昼からちょっと一杯。近所の常連さんに愛される老舗店
『熊ぼっこ』は、昭和30年代に東京で札幌味噌ラーメンブームの一翼を担ったチェーン店。しかし、現在はチェーン店ではなく、それぞれが独立店になっている。店主の関口能広(よしひろ)さんによると、「元々、この店があるビルのオーナーが店主だったのです。その方が1987年(昭和62)に引退することになり、縁あって中国料理店で修業をしていた私が受け継ぐことになりました。店名を変えることも考えたのですが、当時はお金があまりなくて『熊ぼっこ』の店名で今も続けています」と笑いながら話す。
店名が書かれた赤い日除けテントや、「味自慢」「ラーメン」と書かれた赤い暖簾など、外観を見ているだけでおいしいラーメンが食べられそうな雰囲気がある。
暖簾をくぐって入った店内は奥行きがあり、カウンター席のみ。BGMは懐かしい80年代の歌謡曲が流れている。
昼時をずらして来店したのだが、カウンター席では早くも一杯飲みながら盛り上がっている人たちがいる。
関口さんは「みんな近所の常連さんで、昼から集まって飲んでいることも多いんです」と教えてくれた。
懐かしさを感じる味噌ラーメン
看板料理でもある味噌ラーメン800円を注文する。運ばれてきた丼からは味噌のいい香りが漂い、食欲を刺激する。炒めて煮込んだ野菜がたっぷりと盛られた上にはコーンがトッピングされている。
スープをひと口飲んでみると、濃厚でコクがありながらやさしさも感じられる。思わずうなるほどのおいしさだ。
店主のお婿さんである阿部裕太郎さんは「味噌ダレには、北海道産の紅一点のほか、2種の白味噌など、数種類をブレンドし、そこに野菜のエキスを加えています。そして3日間寝かすことにより、深い味わいが生まれます」と教えてくれた。
どこか懐かしい味のスープと合わせる麺はやや縮れのある中太麺。ツルツルとしてモッチリとした食感でスープと相まってどんどん箸が進む。
スープの旨みが絡んだシャッキリとした野菜や、甘みのあるコーン、味がしっかりと染みついたメンマもたまらない。
今ではなかなか食べられない昔ながらの味噌ラーメン。オーソドックスでありながらも飽きのこない味。これぞ王道の味噌ラーメンという風格さえ感じさせる。
阿部さんは「韓国産のトウガラシやハバネロなどを使った辛味噌ラーメン850円もおすすめです。メニューでは3辛まで表記していますが、それ以上もできます。味噌の旨みと辛みが融合し、格別ですよ」と話してくれた。
酸味が効いたつけ麺は夏にもおすすめ
つけ麺780円もおすすめだという。
つけ汁のかえしには醤油のキレがあり、酢が多めに入っているためスッキリ。チャーシューの煮汁がアクセントとなっていて、味に奥行きが出ている。
麺は中太でコシが強く、のど越しもよく、つけ汁と好相性だ。つけ汁に入る短冊状に刻まれたチャーシューは、柔らかくて味がしっかりと染み込んでいて、肉の旨みも伝わってくる。チャーシューつけ麺にしなかったことを後悔したほどだ。どんどん箸が進み、麺も少なくなると……大盛りにすればよかったとここでも後悔。もう少し食べたかったという思いを残しながら、スープ割りで締めた。
阿部さんは、「かえしには国産の醤油やドンコを入れているため、風味豊かな味わいを楽しめると思います。豚バラで作るチャーシューをはじめ、手作りにこだわっています。夏期限定で冷やし中華がありますが、つけ麺の方が常連の人たちに人気です」と話してくれた。
ラーメンのほかにお弁当も好評
コロナ禍から始めたというテイクアウトのランチ弁当も人気になっている。自慢の絶品チャーシューを使ったチャーシュー弁当はスープ付きで600円。ほかにも、半熟の卵が入った賄いルーローハン650円やおかずが満載の全部のせ弁当800円など、どれもリーズブナブルでおいしいと評判。
「15時までの販売となりますが、売り切れてしまうことが多いです」と話してくれた。味噌ラーメンやつけ麺もいいが、ご飯を食べたいときにはぜひ買ってみたい。
一品料理も充実しているので、常連さんに混じって酒と一緒に楽しむのもいいだろう。最後の締めは味噌ラーメンか、つけ麺か、メニュー選びの迷宮に入ってしまいそうだ。
取材・文・撮影=速志 淳