きっと見つかる自分だけの愛しきもの

平和公園のへいわの池は、なんとかたちも“へいわ”。写真は「へ」の部分。
平和公園のへいわの池は、なんとかたちも“へいわ”。写真は「へ」の部分。

シベリアあります」の貼り紙にひかれた上板橋の『マルホベーカリー』。驚きの厚さをよく見れば生地と羊羹の幅もまばら。「実は2011年の震災で窯が傾いてしまって。生地も傾いて焼けるから厚さに違いが出るんです」とはにかむご主人。それは災難だったけど、好きなサイズを選べるなんてありがたや。ならば重量級の超特大もらっちゃえ。なんたってこのエリア、線路から離れれば山あり谷ありの劇的地形。平地と思えばまた坂で油断もできぬ。行動食にはもってこいだ。

肉屋『やまとや』の10円カーは50年選手。親子3代で乗ってる人も!
肉屋『やまとや』の10円カーは50年選手。親子3代で乗ってる人も!
上板橋駅前の商店街、上板南口銀座。両側の『マルミ』は激安衣料品店だ。
上板橋駅前の商店街、上板南口銀座。両側の『マルミ』は激安衣料品店だ。

見晴らしのいい高台に、深い谷、縦走気分でたどり着いたのは西台公園。アトラクション感満点のロングすべり台に大はしゃぎの子たちは、何度も斜面を駆けのぼってはすべる。「この辺はどこへ行っても上ったり下ったりで電動自転車がないとダメ。子供は鍛えられますけどね」と見守るお母さんも苦笑い。

西台公園で人気のすべり台。土地の傾斜を利用した30mのロングコースだ。
西台公園で人気のすべり台。土地の傾斜を利用した30mのロングコースだ。

大人たちが打ち込む競技に誘われて

一方、東武練馬の『三凱亭』で大人たちが打ち込んでいたのは、スポーツ吹き矢。せっかくならいかが?との声に甘えていざ体験。フッ!と息を吹くと、スーッと軽く飛んで……お、的に当たった! 気持ちいい!これはハマりそう。

下赤塚の路地には『Toys&JunksHAKIDAME』が顔を出す。アメリカン・トイ専門なのは米軍住宅だった光が丘のそばだから?「いえ。街の歴史は開店して知りました。周辺にお住まいの方が『昔はバッグス・バニーの人形がたくさん売ってたよ』なんて教えてくれるんです」とご主人。「広く愛される有名キャラより、片田舎で見つけたものや正体不明なもの、そんなノンキャラに愛しさを感じる」と聞くと、私も自分だけの愛しいコを探したくなる。

地下鉄赤塚駅出口の脇に、鎌倉古道の道標。小さくも勇ましい武者が導く。
地下鉄赤塚駅出口の脇に、鎌倉古道の道標。小さくも勇ましい武者が導く。

さて、歩き疲れてゴールの成増。今や貴重な牛乳屋さんで一杯だ。「宅配も瓶牛乳も減ってますからね。でも、スーパーではなくわざわざうちに来てくれる顔なじみも多いですし、街の人と『おはよう』『こんちは』を毎日交わせる仕事っていいなと思います」と『コーシン牛乳赤塚販売所』の石井卓さん。迷うほどある瓶牛乳の中から生乳90%のコーヒー牛乳を選んでゴクゴク。あ〜、生き返る!
冷えた牛乳だったのに、なぜか心はポッと温まった。

暗渠に作られた百々向川(すずむきがわ)緑道は階段が多く楽しい。
暗渠に作られた百々向川(すずむきがわ)緑道は階段が多く楽しい。
緩やかなアーチの成増跨線橋。車道もあるがカーブが急で車は大変そう。
緩やかなアーチの成増跨線橋。車道もあるがカーブが急で車は大変そう。

瓶牛乳飲みにいらっしゃ~い!『コーシン牛乳赤塚販売所』[成増]

東京五輪の年に始めて60年。2代目の石井卓さんがお得意先300軒に宅配しながら、母・悦子さんと営む。メインはコーシンだが、東毛酪農、メイトー、雪印と複数メーカーの瓶牛乳を飲めるのがうれしい。コーヒー牛乳だけで3種類も! 金・土は1ℓ牛乳が10円引きだ。

・9:30~20:00、日休。☎03-3930-5961

大人も時間を忘れる絵本の世界『板橋区立中央図書館いたばしボローニャ絵本館』[上板橋]

北イタリアのボローニャから寄贈された絵本を中心に約100カ国、70言語、3万冊所蔵する。「おはなしの部屋」では多言語の読み聞かせも。2~3階にはテラスあり。

・9:00~20:00、第2月(祝の場合は翌平日)・月最終日(土・日・祝の場合は翌平日)・特別整理期間(2023年は6月26~30日)休。☎03-6281-0560

ぶ厚さと重さに仰天!重量別のシベリア『マルホベーカリー』[上板橋]

1962年創業のパン店で時々並ぶシベリア。「私が卵の量を増やしてから生地も厚くなりました」と2代目。北区『王子製餡所』のあんこで作る羊羹もたっぷり。値段は重量別で色分けし、紫(中)230円。パンは常時約20種類。

5:30~18:00(売り切れ次第閉店)、月休。☎03-3932-0530

アメ・トイぎっしりのおもちゃ箱!『Toys&Junks HAKIDAME』[下赤塚]

朝重良允(ともしげりょうすけ)さんが幼少期から好きなアメリカン・トイの専門店。6畳ほどの店内は現地買い付けや国内の個人店を巡って集めた年代物のフィギュアやプラッシュ(ぬいぐるみ)、雑貨がぎっしり。名もなきノンキャラ、レア物も面白い!

14:00~19:00、土・日のみ営業(来店時は確認を)。☎080-4299-4374

お口に合ったらまた土曜日に来てね~!『すみちゃんの手作りつけもの』[上板橋]

故郷のぬか床を譲り受け、福祉事業所の事務所の小窓から週1回ぬか漬けを販売する関澄子さん。茨城直送の野菜を使い、味はピクルスのような酸味でさっぱり。ニンジン、セロリ各70円、大根60円、長いも100円など。お孫さん画の強烈な看板を目印に!

・12:00~18:00、土のみ営業。☎なし

ベトナムに行ったつもりでお買い物!『Tiêm Tap Hóa Narimasu(チェン タップ ホア ナリマス)』[成増]

「成増に住むベトナム人は増えているんです」と2児の母であるドー・ティ・ルェンさんが営むベトナム食料品店。菓子に飲料、調味料、乾麺、冷凍魚、ハーブなど、現地のものでいっぱいだ。空心菜やモロヘイヤは在日ベトナム人が日本で育てたものが届くそう。

・10:00~22:00、水休。☎090-9819-7090

スポーツというよりまるで神聖な武道『三凱亭(みよしてい)』[東武練馬]

関村さん夫妻が自宅ビルの地下に寄席を手作り。落語や浪曲などは月2回程度で、毎週水曜日13:00~15:00・日曜日10:00~12:00にはスポーツ吹き矢教室を開催。約1mの軽い筒にフィルムを円錐状に巻いた矢を込め、的に向かって短く一気に吹く。1回500円で体験可。

・☎03-3550-0066

自家製パンも買える新感覚の酒屋さん『まさもと』[下赤塚]

店先にはレーズン酵母による香ばしい自家製パンが10種ほど。脇の冷蔵ケースには自然派ワインや小規模生産のクラフトビールが陳列。「ビールも何気にパンに合うんですよ」と大木正幹さん。土曜日15:00~は角打ちも! パン盛り400円、ナチュラルワイン800円~。

・12:00~19:00、日・月・火休。☎03-6906-8313

上板橋をハンドメイド雑貨の街に⁉『日向箱(ひなたぼっこ)』[上板橋]

1号店。
1号店。
3号店。
3号店。

上板橋に3店舗もあるハンドメイド雑貨の店。「地元の上板をハンドメイドの街にしたい」とオーナーの熱い思いから、2016年の1号店開店を機に増やしていったとか。棚の仕切りごとに作家が異なるレンタルボックス形式で、1号店だけで200名の作家が出店。3号店は来店者が小休止しながら作品を見られるようにと、店内に数席のカフェを併設する。コーヒー420円。

・13:00~20:00、1号店は木休、3号店は水・木休。☎080-6890-6188(3号店)

【Column】成増に開かれた、まちの“おかって”

成増駅から線路沿いに6分。ガラス張りの空間の奥にはキッチンが3つ!?「ここは小さなフードコートみたいなものです。自分の店を持ちたい人が出店の足掛かりになればと思って」と、経営者で一級建築士の佐々木郁(たかし)さん。出身地の成増に貢献したい思いから、幼なじみの田中宏和さんと一緒に2021年、食を通した地域のコミュニティースペース『cookee NARIMASU』を開いた。

注文はすべてカウンターで先払い。
注文はすべてカウンターで先払い。

現在は、世界の料理をはさんだ『TRIP SANDWICH』に、多彩な味がある『東京バターサンドラボNARIMASU』のメニューに加え、食材豊富で満腹になる一汁七菜プレートをメインに提供。「ここのコンセプトがまちの“おかって”なので、家庭で作れるおかずを心掛けています。聞かれればレシピも教えますよ」と、プレートを手がける店長の天笠卓哉さん。主菜の魚は区内の魚屋『和田屋』からも仕入れ、高島平の『VIVA COFFEE』など、地元の味も楽しめる。

ご近所さんが縁台で休憩したり、ご婦人方が焼き菓子食べ食べおしゃべりしたり。若者も、犬の散歩の人も、赤ちゃん連れの夫婦も、思い思いに過ごしてる。世代を超えた居心地の良さはもはやこの街に欠かせない“空気”になりつつあるようだ。

一汁七菜プレート1500円。主菜は肉か魚を選べ、十五穀米ごはんと味噌汁のおかわり自由。この日の主菜は下田から届いたサバの味噌煮だ。
一汁七菜プレート1500円。主菜は肉か魚を選べ、十五穀米ごはんと味噌汁のおかわり自由。この日の主菜は下田から届いたサバの味噌煮だ。

『cookee NARIMASU』店舗詳細

住所:東京都板橋区成増3-26-10ガーデンブリック1F/営業時間:10:00~21:00/定休日:月/アクセス:東武鉄道東上線成増駅/地下鉄有楽町線・副都心線地下鉄成増駅から徒歩6分

取材・文=下里康子 撮影=山出高士
『散歩の達人』2023年6月号より

東上線の2駅目から、電車に乗ったり下りたり歩いたりの沿線さんぽ。地元っ子は「名物がない」と嘆く(?)かもしれないが、あきらめないで。名物は、時にひっそり、時に堂々とあなたを待っている。