新旧と清濁のごった煮がなぜか妙に心地いい

半世紀以上、上野を見守ってきたABAB上野店も、ビルの老朽化で2024年6月に営業終了となる。
半世紀以上、上野を見守ってきたABAB上野店も、ビルの老朽化で2024年6月に営業終了となる。

魚介と革製品が混ざったような匂いが好きだった。いかにも雑多なアメ横らしい匂いだった。でも、最近はエスニックな香辛料の匂いが強い。

「アメ横の通り沿いである“ソト”はケバブ屋や中国の屋台風の店が増えてるからね。でも、本来は車以外ならなんでも買えるのがアメ横の良さ。“ナカ”だけでも物販のアメ横の矜持を持ち続けたい」とアメ横商店街連合会広報の千葉速人さん。

アジア勢の活気はすごいが、日本発の気になる新店もちらほら。『Coffee by Jalana』はホットサンドやクラフトビールを、アメリカンダイナー風のカウンターで味わえる。アメリカのIPAを飲んでいると、向かいのレコード店から演歌が聴こえてくるのも、実にアメ横。

稲荷町の『寿湯』は1952年創業。外観は懐かしい宮造りながら、広い露天風呂を設けるなど新たな試みも。
稲荷町の『寿湯』は1952年創業。外観は懐かしい宮造りながら、広い露天風呂を設けるなど新たな試みも。
温故知新というが、言うは易し行うは難し。しかし、伝統的な銭湯のスタイルと新しい視点を両立させ、まさに温故知新を体現しているのが東上野の『寿湯』だ。そこには、身をもって銭湯をよくしようと行動するスタッフの皆さんの、努力と銭湯愛があった。おかげで今日も、ここ『寿湯』では、常連のお爺さんから若いサウナー、外国人観光客までが一緒になって湯に浸かっている。

上野はいま東の端っこが面白い

最近は、アメ横の喧騒を離れ、東上野で我が道をゆく新店も多い。

2023年春オープンの『Nagi』もまた、これまでの上野にないカラーを放つ。上野学園で青春時代を謳歌(おうか)した店主の清水理紀さんいわく「大通りから1本入った場所で、スペシャリティコーヒーを飲みながら小さなリトリート(心身の癒やし)をしてもらえたら」。

築95年の旧下谷小学校。1990年の閉校以来、校舎は残されてきたが、2023年度の解体がついに決まった。
築95年の旧下谷小学校。1990年の閉校以来、校舎は残されてきたが、2023年度の解体がついに決まった。

東上野の下町の雰囲気に惹かれ、『Guruatsu』を2015年に開いたのが米川優子さん。“食べて健やかになる”をテーマに作られるマフィンとスコーンは、白味噌マンゴーチーズなどメニュー名を見ただけで喉が鳴る。

「この辺は町工場や個人商店が残っていて、とても居心地のいい場所。朝からワンカップおじさんなど、どんな人でも受け入れてくれる懐の深さがある町だと思います!」

工務店の『ゆくい堂』代表・丸野信次郎さんが『ROUTE BOOKS』を造ったのが、まさに町工場跡。「いろんな人に出入りしてほしくて、本屋を思いつきました。交流ある作者のZINEを置くなど、人とのつながりをなるべく大切にしています」

つながりがつながりを呼び『ROUTE COMMON』には若手アパレルが移転してきたり、イベントで知り合ったインド人のスパイスを使った本気カレーを始めてみたり。

「まだまだ面白さの余白がある東上野で、楽しいことを発信しようという人が増えてる気がしますね」。

再開発が進んでも、パッチワークのようなコリアンタウンは東上野の象徴。取材時は新たなバーが開店準備中。
再開発が進んでも、パッチワークのようなコリアンタウンは東上野の象徴。取材時は新たなバーが開店準備中。

郷愁のガード下に新たなUSの風『Jalana(Coffee by Jalana)』

1977年創業のアメカジ店が、2021年にコーヒー&ビアスタンドを開業。
専用機で焼くチーズビーフのホットサンドやオリジナルブレンド350円~、アメリカのクラフトビールなど、アメカジとの親和性を感じさせるメニューが並ぶ。

・11:00~20:00(金は~24:00、土・祝は10:00~24:00、日は10:00~22:00)、無休
・☎︎03-3834-0966

チーズビーフ500円とストーン・ブルーイングのストーンIPA800円。
チーズビーフ500円とストーン・ブルーイングのストーンIPA800円。
右からスタッフの那須さん、槙さん、桑原さん。
右からスタッフの那須さん、槙さん、桑原さん。

誰でも温かく迎える新たな憩い空間『Nagi』

「上野にあまりなかった、スペシャリティコーヒーを出す店を」と、2023年5月に開業。白や丸みを基調とした店内は優しい雰囲気で、老若男女がくつろげる雰囲気。自家焙煎のオリジナルブレンドと自家製プリン各650円。

・8:30~16:30LO、不定休
・☎070-9153-5161

アメ横界隈だけで4軒。地域密着酒場『ヤリキ一揆』

観光客より地元客を大事にするヤリキグループは、2022年一揆店を開業。新鮮な豚モツを低温調理する炙りタン刺し572円やもつ焼きが看板だ。コロナ禍に始めたアメ横清掃活動は毎日継続中。

・14:00~23:30(土は12:00~23:30、日は12:00~22:00)、無休
・☎03-6240-1145

シロ143円など芝浦直送のモツを毎日串打ち。
シロ143円など芝浦直送のモツを毎日串打ち。

物販のアメ横魂宿る、精巧な革の彫刻『アルバカーキ』

千葉さんいわく「日本一のレザーカービング職人」という大塚孝幸氏による財布などの革製品や、インディアンジュエリーを扱う。「革ならどこにも負けない。よそが断るオーダーメイドも、受注してきたよ」。

・10:00~19:00、第2水休
・☎︎03-3836-3386

大塚氏のタカ・ファインレザーのスマホケース5万8300円(右)など。
大塚氏のタカ・ファインレザーのスマホケース5万8300円(右)など。

緻密な陳列風景はこれぞアメ横『生水商店』

約65年前にせんべい店として創業。「せんべいとカバン両方を扱う時代もあったよ」と2代目の生水孝さん。今はブリーフィングほか男性向けのカバン・小物が専門。約1.5坪の店内や軒先に効率よく並ぶ陳列風景は圧巻。

・10:30~18:00、月休
・☎03-3832-3472

セレクトショップの草分けでお宝探し『玉美』

ペンドルトンやアロハシャツのレインスプーナーなど、アメカジ好き垂涎の品揃え。「創業は1950年。当初は魚や下着などの商売をしてました」と店主の相羽岳男さん。店主はブランドの歴史や生地の特徴まで、造詣が深い。

・10:30~19:00、火休
・☎03-3831-7502

Good meal Good life!『Guruatsu』

食べて健やかになれるようなお豆腐マフィンや豆乳スコーン、お野菜ランチを提供。水分はほぼ豆腐と豆乳というマフィンはもちもちで、ノンオイルとは思えないほど!
ルバーブやほおずきなど旬の食材が彩るマフィンは目移り必至。

・11:00~16:00、日休
・☎03-5830-3700

ほおずきカスタード460円(右下)やずんだ400円(黄緑)など。
ほおずきカスタード460円(右下)やずんだ400円(黄緑)など。

多様な楽しいが詰まる元メッキ工場『ROUTE COMMON』

工務店の『ゆくい堂』が2015年に本屋を始め、その後カフェ、観葉植物店、パン屋が次々増殖。2023年春からはフレッシュスパイスを使ったルートカレー1700円も月~金で提供!
工房スペースでは週末にイベントも。

・『ROUTE BOOKS』は12:00~19:00、無休
・☎03-5830-2666

ピートの香りと本で濃淳なひととき『Bar Bookshelff』

店内は本棚に囲まれ、つい好きな本の話が弾む。「お客さまの会話に出た言葉とリンクする本を、そっと差し出すこともあります」と金澤大さん。ウイスキーはスカラバス1300円ほか200種ほど。

・18:00~翌1:00(土・日は15:00~)、2カ月に1回不定休
・☎03-5246-4205

いずれは古典芸能と映像の共演も!『飛行船シアター』

上野学園の講堂を改装し、2022年春、全508席の劇場として再生。演劇や朗読劇、アイドルライブなどが行われる。「270度のプロジェクションマッピングを用い、ダイナミックな演出も可能です!」とは劇場を運営する劇団飛行船の清水慶太さん。

・☎03-6802-7495

取材・文=鈴木健太 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年7月号より