下北沢で10周年。「鶏」にこだわる塩ラーメン
2023年で10周年を迎えた、下北沢を代表するラーメン店のひとつ『鶏そば そると』。イタリア料理の世界で長年にわたり腕を振るっていたシェフが新しい挑戦として創業したラーメン店のため、イタリア料理の技法をミックスした独自の鶏そばが味わえる。
店内には厨房を囲うカウンター席とテーブル席が配されており、休日はすべての席がびっしりと埋まり行列もできる。子どもから大人まで幅広い年齢層の人々が、やさしく個性的な味わいの鶏そばを求めてやってくるのだ。常連のなかには、週に何度か足を運ぶ人もいるそう。
オープン以来、数多くのメディアで紹介され人気を博してきた同店。シンプルな鶏そばに見えるが、なぜそこまで愛されるのだろうか? さっそく店の看板メニュー、そるとそば1120円を味わってみた。
季節の野菜がたっぷり。名物のそるとそば
そるとそばは、トマトをはじめ、揚げナス、季節の素揚げ野菜がゴロゴロとのったインパクトのある一杯。なかなかお目にかかれない個性的なビジュアルのラーメンは、テーブルに置かれた瞬間から「一体どんな味わいなのだろう」と気になって仕方なくなる。
同店のラーメンの基本は、あっさりとした清湯スープ。セロリやトマトといった豊富な香味野菜と一緒に、新鮮な鳥取産の大山地鶏のガラを丁寧に店内で炊き出している。上品な鶏の旨味が抽出された無色透明なスープは、数十種類の調味料や出汁をブレンドした「塩だれ」をかえしに使うことで、さらに豊かな風味が引き立つ。鶏と多種類の具材の旨味が溶け込んだスープは、一口飲むごとに風味を増していくようだ。
実はこのスープ、店長がイタリアンレストランで働いていた際に、まかないとしてイタリアンの鶏スープ「ブロード」でラーメンを作っていたことが始まりなのだそう。イタリアンのエッセンスを散りばめ、最後の一滴まで飲み干したくなる滋味深さに仕上がったスープこそ、たくさんの人たちに「何度も食べたい」と思われる理由なのかもしれないと感じた。
また、スープに合わせる麺は北海道産小麦「ホクシン」の全粒粉を使った自家製の低加水細麺。すっきりとしたキレのあるスープと、するするっと喉越しのよい自家製麺がマッチする。清湯スープのほか、濃厚でクリーミーなそると白湯そば1170円もあるため、気分によって楽しもう。
ラーメンに素揚げ野菜? 斬新で楽しい組み合わせ
器の中でなによりも存在感を放っているのが、ゴロゴロッとのせられた野菜たちだろう。ラーメンには珍しく、揚げナス、トマト、季節の揚げ野菜(取材時はカボチャ)が大胆にトッピングされている。
「トマトをラーメンに?」と最初は驚くかもしれないが、食べてみると、マリネしたみずみずしいトマトが清涼感のあるスープによく合う。味わってみると、ラーメンのイメージが変わる新たな発見となるはずだ。
さらにナスひとつ分をまるまる食べられる大きな揚げナスは、和食の“揚げびたし”からヒントを得たのだとか。満足感はあるのに、栄養も取れてヘルシーなところが魅力的だ。
鶏そばのほかに、期間限定メニューとして登場し人気により定番メニューとなった台湾まぜそばや、麺にオレンジを練り込んだ夏限定の貝塩オレンジそばなど、多彩な味わいを楽しめるメニューも同店の魅力のひとつ。
「鶏」という軸を持ちながらも、イタリアンに限らずさまざまな料理の“面白いところ”を一皿に落とし込むことが、この店らしさなのかもしれない。
取材・文・撮影=稲垣恵美