今回話を伺ったのは、MIGHTY CROWNの中心メンバーで横浜生まれ横浜育ちの兄弟、MASTA SIMON(マスター・サイモン)さんとSAMI-T(サミー・ティー)さん。「中華街の雑貨屋でレゲエのカセットとピータンを一緒に売っていた」という2人ならではの、横浜の街のリアルが分かる内容になってます!

MIGHTY CROWN

1991年横浜で結成されたレゲエサウンド。「横浜レゲエ祭」のプロデュースや、サウンドクラッシュという音のバトルで世界8タイトルを保有するなど、日本代表のみならず世界のレゲエアンバサダー/カルチャーアイコンとして活躍。

山下公園でスケボーをして、元町プラザで仲間とたむろ

―― 小さな頃から山下町の界隈にお住まいなんですよね?

サイモン 小学校までは本牧で、中1から山下町だね。幼稚園から高校まで坂の上(山手町)の学校に通ってたし、山下公園では小学校の頃からスケボーをしていた。当時はローラースケートやBMX、ブレイクダンスをやる人もいて、80年代のリアルなストリートカルチャーがある場所だったね。あと元町プラザの2階が俺らのたまり場だった。

――当時はどんなお店があったんですか?

サイモン アメフトショップ。俺らみたいなアメリカンスクールのヤツとか、ドイツやアメリカのハーフのヤツ、中国や韓国にルーツを持つ連中も集まってた。元町も今はマダムの商店街になってるけど、昔はいろいろな店があって、若者も多かったな。

サミー 今スタバがある場所には「アービーズ」ってアメリカのハンバーガー屋もあったよね。

――近所がインターナショナルな雰囲気なのは、いかにも横浜という感じがします。

サイモン 自分たちは普通のことだと思ってたけど、それが横浜なんだろうね。それこそ親の世代には米軍基地もあったし、今以上にいろんな人種やカルチャーが混じり合ってたと思う。

サミー ガキの頃の「マイカル本牧」(現・イオン本牧店)ができる前の本牧は本当に「フェンスの向こうはアメリカ」だった。

――そんな横浜で「レゲエ」のカルチャーはどんな位置づけだったのでしょうか。

サイモン 俺らが好きになった頃はアンダーグラウンドな存在だよね。昔の横浜はグループサウンズやジャズの街みたいには呼ばれていたけど、レゲエの街じゃ全然なかった。それを俺らの代がレゲエの街に変えたというか、変わっていった。

――レゲエにハマるきっかけの一つは地元のお店や先輩だったんですよね。

サイモン そうだね。本牧に89年にできた「ゼマ」ってレゲエバーが仲間の集まる場所で、そこが2年で潰れた後は、新山下の『クロスロード(CR)』って店に移った。少しして本牧の『PLANET』もみんなの遊び場になった。俺らからするとレゲエは刺激的な音楽で、ちょっとルードボーイな先輩たちがいる空気感も魅力的だった。

サミー 『CR』では俺も週2くらいでバイトしてたし、そこではこの記事でも紹介する『IRIE BAR』のMASA IRIEも働いてたんだよね。

サイモン MASA IRIEは横浜の兄貴的なサウンドのBANANA SIZEのメンバーで、今でも仲がいいんだよね。

サミー あと当時の『CR』は深夜の3時か4時になると『アネックス』って店に変わるのもおかしかった。そこのママがまた横浜のレジェンドでさ。

サイモン 本牧で外国人相手のお店をやってた人で、『アネックス』には水谷豊さんと伊藤蘭さんとか、芸能人もよく来てたよね。一方の『CR』はサウンドシステムを入れて騒音で苦情は来るし、店には10代がいるし、すごい場所だったな(笑)。

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IRIE BAR

2010年にオープンしたミュージックバー。横浜のレゲエ人脈の人たちを中心に、多様なジャンルの音楽関係者が「2軒目のお店」としてよく訪れる。店主のMASA IRIEさんはMIGHTY CROWNより早く横浜で活動していたレゲエサウンド・BANANA SIZEの一員で、2人とは30年以上の付き合い。

・20:00~翌1:00、日・月休。☎︎045-252-0044

先輩も後輩もカッコいい。それが横浜の自慢

――中華街にはおじいさんのお店もあったそうですね。

サイモン 関帝廟通りに母ちゃんの実家があって、そこで雑貨屋をやってたんだよね。その店に俺ら周りの人間が入ってから好きなものを置き出して、レゲエのカセットテープの隣にピータンや八角が並ぶような店になった。店の前にはレゲエの仲間が集まってたから、中華街でも異色の存在だったと思う。

サミー 俺らのファンはカセットやTシャツを買ってたけど、普通に「貝柱とカシューナッツが100グラムね!」みたいに接客もしてたし、変な店だったよね。

――周囲の店の人たちも不思議に思ってたでしょうね。

サイモン みんな親の代からの付き合いだから、「あんたら元気ねぇ」と声をかけられる感じだったし、全然ピースな雰囲気だったよ。

サミー あと俺らの店がヒスイのストラップをはやらせたよね。

サイモン みんなガラケーにつけてた。そして中華街の店がすぐに同じものを売りはじめた。

サミー あいつら、すぐサンプリングしてくるんだよな(笑)。

――そのお店は何年くらいやっていたんですか?

サミー 俺らがその場所でやってたのは90年代後半から4〜5年くらいかな。ちょうどMIGHTY CROWNが大きくなっていく時期だった。

――99年にワールドクラッシュで優勝して世界一になった後は、95年の前身イベントから続く横浜レゲエ祭も、横浜で知られる存在になったと思います。

サイモン 2003年に屋外イベントになってからはそうだったかもね。ビキニみたいな服装で来る女の子もいたから、横浜スタジアムや横浜赤レンガ倉庫で横浜レゲエ祭をやったときは、周辺住民に「新しいプールでもできたのかね?」って不思議がられていたらしい(笑)。

サミー 一種のブームだったよね。だって横浜レゲエ祭に行く人に「MIGHTY CROWNって誰?」って言われて衝撃を受けたもん。俺らに関係なくレゲエ祭という遊びが一人歩きしてる部分もあったと思う。

――2023年は横浜レゲエ祭が12年ぶりに横浜に戻ってくるので、懐かしむ人も多そうです。

サミー 横浜レゲエ祭は地元の俺らがはじめて、周りの仲間で作り上げてきた祭だからね。

サイモン たとえば『岸本酒房』ってバーはレゲエ祭の酒の仕入れからバーのスタッフ集めまで手伝ってくれていた。そうやってレゲエ祭に関わってたバーテンダーには今は自分の店を持っている人も多くて、俺もいろんな店に顔を出してる。

――やっぱり飲みに行く場所も横浜なんですね。

サイモン もちろん。場所は『IRIE BAR』のある関内や野毛のあたりが多いかな。あとは本牧の『ブギーカフェ』とか。クレイジーケンバンドの剣さんもよく出入りしている店なんだよね。

中華街ど真ん中の『横濱中華學院』でも2018年に音楽イベントを開催した。
中華街ど真ん中の『横濱中華學院』でも2018年に音楽イベントを開催した。

――話を伺ってると、地元にはレゲエ関係以外の幅広い世代の知り合いがいるんですね。

サイモン 剣さんをはじめ、横浜には本当にカッコいい先輩が多いし、イケてる下の世代も多い。年齢も職業も関係なくリスペクトしあえる人間関係は横浜の魅力の一つだと思う。あと横浜はいい意味でも悪い意味でも都会だけど、地方都市や田舎っぽいところもある。この街で仕事や生活を代々続けている人が多くて、世代を超えてつながってるところが好きなんだよね。

――今日の撮影も近所のおじさんに話しかけられてる感じが田舎っぽかったです(笑)。

豪華客船で開催するレゲエクルーズとは⁉

――MIGHTY CROWNはサウンド活動休止を発表しつつ、そのファイナル公演として、横浜発着のミュージッククルーズを開催と、ものすごい挑戦をしていますよね。これもまた横浜らしい試みだと思います。

サイモン 東京発着だったら俺らもやってなかっただろうね。

――そして5泊6日の豪華客船クルーズに、国内外の大物アーティストのライブやクラブイベントが合わさった空間は、『散歩の達人』の読者には想像がつかないものだと思います(笑)。

サイモン 日本初の試みだから乗る予定の人も想像がついてないと思うよ。中にはカジノもプールもお店もあるし、「動く音楽リゾート」といえばいいのかな。旅好きも楽しめるし、中に街があるから散歩もできる(笑)。

サミー 寄港する熊本と済州島でも散歩と観光ができるね。自分らが海外の音楽クルーズに乗ったときも、「何だこの世界!?」ってブッたまげたから、その衝撃を共有したくて日本に持ってきたのもあるんだよね。俺らは90年代から海外で活動してきて、新しいものを日本に持ち込んでは「ポカーン」とされるのは慣れてるけど、2〜3年後にはこの遊び、はやってると思うよ。

――日本がやっとコロナ明けというときに、フェスもクルーズも開催を決めていたのはMIGHTY CROWNらしいです。

サイモン 「これが実現したら面白いよね」と思うことは行動に移しちゃうんだよね。そしてファイナル公演は大事な場所だし、みんなの記憶に残るスゴいことを提供できたらと思ってる。

FAR EAST RAGGAE CRUISE 2023

2023年7月15日~20日に開催される豪華客船『MSCベリッシマ』の音楽クルーズ。MIGHTY CROWNのほか豪華アーティストが集う。横浜発着で済州と熊本に寄港。

・料金は18万8000円~65万0000円(大人1人・2名1室利用の場合)

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横浜・NYを拠点に世界への挑戦を続け、世界40か国200都市を巡ってきたMIGHTY CROWNの書籍『世界サウンドクラッシュ紀行』も2023年6月2日に発売。同日にはSAMI-T監修の自伝的な書籍『SAMI秘録~マイティー・クラウン/サミー・Tのストーリー』(ele-king Books)も発売。

 

世界サウンドクラッシュ紀行
MIGHTY CROWN 著
2023年6月2日発売
定価(本体1800円+税)

取材・文=古澤誠一郎 撮影=門馬央典
『散歩の達人』2023年5月号より(一部加筆)