まるでマンガや絵本の中に紛れ込んだかのようなカフェ
今やすっかり人気タウンとなった新大久保。大久保通りとつつじ通りの交差点は韓国グルメを片手に楽しそうな人たちとたくさんすれちがう。メイクをしている男子率も高くて、ついつい目で追ってしまう。交差点を越えると少し落ち着いた雰囲気になり、本日の目的である『2D Cafe』が見えてきた。
店内はロココ調の部屋みたいなシチュエーションで、2D(平面)の世界に入ったみたいで何だかムズムズする。店に入ると客席はL字形になっていて意外と奥が深い。なんだか不思議な感覚のカフェだなあ。
壁にあるカーテンや鏡は絵だけれど、テーブルとイスはみんな本物。自分まで2Dになってしまったんじゃないかと錯覚してしまう。どういうきっかかけでこの店ができたのだろう。オーナーの韓智愛(ハン・ジアエ)さんに話を聞いた。
「ここは2019年8月オープンしました。韓国にもこういう店が人気だというので行ってみたら、お店に1歩入ったら異空間みたいな感じがすごく衝撃的だったんです。日本でも、2Dをテーマコンセプトのカフェを作ったらみなさんに喜んでもらえるんじゃないかなって思ったんです」。
韓さんは来日して約20年。「私は最初、屋台から始まったんです。イケメン通りで韓国屋台を出していて。そこから2008年に韓国で人気のフライドチキンのお店『カンホドンチキン678』のフランチャイズ店をオープンして、今では日本で5店舗を経営しています。『2D Cafe』は、私にとって初めてのカフェ出店だったんです」と韓さん。
店のコンセプトはもちろんのこと、メニューや食器などあらゆる面で勉強や調査をしながら、試行錯誤の末にオープンしたのだという。
壁を3回塗り直した末に、壁画アーティストが描いた内観
『2D Cafe』をオープンするにあたり、初めてのことばかりで産みの苦しみはあったが、「仕事が好きなんです。24時間いつでも仕事のことを考えています」と韓さん。『ドラえもん』ののび太のごとく、スキあらば横になりたいと思う筆者とは大違いだ。
この不思議な内装についても完成するまでにさまざまな苦難があった。「最初はデザイナーに頼んだんですけども、まったく私の趣旨を理解してくれなくて、ただの落書きみたいになってしまっていたんです。3回塗り替えてもらっても私の思うようにならなくて。もうこれ以上頼めないなって思ったんです。でも、私の中にお店のイメージはできていたので、大変でしたけど自分でデザインしたんですよ」。
韓さんのデザイン画を元に、壁画を描いている画家に手描きで絵を描いてもらったそう。たしかに、線のヨレやカスレが面白い。イメージは少女マンガだろうか、メルヘンチックな雰囲気だ。
「そうですね、宮殿っぽい雰囲気も出てればいいかなって思って。私がデザインしたときは、マンガではなくて実際の建物とか内装とかを参考にしたんです。 こうやって白黒で表現するとマンガみたいですけど(笑)」。
お客さんの4割は外国人。SNSを見て来てみたという人がほとんどなのだそう。
平面っぽいけどちゃんと食べられる2Dケーキ
店の開店当初はごく一般的なケーキとドリンク、それから牛乳氷のかき氷がメニューの柱だったが、マヌルパンやクロッフルなど、韓国で人気のカフェメニューが増えている。今は甘〜いデザートコーヒー・アインシュペナーが韓さんのおすすめだ。
レジの前でメニューを見ているとガラスケースの中に不思議なケーキを発見。
「2Dケーキは2023年2月に発売を開始したんですけど、テレビの取材も受けて今すごく人気ですよ」と韓さんが言う。気になる、食べてみたい! 2Dケーキ770円と紫芋ラテ720円をオーダーしたら、ケーキセットとして50円引きになった。
2Dケーキは、いわゆるいちごのショートケーキ。2D感を出すためにアウトラインが入っているのか。「このラインの部分はチョコクリームだと思っている人が多いけど、実は食用の炭の粉(チャコール)を生クリームに混ぜたものなんですよ」と韓さんがいたずらっぽく笑った。そういえば、このクリームはチョコよりずっと黒っぽい。
こうして1年に1度くらい新メニューを登場させるという韓さん。次はどんなものを? 「もう新商品をいくつも考えています。2Dケーキはメニューを出すまでに2、3年かかりましたから、どんなものになるか今は言えないです。でも、みなさんに喜んでもらえるものを出していきたいと思いますので期待していてください」。
世の中にある面白いものをキャッチして、店に反映する韓さん。次に店に来てみたらぜ〜んぶ2Dのメニューになっている、なんてことがあるかもしれない。んなアホな!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢