ビストロやカフェのようなオシャレな雰囲気
2019年にオープンした『麺巧 潮 上野製麺所』は、2012年に淡路町に開店した『麺巧 潮』の姉妹店。店主の土屋幸男さんは、元々仙台でイタリアンをはじめとしたさまざまな飲食店を手がけてきたが、東京で初めてラーメン店を出店したという。
土屋さんは「東京に進出するにあたり、好きなラーメンで勝負しようと思いました。ただ、既存のラーメンでは面白くないので、新たなブランドが確立できるようなラーメンを考案しました」と話してくれた。
多くの飲食店を経営していただけに随所におしゃれさ感じる。黒の日除け屋根に、篆(てん)書体で「潮」と書かれた印象的な白文字をはじめ、カウンター席とテーブル席の意匠は、まるでカフェのようだ。
テラス席も用意されていて、ここでは愛犬と一緒にラーメンを楽しむことができる。
ポタージュのような鶏白湯。ラーメンと洋風が行き来する
店の外にある券売機で、この店ならではのオリジナリティにあふれる「鶏白湯そば 極」1390円を購入。
運ばれてきた丼を見てビックリ! 2種類のチャーシューのほかに、肉巻きアスパラ、ブロッコリー、ポーチドエッグがのっている。さらには、フライドオニオンやフライドベーコンも添えられている。やや黄色みを帯びたスープはまるでポタージュやシチューのような仕上がり。確かに土屋さんがいう通り、見ただけでも「既存にないラーメン」だ。
まずはスープをひと口。鶏白湯ならではの芳醇なコクとやさしい味わいがあるが、後口は鶏白湯とは異なるクリーミーな濃厚さが広がる。「イタリアンやフレンチなどの要素を取り入れ、タレに生クリームを入れています」と土屋さん。
麺はしなやかな細麺で、食べているうちにラーメンを食べているのか、パスタを食べているのか混乱してしまいそうなほど両者が融合している。
しっとりとした肩ロースのチャーシューは「スープで熱が加わることを考慮して、低温調理の時間をやや短くしています。提供されるときが食べ頃になります」と話してくれた。脂の旨みをしっかりと感じる鴨チャーシューもいい出来だ。
変わり種ともいえるトッピング
肉巻きアスパラガスは、しっかりと焼かれている。ジューシーな豚肉と、シャキッとして甘さを感じるアスパラガス、コショウの味わいがスープと相まって旨い。ラーメンのトッピングとしては珍しいブロッコリーだが、これもスープとの相性は抜群。
これまた特徴的なポーチドエッグ。土屋さんにどのタイミングで割ればいいかと尋ねたところ「好きなタイミングでどうぞ」という返事。それならと早速割ってみるとトロリと黄身が流れ出す。麺に絡ませながら食べれば、いっそうおいしさが増す。
フライドオニオンやフライドベーコンなどを合わせば、それぞれの食感の違いも楽しく味の奥行きが出てくる。
土屋さんから「これもオススメですよ」といわれたガーリックバター100円も一緒に試してみる。タレには元々生クリームが入っているので、バターを加えることでよりクリーミーさが増し、ガーリックの風味をガツンと感じる。
洋風がかなり強くなり、ますますラーメンを食べているのか、パスタを食べいるのかわからなくなる。ここで土屋さんから「粗挽きのブラックペッパーをかけてみて下さい」と一言。カルボナーラ風になるのかなと思いながらひと口食べると、なんとラーメンに戻っている。「ブラックペッパーを臭み消しや刺激として入れる人も多いと思いますが、入れることによって香りがよくなり、一体感が生まれます」。確かに洋風だった味が、ブラックペッパーを加えることでラーメンに戻った。不思議な体験だ。
黒いラーメンや新ブランドもチェックしたい
土屋さんは「鶏白湯と対をなすのが、黒の“にほんいち醤油そば”。うちの店の二枚看板です。魚介系を中心にしたスープに、群馬県みどり市で醸造されている“日本一しょうゆ”という名前の醤油をはじめとした4種の醤油をかえしに入れています。まろやかで力強いラーメンをお楽しみください」。さらに、「時期や場所はまだ未定ですが、日本人に古くからなじみのある食材を合わせた新ブランドも構想中です。こちらもお楽しみください」と話してくれた。
おいしい鶏白湯のラーメンだった。すべてを食べ終えるとまるでコース料理のような満足感があった。完食後に気づいたのだが、トウガラシと山椒を2種のラー油で熱を加えずに練った特製練り辛味があった。こちらも気になるし、にほんいち醤油そばも気になる。さらには新ブランド……。これからも目が離せない店舗だ。
取材・文・撮影=速志 淳 構成=アド・グリーン