2008年、立ち飲み屋としてオープンした『土鍋つけ麺 飲み処 談』

五反田駅の東口からすぐのところにある一番街は、味な看板からしていかにも歴史がありそうな雰囲気。高いビルとビルの間にあるためちょっと薄暗く、隠れ家的な店が潜んでいそうだ。

通りを入っていくと中腹にのぼりが立っている店を見つけた。ここが居酒屋『土鍋つけ麺飲み処 談』だ。さっそく店に入り店主の成典享(せい のりゆき)さんに話を聞いた。

雑居ビルの前にのぼりやポップがあるのですぐわかる。
雑居ビルの前にのぼりやポップがあるのですぐわかる。

「2008年に立ち飲み屋さんとしてオープンしました。でもね、1年でやめてふつうの居酒屋にしたんですよ。そもそもこのお店自体は古いのですが、ゆっくり座ってお酒を飲んでもらえるように自分たちなりに店内をリメイクしたんです」と語る。夜になれば、周辺で働くサラリーマンや立ち飲み屋のころからの常連客がやってくるそうだ。

店主の成典享さんと、一緒にお店を盛り立てる奥さまの友美さん。
店主の成典享さんと、一緒にお店を盛り立てる奥さまの友美さん。

取材を始めた頃はスープが売り切れですでにランチが終了していたのだが、こうして話をしている間にもつけ麺を食べようと店に入ってくる人や問い合わせの電話が絶えない。ほらね、やっぱりココは人気のお店だった。

まるで地獄の釜のように沸くトマトつけ麺は、旨味たっぷりのやさしい味

いかにも熱そうなトマトつけ麺。これには胸がときめく!
いかにも熱そうなトマトつけ麺。これには胸がときめく!

運良く売り切れ前にギリギリ間に合った筆者は、さっそく店頭でビビッときたトマトつけ麺850円をオーダーした。できあがるまで成さんに話を聞くと、以前はランチでチゲ鍋を提供していたという。はは〜ん、それでこの土鍋を使っているのだ。

「チゲを出したのはいいものの、そのとき夏だったからかお客さんが来なかったんですよね(笑)。だったら、この鍋とスープを使ってつけ麺を作ったら面白いね、ということで始めたのがきっかけです」。

2010年から平日限定でスタートしたつけ麺が大当たり。以降少しずつメニューが増えて、地域の人々に愛され続けている。ちなみに2番人気の坦々風つけ麺のほか、味噌つけ麺、スパイシーカレーつけ麺、激辛テイストの鬼嫁つけ麺などもある。アツアツはイヤ〜!という人には夏季のみ冷やしつけ麺もあるのでご安心を。

土鍋でグツグツと煮立てられたトマトたっぷりのスープはまるで地獄のよう。
土鍋でグツグツと煮立てられたトマトたっぷりのスープはまるで地獄のよう。

つけ麺の肝となるのは、豚で取ったスープにコチュジャンなどを加えた味噌ベースのスープ。これですべての土鍋つけ麺メニューを賄っている。スープを準備しながら、すぐさまその横で麺を茹でる。

茹であがった中太麺を冷水でしめる。
茹であがった中太麺を冷水でしめる。

ほどなくテーブルに運ばれてきたトマトつけ麺はまだグツグツと煮立っている。土鍋の中で、赤いあぶくが膨らんだり弾けたりする様子はまるで地獄の釜のようだ。いかにも熱そうだがかえって気合が入る。

テーブルに提供された後もスープがしばらくグツグツと沸いていた。
テーブルに提供された後もスープがしばらくグツグツと沸いていた。

スープの頂にある2種のチーズをよく溶かし、中太麺をたっぷりとダイブさせた。トロリとしたトマトスープは甘めで、トマトと豚、チーズの旨味がほどよく混ざり合っている。そこへややちぢれている中太麺がよく絡む。豚バラチャーシューやしめじ、キャベツ、玉ねぎなどがたっぷり入っていて、野菜不足が解消できそうだ。

ややトロみがあるスープが中太麺によく絡む。
ややトロみがあるスープが中太麺によく絡む。

するすると食べ進め麺を食べ終わりそうになっても、スープをひとくちすするとまだ充分熱い。筆者の様子を見ていた成さんが、「あ、残ったスープにご飯を入れると、リゾットみたいでおいしいんですよ」と、すすめてくれたので、ライスをオーダー。ランチでは麺の大盛と卵、ライスが無料サービスだ。

おたまでよーく混ぜて食べると、スープがよくなじんでこれもイケる。具もスープもあますことなく食べられるし、つけ麺とはまた違った味わい。考えてみたらこれもチゲ鍋のシメを踏襲していたのか。

大汗をかきながら完食したあと冷水をグイッと飲めば、サウナに似た爽快感。筆者は経験が浅いが、コレが“ととのう”ってヤツ〜!?

ライスは一般的なご飯茶碗に1杯分ある。麺を食べ終えたらスープへドボン。
ライスは一般的なご飯茶碗に1杯分ある。麺を食べ終えたらスープへドボン。

品川っ子にとって五反田とは「遊びながら大人の嗜みを学ぶ場所」だった

世間話をしているうちに、成さんは戸越銀座の出身と知った。生まれも育ちも品川っ子の成さんにとって、五反田とはどういう街なんだろう。

「今はスゴクきれいになったけど、印象としてはピンク街だったんで。もし女の子が五反田で働くなんて言ったら『どこの風俗で!?』っていう感じだったけど、IT企業がたくさん進出して、特に西口はすっかりビジネス街になりました」と成さんは話す。

昭和のムードが漂う商店街の入り口。この奥に『呑み処 談』がある。
昭和のムードが漂う商店街の入り口。この奥に『呑み処 談』がある。

「オレが若い頃の五反田は、大人の勉強をする場所だったかな。タバコや酒の飲み方もそうだし、キャバクラの女の子にお金使っちゃうのも、それにどっぷり浸かるのはよくないと気づくのもここで学びましたね(笑)」。

五反田駅の西口は今もちょっぴり妖しい雰囲気がある。しかしその一方で、目黒駅から品川駅を結ぶエリアには、池田山や御殿山をはじめとした『城南五山』と呼ばれる高台の高級住宅街がある。これらは大名屋敷や大名家をルーツとする邸宅からなるという。

右側の棚は立ち飲み屋だった頃のカウンターをリメイクしている。
右側の棚は立ち飲み屋だった頃のカウンターをリメイクしている。

「でも、オレとしては五反田駅周辺こそが聖地。ここにはお姉さんのいる店以外にもビリヤードとかダーツとか、遊べるところはいろいろあるし、うまいもんもいっぱいある。昔は今でいう東急線の五反田駅あたりにボーリング場や、その先には映画館もあったよな。あ、子供と一緒なら目黒川を散歩するのもいいよな、特に桜の季節はねぇ?」と、成さんは友美さんに同意を求める。

もう少しわかりやすくいうと? と尋ねたら「うーん、新宿をギュッとした街かな」と答えてくれた。おお、それはイメージしやすい! 個人的に新宿はなじみのある街なので、次に来る時は新宿にはない五反田らしさを探索したい。それに疲れたらここでまたつけ麺をいただきまーす。

住所:東京都品川区東五反田1-17-1 プランドール一番街1F/営業時間:11:30〜13:45LO・18:00〜24:00頃 /定休日:不定/アクセス:JR・私鉄・地下鉄五反田駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢