サルデーニャ島の魅力を発信する唯一無二の店
JR渋谷駅から徒歩2分ほど。渋谷マークシティ近くのビルの前に立つ白いパラソルの陽気な雰囲気に誘われてふと足を止めると、「サルデーニャ島」「大人の集う社交場」という立て看板の謳い文句が目に飛び込んできた。
『Tharros』では南イタリアの料理もいただけるようだが、サルデーニャの郷土料理にがぜん興味が湧いてきて、早速店に入ってみることにした。
出迎えてくれたのは、店長の石井裕貴さんと料理長の松本拓也さん。お2人にサルデーニャ島と店についてうかがってみた。
サルデーニャ島は、イタリア半島の西側にある地中海に浮かぶ島。『Tharros』はサルデーニャの魅力をひろめようと、2007年にオープンした。
「サルデーニャ島に行ったことがあるお客さまも、『サルデーニャの食べ物はおいしい。とにかく人がいいし、子どもの笑顔もすごくいい』とおっしゃっています。訪れた人全員が好きになってしまうほど、とても素敵な島だそうです」と石井さん。
店名には、かつてサルデーニャ島にあった古代都市・タロスの名を冠したという。島の西部に位置するシニス半島沿岸部には、紀元前のタロス遺跡が今も数多く残っている。
オーナーの元で働き始めて7年目の松本さん。「もともとイタリア料理が好きで、別の店で働いていた時に『Tharros』の存在を知りました。日本ではまだあまり知られていないニッチな島の家庭料理を出してるなんて、尖がっててかっこいいなあと思って店の門をたたきました」。以来、サルデーニャ島の歴史や食文化にのめり込んでいるのだそう。
お客から料理について質問された時に少しでもサルデーニャの魅力を伝えられるようにと、日々知識の習得に余念がない。「料理といっしょに、島の素晴らしさも味わっていただけたらいいですね」と松本さん。こうしてサルデーニャ島の話を聞いているだけで、早くも筆者のランチへの期待が高まっている。
つぶつぶパスタに濃厚な貝の出汁がジュワワッ!
平日のランチのバリエーションはさまざま。サラダ&パン付きのお得なセットメニューや、前菜の盛り合わせ&ミニスープ・ドリンク付きの定食のほか、気軽なショートコースや本格的なコース料理も用意されている。
今回は立て看板の案内にもあった名物料理、つぶつぶパスタ“フレーグラ”を使った、新鮮! 貝類のフレーグラ2640円をいただくことにした。
サルデーニャの特産品の1つ、フレーグラは家庭料理にもよく使われている食材だそうで、肉や野菜、魚介類と合わせたり、タピオカのようなデザートにもなったり。
今回いただく貝類のフレーグラは、貝から出る出汁とオリーブオイルだけで味付けされたシンプルな1品。塩やこしょうなどの調味料は一切使われていないだけに、貝の新鮮さとオリーブオイルの上質な香りが際立っている。
「オリーブオイルをフライパンに敷いてにんにくで香り付けし、乾燥したままのフレーグラと貝を入れて軽く炒め、水を加えてフタを閉じます。貝の出汁とオリーブオイルのスープで、つぶつぶパスタを炊き上げるといったイメージです」と松本さん。
貝の旨味をぎゅっと閉じ込めた出汁がたっぷりしみ込んだフレーグラは、ちっちゃいのにしっかりアルデンテに仕上がっている。炊いても米のようにねばりが出ないので、つぶつぶ感はキープされたまま。このつぶつぶ感がなんともいえない不思議な歯ざわりで、モチモチしていてジューシーで、まさに女性好みの食感。貝の殻にもフレーグラが詰まっているので、殻をスプーン代わりにして食べてもいいだろう。
「薬膳の考えにもあるように『食べて健康になる』というのがオーナーの信条で、食材はもとより油も高品質なものにこだわっています。からだにいいものだけを使って、お客さまにおいしく召し上がっていただいて健康も維持できるように考えています」。
おいしいだけでなくからだにも良いうえに、いくら食べても飽きることのないシンプルな異国の家庭料理。この店にハマる人が多いのもうなずける。
おいしく食べて楽しく会話ができる空間で深まる“絆”
ところで、店のトレードマークになっているフラミンゴにも何か意味がありそうな?
「フラミンゴは夏になるとアフリカ大陸から北半球に渡り、サルデーニャ島にもやって来るそうです。若き日のオーナーも心の赴くままにイタリア本土からサルデーニャ島に渡ったそうで、フラミンゴはそんなオーナーを象徴しているように思います」と石井さん。
オーナーはそこで、島の人たちが家族や友人と楽しそうに食卓を囲む姿を目にし、「おいしい料理を食べながら、楽しく会話ができる空間をつくろう」と心に決めたのだという。
「ぼくたちは、はじめて顔を合わせた人同士でもみんなで“食卓”を囲むことができるような、人と人とがつながる店づくりを目指しています。たまたま隣り合った席のお客さま同士が翌週、いっしょに店にやってきたこともあるんですよ」。
サルデーニャ島が地中海の貿易の交差点であるように、『Tharros』は人と人が交わる渋谷の交差点なのだ。
みんなで食卓を囲んで、心もからだも健康でいられて幸せになる。それが『Tharros』が目指す店のあり方だ。『Tharros』はこれからもサルデーニャ島の魅力を広めるとともに、人と人とが交わる“居場所”の大切さも広めていくだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ