不意に訪れた達郎ロス。再び拝める日は来るか

「オリンピックがあるから2020年はツアーはやらない」と断言していたとはいえ、コロナを挟み、ナマ達を3年間も観ていない。6月からツアーが始まっているがチケットが全然手に入らない。地方も全滅。そりゃそうだ。山下達郎のライブを一度でも体験したら絶対リピーターになる。達郎は現在69歳。失礼ながら残り時間は限られている。今のうちに一本でも多く観ておきたい。

最近妻とは「どうやったら達郎のライブのチケットを手に入れられるか」、「どうしてあんなにライブが素晴らしいのか」、そんなことばかり話している。妻への感謝第1位がふたりの子供を産んでくれたこと(育てたのは僕)。2位が達郎のライブに連れて行ってくれたことだ。

これまで数百本のライブを観てきた。ライブでレコード通りに再現しようとするミュージシャンが嫌いだった。だけど達郎は別。高性能高水準。贅沢な音質に安心して身を任せることができる。学生バンドの延長線で、アマチュアの歌声と部室で身内に話すようなMCを垂れ流す、自称アーティスト様を拝んできた。だけど本物を知ったら戻れない。

自分が20代のときに、今よりさらに声が出ている達郎のライブ盤を当然聴いているのに、そのときはピンと来なかった。ようやく良さがわかるようになったのか。僕のアホも少しはマシになり、成熟したのだろうか。『POCKET MUSIC』は僕のベスト名盤になった。半世紀生きて山下達郎に着地するとは思ってもみなかった。

この原稿を書いている時点でチケットは手に入っていない。頭に来たので11年ぶりのニューアルバム『SOFTLY』を意地でも買うもんかと決めていたはずが誘惑に勝てず、『BRUTUS』特集号とともに購入。タワレコに入ったの10年ぶりだった。

握った拳骨から血が流れそうなほど、ライブを観に行く人がうらやましい。これまで僕は前妻、元カノ、現妻から「お人好し」とあきれられてきた。勝たず嫌いの僕が生まれて初めて「他人を蹴落としてでも」チケットを手に入れたいと思っている。頑固な職人が作り出す、あの音世界に耽溺したい! みなさん祈って下さい。樋口に、「Get Back In The Tatsuroconcert again!」と。あーまだ言い足りない。タツロー最高〜〜〜!!!

 

『散歩の達人』2022年9月号より イラスト=サカモトトシカズ