古都の風雅さえ感じさせる一画に佇む老舗甘味処
JR上野駅にはいくつもの出口があるが、『新鶯亭』の最寄りは公園口。改札口を出ると駅前広場がある。以前は車道を渡って公園に入ったが、数年前に車道は左右で分断され、中央が駅前広場になったことで駅前と公園が一体化した。
左に東京文化会館、右に国立西洋美術館に挟まれた道は、上野恩賜公園のメインストリート。このあたりには文化施設が集まっているのでいつもにぎわっていて、華やいだ雰囲気がある。この道を真っすぐに進めば、正面に上野動物園が見えてくる。
目指す『新鶯亭』は上野動物園正門の左奥にあり、木立に包まれるように建物が立つ。店は上野東照宮に隣接し、近くには寛永寺五重塔も立つ。このあたりは、動物園や美術館などがある一画とは雰囲気も異なり、古都の風雅を感じるといっても過言ではない。
和テイストの意匠は外国人にも人気
敷石に案内されて玄関に進めば、「鶯団子」の文字を染め抜いた海老茶色ののれんが掛かる。木製のテーブル、障子窓、掛け軸など、店内の意匠も和テイストで、窓辺に映る庭の緑もさわやかだ。天気がよい日なら庭の一角に設けられたテーブル席や縁台に席を取るのもいい。
公園内にはいくつものレストランやカフェがあり、近年はスタバに代表されるようなおしゃれ系カフェが目につく。そんな中で、『新鶯亭』は大正4年(1915)創業という老舗だけあり、閑静なたたずまいは風格さえ漂う。
口溶けのよいこし餡のだんご。3種の味のハーモニーを楽しむ
創業以来の名物メニューが鶯だんご。小豆餡、白餡、抹茶餡の三色だんごで、小豆餡の中には少しほろ苦いが、あんこのおいしさを引き立てる赤キビ(とうもろし粉)の餅、ほかの2種には歯ざわりがよい上新粉の餅が入っている。
3種ともこし餡なのでやわらかく、滑らかで口溶けがよい。甘さも控え目なので、だんごとともに供される緑茶の旨さが際立つ。現当主は4代目になるが、レシピは一子相伝で受け継がれているという。
朱塗りの盆に盛った三色のだんごは、和の伝統を感じさせ、見た目にもほっこりさせられる。お茶とともに味わえば、本当にくつろいだ気分になれるだろう。
会計は商品と引き換えにテーブルで払うシステム。昔ながらの茶店スタイルというわけだ。これも創業以来の伝統といえるだろう。
隠れた人気のおでんは、昆布出汁をきかせたあっさり味
隠れた人気メニューといえるのが通年味わえるおでん。関東風のおでんは、かつお節をきかせて、濃口醬油で煮込んだものが主流だが、この店では昆布出汁の味がしっかり染みているのが特徴。
皿いっぱいに盛ったおでん種は、がんもどき、はんぺん、さつま揚げ、ちくわ、こんにゃく、昆布の6種類で1000円。これだけあれば食事代わりにもなる。「おだんごと一緒に注文される方も多いんですよ」とは女将さんの弁。さっぱり味だから、甘いだんごにも合うのだろう。
ふわっさらっのかき氷。オリジナルのシロップが美味
メニューに目を移せば、ところてん600円、あんみつ(抹茶あん)600円、抹茶(お薄)700円などもあり、鶯だんごと合わせて注文する客も多い。
夏場の人気メニューであるかき氷900円~も紹介しておこう。器の底にシロップを敷き、その上にかき氷を盛る独自のスタイル。こんもり盛った氷はふんわりさらさらだ。
氷宇治1000円に使われる抹茶餡シロップは、丁寧に濾(こ)した抹茶餡と白蜜を合わせてシロップ状にしたオリジナル。抹茶餡は鶯だんごに使われているものと同じものだが、かき氷とともに味わうとさわやかな甘みになる。白玉も入っているので、食感の違いも楽しい。
緑に包まれた甘味処は、歴史のある公園でひと休みするにはぴったりの店といえる。名物だんごで過ごすひと時は、上野恩賜公園での楽しみを再発見させてくれるだろう。
取材・文・撮影=塙 広明 構成=アド・グリーン