モダンな茶室に招かれ、おもてなしされる気分
新橋駅から、赤レンガ通りにそって歩く。徒歩10分ほどの場所に、ブティックホテル『ホテル1899 東京』がある。ここは、創業120年超の老舗・龍名館が手掛けた「お茶」をテーマにしたホテルだ。
今回の目的地はホテル1階にある日本茶専門カフェ『チャヤ1899東京』。コンセプトとして、「街の茶屋で、ゆるやかな時間を日常に」を掲げている。
大きな窓に囲まれ、二方向から自然光がたっぷりと入る。インテリアは、木のナチュラルさと、アイアンのモダンさが共存している。ホテルロビーのように洗練されていて、くつろげる雰囲気。訪れると、支配人の勝野友春さんが迎えてくれた。
「ホテル1899東京は、お茶をテーマに日本らしさを打ち出したホテルです。日本でもお茶がテーマのホテルは珍しいと思います。2階はフロント、3階から9階までは客室です。2階には宿泊者様用のティーカウンターがあり、ゲストに抹茶や煎茶を淹れているんですよ」と勝野さんがホテルについて教えてくれた。
まずは深蒸し煎茶 六煎茶800円をオーダー。六煎茶とは、掛川、本山、狭山、八女、串間または都城、知覧と、産地の違う茶葉6種をブレンドしたオリジナルだそう。一煎目は、旨味をしっかりと楽しめるようにスタッフが淹れてくれる。
お茶を淹れてくれたのは『チャヤ1899東京』マネージャー安長貴人さん。まず、茶葉をすくう。ここでザクッと乱暴に茶匙を入れると茶葉を傷つけてしまうので、器をまわして茶匙に茶葉をのせるイメージで優しくするのが肝心だという。
少量の冷水を入れた茶海(ちゃかい)に、ひしゃくで釜から沸騰したお湯をくんで注ぐ。六煎茶の味わいを最大限引き出せるよう、湯温を65℃から70℃の温度帯になるように調整し、急須にやさしく注ぐ。
「お茶が少しでも残っていると、お茶の成分が溶け出てしまい、二煎目を淹れた時の渋味や苦味につながってしまいます。おいしく飲んでいただきたいので、最後の一滴が落ちるまで注ぎ入れるのが大切です」。
深蒸し煎茶 六煎茶800円には、さし湯が魔法瓶でついてきて、三煎目まで楽しめる。味わい、お茶の色、香りと、どれをとっても完璧!
一杯ずつ抹茶を点ててつくる濃茶ラテ
暑い日には、冷たい日本茶ラテも良い。新茶ラテ(期間限定)、濃茶ラテ、ほうじ茶ラテ、和紅茶ラテの4種類から、濃茶ラテをチョイスした。
ユニークなのは、濃茶ラテに入れる抹茶の量が選べること。3g、4g は600円、5g 650円、6g 700円となる。お店のオススメは4gだそう。
一口飲むと……ミルクのほのかな甘みと、抹茶の苦味とが相まった味わいで、心がゆるむ。
フードは、1899抹茶パン あんバター380円と1899ほうじ茶パン プレーン300円をオーダー。行列のできる高田馬場のパンとコーヒーの店『馬場FLAT』に依頼して特注で作っているそうで、ホテルの朝食としても提供されている。
1899ほうじ茶パンはほのかにほうじ茶の香ばしさを感じられる。粉糖がかかっている部分をかじると、甘みも。そして1899抹茶パン あんバターは抹茶の存在感があって、緑茶のドリンクとペアリングするとおいしさが掛け算で増す。
日本茶は「一期一会」で「デイリー」な存在
マネージャーの安長さんは、以前ウエディング業界で働かれていたそう。仕事にはやり甲斐を感じていたが、どんなにお客さんと親しくなっても「常連さん」は生まれない。そこに、もどかしさを感じ「一期一会」でありながらも「デイリー」に愛される、日本茶専門店を運営する会社に転職した。
日本茶の魅力をたずねると、「温度帯や淹れ方一つで味が変わり、さまざまな味が楽しめること。渋いお茶が好みという人は、二煎目は、ボトルから直接急須にお湯を注ぎ入れて熱めの温度帯で入れてみてください。三煎目はスッキリとした味わいで、一煎目からの味わいの変化も楽しんでいただきたいです」。
「急須で飲む煎茶のおいしさを、多くの人に知っていただきたいです。最近は、和紅茶なども盛り上がってきていますし、日本茶は奥が深い。肩肘をはらず1899で日本茶の魅力に触れていただけたらうれしいです」と安長さんからのメッセージ。
煎茶の場合、自分のペースで二煎、三煎と飲み進められるので、とてもリーズナブルだ。私の場合は、湯呑み6杯分もいただくことができた。訪日観光客だけでなく、打ち合わせや休憩にも良い。
忙しいと、どうしても時間も心も容量一杯まで使ってしまう。そんな風に心が急くときほど、『チャヤ1899東京』に立ち寄って、一服を。きっと、日常に上質な余白をもたらしてくれるだろう。
構成=アート・サプライ 取材・撮影・文=小竹美沙