が“ハンバーガーレストラン”を名乗ることができる。その条件は、USDA(アメリカ合衆国農務省)認定の牛肉を使用する、チャコールグリルでパティを焼く、など8項目の規格があるという。
「チャコールグリルは炭火焼きと同じで、遠赤外線効果を発揮します。このグリルでパティを焼くと、余分な脂肪分が落ちて香ばしくなり、同じ肉でもおいしくなるんですよ」と松本さん。本場仕込みの牛肉100%のパティに、網目状の焼き目をつけてふっくら焼き上げる。
香ばしい肉厚パティとシャキシャキ新鮮野菜の贅沢グルメバーガー
今回いただくのはマッシュルームのチーズバーガー。ミディアム(112g)・ラージ(149g)・エクストラ(225g)の3種類からパティのサイズを選んで注文する。
ハンバーガーがお皿に美しく盛られてきたことに感動! これぞハンバーガーレストランのお食事ハンバーガーだ。
外国人客はフォークとナイフを上手に使って食べるようだが、「どうやって食べるかも食文化の楽しみ方のひとつだからね、好きに食べたらいいよ」とほほえむ松本さん。店オリジナルのバーガー袋も用意されているので、袋に包んでアメリカンスタイルでいただくのもいいだろう。
バンズの間にパティと野菜をはさんでかぶりつくと、食感がたまらなくいい! ふわっふわのバンズ、シャキッシャキの野菜、肉肉し~いパティ、ジューシーなマッシュルームのハーモニーが絶妙で、口に運ぶたびに感動が押し寄せてくる。素材の良さや鮮度が際立っており、丁寧な仕事ぶりがよく伝わってくる。
「うちは開店以来、新しいメニューづくりに力を入れるのではなく、お客さまにもっとおいしく召し上がっていただくために、今あるメニューの食材をよりいいものにどんどん変えていってるんです。できるだけいいものをいい状態でお出しする、そんなあたりまえのことをやってるだけですよ」と松本さん。
厳選された食材だけに基本の味つけは塩・こしょうのみで、肉の旨味やチーズのコクがしっかりと感じられる。赤ワインで煮込まれたマッシュルームは大人の味わいだ。卓上にケチャップ・マスタード、塩・こしょうがあるので、お好みでどうぞ。
食事をおいしく楽しく食べてもらうために
1950年代に建てられた駐日大使館職員の元住居を改装した『7025 Franklin Avenue』。人通りもまばらな高級住宅街にあり、開店当初はなかなか客がつかなかったという。開店から5~6年経った頃、品川のホテルに滞在中の外国人が足を運んでくれたり、外国人記者が日英新聞で店を紹介してくれたりして、次第に外国人客で店がにぎわい始めた。
「あの頃は海外のお客さまばかりで、そこら中で外国語が飛び交っていたのはおもしろかったですね。そのうち外国人のお客さまが日本人を連れて店に来てくれるようになって、だんだんお客さまが増えていったんです。外国人のお客さまには、本当に助けられたなあって思いますね」。
レストランの基本は、「清潔であること、品質が高いこと、サービスがいいこと」であり、1つでも欠かしたら店は続かない、と松本さん。一段下がったオープンキッチンの厨房は、調理スタッフの手元から足元まで客席からも見えるように設置。どこもかしこも美しい店内は、手入れが行き届いている。
また、客にレシピを聞かれれば、「おいしいと思ったものを自分でつくって、大事な人に食べさせてあげることもできるのはいいよね」と、親切に紙に書いてあげて教えているそうだ。松本さんは「うちの店は隠しごとを一切しないからね、全部見せちゃうの」と、さらりとおっしゃった。
「誰しも店を持つ夢は叶えられるけれど、長く続けるには難しさがあります。店を続けるためには、レストランの基本、サービスの本質を常に心に留めておくことが大切です」と松本さん。
「時に、自分がなんのために店をやっているのか、という原点に立ち返りながら、ホテルのプールサイドで食べたあのハンバーガーの味と感動を原動力に、これからもおいしいものを食べる喜びを伝えていきたいと思います」。
心地よい空間で感動的な食事ができる特別なレストラン『7025 Franklin Avenue』は、この先もずっと多くの客に愛され続けるだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ