かつてベイスターズは、本当に勝てないチームだった。いくら私が試合前にとんかつを食べようが、全く勝てなかった。いつしか試合前のとんかつはなくなり、その代わりに試合後のとんかつを模索し始めた。そこでこの『とんかつと和食の店 長八』である。ここでは深夜であろうが早朝であろうが、いつでもとんかつが食べられるのだ。

しかし「とんかつ店」というのは正確ではない。食事もできるし酒も飲める、とんかつ中心の定食屋と居酒屋の真ん中にあるのが、この『長八』だ。昼は近隣のさまざまな職業の人たちのランチ、夜はお座敷で酒を飲みつつ盛り上がり、深夜になれば飲みの締めや仕事帰りのキャバ嬢たちにライブ上がりのバンドマン。朝になればこれから現場に向かう職人たちが朝食をとっていく。

大通り沿いの旧店舗。ネオンの大きな店名が煌々(こうこう)と輝いていた。
大通り沿いの旧店舗。ネオンの大きな店名が煌々(こうこう)と輝いていた。

いつでも開いている。それこそが大事なことだ

時代と共に客層も変わった。入居していたビルの解体に伴って、2018年には今の場所へと移転した。新しく明るくなった店内はファミリー層を呼び込み、車利用の客も増加。深夜にホスト客たちが増えたのも、時代の移り変わりを感じさせる。しかしそれ以上にコロナの影響は大きな変化だった。街の夜の景色は一変し、『長八』も24時間営業どころではなかった。それでも店内の大きな生け簀(す)や、メニューに並ぶツマミや酒の数々など、居酒屋然とした部分は変わらない。コロナが落ち着き始めてから、早速24時間営業を再開させたその矜持たるや。

かつてクレイジーケンバンドは、この街を「地獄に一番近いヘヴン」と歌った。ベイスターズは負け、ギャンブルにも負け、夜の蝶はきらびやかで、うつむき歩く人の隣を高級車が走っていく。そんな街の『長八』は、いつでも優しく、あなたに酒ととんかつを供してくれるのだ。

とんかつと和食の店 長八[日ノ出町]

ロースかつ1600円は衣の剣立ちも美しく、きじももの塩焼き1800円など珍しいメニューも。
ロースかつ1600円は衣の剣立ちも美しく、きじももの塩焼き1800円など珍しいメニューも。

瓶ビールだけでも全7種、日本酒も選りすぐりが並び、料理の素材も厳選。席種もテーブル席からカウンター、個室や座敷まで備える。いつ、誰が、どんな用途で来ても対応できる懐の深さこそ、この店の一番の長所なのだ。

住所:神奈川県横浜市中区長者町9-140/営業時間:24時間営業(営業時間の変更の場合あり)/定休日:無(臨時休の場合あり)/アクセス:京急電鉄本線日ノ出町駅から徒歩3分

取材・文=かつとんたろう 撮影=小野広幸 昔の写真提供=長八
『散歩の達人』2023年5月号より