“東京の食堂”をテーマに有名空間プロデューサーが手掛けたカフェ

表参道駅A2出口から徒歩7分。そこが『ロータス』とわかるのは、ドア上の小さな赤い看板のみ。
表参道駅A2出口から徒歩7分。そこが『ロータス』とわかるのは、ドア上の小さな赤い看板のみ。

表参道から原二本通りに入り、人の流れに沿って進んだ先に『LOTUS』はある。2000年にオープンした頃は、まだ人通りの少ない裏通りだった。オーナー兼プロデューサーの山本宇一さんは、駒沢で『Bowery Kitchen』を立ち上げてカフェブームを巻き起こしたカリスマ的存在。2店舗目をオープンするにあたり、表参道に目をつけた。それは『Bowery Kitchen』の常連客たちの仕事場に近かったからだ。

店の奥に進むと、テーブル席。落ち着いた雰囲気で過ごせる昔ながらのカフェ空間。
店の奥に進むと、テーブル席。落ち着いた雰囲気で過ごせる昔ながらのカフェ空間。

外から眺めても何の店かわからない外観、メニューは和洋中にスイーツとバラエティ豊富。コンセプトは“東京の食堂”。ジャンルにとらわれずさまざまなものが混じりあって面白いものが生まれるという、宇一さんの考え方が形になったカフェだ。著名人も含む宇一さんの幅広い交友関係の人々が集まる場所ながら、親しみやすい接客で、訪れた人がまた人を呼ぶアットホームな雰囲気もある。そうして『LOTUS』は、カフェの中でも一目置かれる存在として長年愛されてきた。

階段を降りると地下フロア。中央にはワインやカクテルが提供されるバーがある。
階段を降りると地下フロア。中央にはワインやカクテルが提供されるバーがある。
1階も合わせ店内は100席と、広々としたスペース。全フロア愛犬と一緒に入店してもOK。
1階も合わせ店内は100席と、広々としたスペース。全フロア愛犬と一緒に入店してもOK。

20数年の時を経て、『LOTUS』の周りは飲食店が増え、オープン前から並ぶようなカフェ巡りをする人も見かける。カフェブームを牽引してきたこの店も、少し様変わりしながら人気は健在だ。

2019年に改装して、ガラス張りに面したところにコーヒーショップ『PRETTY THINGS』を併設。カフェだとわかる見た目で、以前より入りやすくなった。より幅広い客層から愛されるための変化。奥に進めば、そこにはちゃんと『LOTUS』があるので、昔からの常連客も安心だ。

ピンク?カラフル! ショーケースに並ぶキュートなケーキに心躍る

さらに『LOTUS』に新風を吹き込んだのは、パティシエの中西沙織さん。2015年頃、三重県のパティスリーで働いていた中西さんは、カフェでその経歴を生かしたいと思っていた。東京のカフェを何軒も巡り、最後にたどり着いた『LOTUS』で「チーズケーキを食べて、『カフェだけどしっかり一からケーキを作っている!』と、直感でここにしようって決めました」と中西さん。

パティシエの中西沙織さん。『BOWERY KITCHEN』など全店のケーキをすべてここで作る。
パティシエの中西沙織さん。『BOWERY KITCHEN』など全店のケーキをすべてここで作る。

今ではショーケースいっぱいにケーキがずらりと並ぶ圧巻の光景。もともと10数種類だったケーキを25種類までに増やしたのは中西さんだ。そのアイデアの源は、宇一さんだという。「宇一さんからいろんなアイデア、微妙なニュアンスを教えてもらいました。試作して見せると、これはいいけど、こういうのと組み合わせてこういう形にしてほしいってなって、全然違うものになるんです。パティスリーだけの技術や知識では、こういうケーキは作れない。びっくりしますね」。

ショーケースに並ぶカラフルなケーキは、見ているだけでワクワク♪
ショーケースに並ぶカラフルなケーキは、見ているだけでワクワク♪

宇一さんと一緒にいくつものケーキを開発してきた中西さん。カラフルでかわいさにもこだわったケーキがたくさんある。「カラースプレーをふんだんに使ったスプリンクルケーキは、宇一さんに研修でロサンゼルスに連れて行ってもらった時に、いろいろなカフェのアメリカンなニュアンスを教えてもらってイメージしました。ピンクショートケーキは、もともとココアの層だったんですけど、宇一さんがもうチョコはいいなあって(笑)、緑の層にするアイデアを出しくれたんです」。かわいいだけでなく、徐々にブラッシュアップしながらおいしさも追及し続けてきた。

右上のスプリンクルケーキ、ピンクショートケーキなど、どれを食べようか迷ってしまうかわいいケーキたち。
右上のスプリンクルケーキ、ピンクショートケーキなど、どれを食べようか迷ってしまうかわいいケーキたち。

宇一さんと作り上げた中で一番印象に残る一品を伺うと「バナナタルトですね。パティスリーで働いていた自分にはないアイデアをいっぱいもらったのを覚えています。バナナの層やシナモンを入れる量など何度も考えて一緒に作ったので、特に思い入れがあります」。最初の2、3年は宇一さんの感覚をつかむのが難しくて、何度もやり取りしながら作ったという中西さん。少しずつ信頼を得て、いまでは全店のケーキ作りを担っている。

かわいいケーキに豊富な料理、カフェなのに“なんでもある”のが最大の魅力

もともとあった『LOTUS』の王道とも言えるケーキは、レシピはそのまま守り続けている。中でも爆発的な人気で常に行列ができるほどのケーキがくまショコラ。ショーケースを見ると、これは……反則級にかわいい!

くまショコラwithアイスクリーム770円。たくさん並ぶとかわいさも倍増!
くまショコラwithアイスクリーム770円。たくさん並ぶとかわいさも倍増!
アイスの横でくまが寝ている? かわいすぎて食べるのがもったいない!
アイスの横でくまが寝ている? かわいすぎて食べるのがもったいない!

ゴルゴンゾーラチーズケーキも王道のひとつ。まろやかなムース状でとろりと口の中でとろけるおいしさ。はちみつを絡めると、チーズの独特の香りや味わいがさらに際立つ! これは、お酒にも合いそう♪

手前・ゴルゴンゾーラチーズケーキ660円、奥・ブルーベリータルト880円、コーヒー440円。
手前・ゴルゴンゾーラチーズケーキ660円、奥・ブルーベリータルト880円、コーヒー440円。

メニューを見ると、ジャンルにとらわれない料理の豊富さにも驚く。塩昆布チャーハンもあれば、ゴルゴンゾーラのチキン、ステーキ、中華、定食もある。「料理もよりグレードアップしておいしくなっているので、食事を楽しんで、そのあとケーキを食べると満足感も違うと思います」。ここに来ればなんでもある、それが “東京の食堂”を目指した『LOTUS』の最大の魅力だ。

山本さんお手製のロゴがラベルに描かれた、ハンドベイクドクッキー。
山本さんお手製のロゴがラベルに描かれた、ハンドベイクドクッキー。

『LOTUS』に併設された『PRETTY THINGS』では、目立つところにクッキーが並ぶ。大阪から買いにくる人がいるほどの人気で、ネット販売をしてほしいという声も後を絶たない。今後は、このクッキーをもっと広めたいと宇一さんは語っているそう。「宇一さんって、エネルギッシュすぎるんです」と、中西さんが語った一言が的を射ていた。時代とともに移り変わりながら、新しいものを取り入れ、発信していくエネルギーにあふれた人なのだ。

そして『LOTUS』には、山本宇一というカフェ界のカリスマに憧れてお客様もスタッフも、みんな集まってくる。かわいいケーキもあれば、いろんな料理もある、人それぞれ自由に過ごせる、おいしいとワクワクにあふれたこのカフェに、一歩足を踏み入れてほしい。きっとお気に入りの何かが見つかるはずだ。

住所:東京都渋谷区神宮前4-6-8/営業時間:11:00~23:00/定休日:月/アクセス:地下鉄表参道駅から徒歩7分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代