青森出身の店主が、料理をもって地元の味と文化を発信
新橋駅西口からSL広場を横切り、居酒屋やバーが並ぶ路地を横目に虎ノ門駅方向へ進むこと徒歩3分。雑居ビルの2階に『酒肴場 屯〜TAMURO〜』がある。エレベーターの入り口が少々わかりづらいが、店の立て看板が目印だ。
青森の地酒と肴が楽しめる『屯〜TAMURO〜』がここにオープンしたのは2013年。店主の大高勇輝さんは、18歳で食の世界に入り、和食や居酒屋で修業を積んできた。「当初から30歳までに自分の店をもつ、という目標を持っていました」と語り、その12年後には宣言通り目標を達成したのだ。
「店を出すなら青森の郷土料理を提供しようと考えていました。地元出身の料理人が地のものを提供するほうがお客様にも説得力があるじゃないですか。店のコンセプトをすんなり理解してもらえると思ったし、料理を通じて青森の情報を発信したい、という気持ちもありました」。
それまで夜のみ営業していたが、コロナの影響で遠のいた客足を盛り返すべく少しでも集客できればと、2021年からランチをスタートした。
提供するのは、青森らしいラーメンとそのお供に楽しめるご飯ものだという。これは楽しみだ!
モーレツな旨味の煮干しスープが肝となる濃醇煮干し醤油そば
平日のみ実施するランチメニューは、あっさりめの津軽煮干し中華そば(味玉入り)900円と、文字通り旨味がギュッと詰まった濃醇煮干しそば(味玉入り)950円の2種。今日は濃醇煮干しそばをオーダーした。
さまざまなラーメンがあれど、「青森に特化したものを提供する店なので、青森といえば煮干しかなと。そこをコンセプトとして地元で食べていたようなラーメンを目指しました」と、大高さんは語る。
煮干しスープには、八戸産をベースに千葉・九十九里産、長崎産、鳥取・境港産、香川・伊吹産。そして平子煮干しも加えた6種類の煮干しを加えている。「どうしても小さいカタクチイワシだけだと味がまとまりづらい。平子はちょっと大きめのイワシなんで、力強い味が出るんです。何種類か合わせて入れると微妙に違う持ち味が出ます。旨味だけじゃなく苦味やえぐみもありますが、それも含めて煮干しのおいしさなので」と大高さん。
煮干しのスープの中にほんの少し昆布や鶏と豚の動物系スープも加えて、さらに味のボディを太くしている。
自慢のスープをひとさじ口に含むと、煮干しの味が口いっぱいに広がる。これはクセがある。力強い旨味もあるが、苦味もしっかり残っている。大高さんが「ウチは煮干し好きの人しか来ないですよ。その代わり、会社を休んでまで食べに来る熱烈なお客さんもいますね(笑)」という通り、通好みのモ〜〜〜〜レツな煮干し味だ。ほとんど毎日、スープ切れで完売してしまうというのも納得だ。
麺は三河屋製麺の中太ちぢれ麺。チャーシューは豚肩ロースを低温調理でしっとり仕上げ、塩味はごく薄く味付け。青森産のニンニクを強めに利かせている。また、とろ〜りとした味玉は熱くなった舌をクールダウンさせてくれる。
トッピングはやや控えめな味付け!? 大高さんに問うと「そうですね、あくまでも主役は煮干しのスープですからね」という答えが返って来た。ふうむ、この強烈なスープの個性を引き立てる絶妙な味付けというわけだ。一気に食べ終え、大満足で口を拭った。ごちそうさまでした。
定番の煮干しそば2種のほかに、伊勢海老など希少な魚介類を使った限定麺も不定期で登場することがある。Twitterだけで情報を発信しているので毎日チェックしたい。
金魚ねぷたを眺めながら、青森の山海の幸をつまみに地酒で一献
ランチを始める前から、夜の営業でたまに登場していた煮干しラーメン。「まだまだ勉強中なんですけども」と、笑う大高さんだががっちりとファンの胃袋を掴んでいる。そんな大高さんが手がけるのだから、夜のメニューも一度は食べてみたくなる。
全国の港から仕入れる刺身や季節もの、青森名物の貝焼味噌、牛バラ焼き、馬刺し、イカの天日干しなどは、垂涎のラインナップ。
「イカの天日干しは、私の地元に近い鯵ヶ沢産です。イカを専門でおろしている仲買さんから直接仕入れているんで、新鮮でうまいっすよ! あとは大間まぐろ。これはなかなか入荷しないので、本当にタイミングが合えば召し上がれるんですけどね」。
酒は各種そろうが、やはり日本酒がおすすめだ。「青森の地酒と東北の酒が中心ですけど、全国各地のものを取りそろえています。青森のつまみと一緒に地酒を味わって欲しいですね」と語る。
店内に飾られている金魚ねぷたを眺めて、青森に想いを馳せながら一献、杯を傾けたい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢