辛さと痺れはカスタマイズ可。天国までいけそうな「赤」こと四川風辛味噌ラーメン
メディアにも度々登場する『麺昇 神の手』は2017年にオープン。通称「赤」と呼ばれる四川風辛味噌ラーメンがよく知られているが、他にも醤油ラーメンは「黒」、味噌ラーメンは「黄」、ホワイトソースを使った「白」と、バラエティが豊富。常連さんたちはラーメンを色で注文する。
四川風辛味噌ラーメンは、唐辛子と山椒の量を選べる。抜、少、普、増、天国とそれぞれ5段階。ネーミングにインパクトがある天国は、プラス200円だが、「一度、天国を食べると、天国ばかり召し上がる方も多いですよ」と店主の後藤高範(ごとうたかのり)さん。天国を頼むと丼に火を付ける火炎ラーメンが楽しめる。これも人気の秘密らしい。
なお、辛いのが苦手でも山椒の痺れが好きなら、唐辛子は抜にして、山椒を増にすることもできる。辛さと痺れる感覚がカスタマイズ可能なのだ。
四川風辛味噌ラーメンに使う唐辛子は、粉状のものと、少し細かいもの、粗いものを3種類配合している。粉末状の唐辛子を使うことでスープに唐辛子が溶けて赤くなるのだとか。山椒も痺れ具合が違う2種類を使っている。
『麺昇 神の手』は鉄板焼きも食べさせる店。カウンターの中には大きな鉄板があって、ラーメンの調理でも鉄板は活用されている。オーダーするとチャーシューとヤングコーンが鉄板の上に置かれた。
「脂身が多い豚バラを使っているので、脂がとろけるような食感に仕上げています。麺とチャーシューを違和感がなく一緒に食べて欲しいんですよ」と後藤さん。
豚バラを使ったチャーシューは表面がカリッとするまで、じっくり焼かれる。脂が溶けて、香ばしい香りが漂う。
その一方でもやしは敢えてフライパンで軽く炒める。「鉄板で炒めるよりも、その方が香ばしくなるんですよ」と、おいしさのために細部まで手を抜かない。
丼が目の前に置かれると、なかなかの迫力だ。豚骨をメインに鶏ガラを加えて半日炊き込んでいるスープは、口に入れると、とろりとしている。唐辛子の辛さも感じるが、山椒が生む痺れる感覚がスープを口に入れるたびに訪れて、楽しい。
赤に使う麺は中太の縮れ麺でもっちりとした食感だ。スープがよく絡むので、すすると唇にも痺れを感じる。なお麺は、例えば塩ラーメンには細麺が合うからと、限定も含めて4~5種類を使い分けているそう。
焼き目が食欲をそそるチャーシューも口に入れた瞬間のカリッとした食感もいい。温めたヤングコーンの歯触りもサクサクと楽しく、食感のバリエーションが豊富だ。
ボリュームがある一杯だが、スープが残ったらご飯を追加して一緒に食べるのもおすすめとのこと。「お客さんにはお腹いっぱいになってもらえるし、僕は、丼が空になって戻ってくるとやっぱり嬉しいです」と後藤さん。
店主は鉄板焼きの有名店で修業。創意工夫を絶やさない料理人魂
鉄板焼きメニューは、ランチには定食スタイルでも提供している。ラーメンのサイドメニューとして注文することもできる餃子も人気だ。
餃子はもっちりとした皮に野菜もたっぷり入った餡がぎっしり詰まっている。こちらも鉄板焼きの要領で、じっくり10分ほど、何度か水を垂らしてふっくら仕上げている。
後藤さんは、白金にある鉄板焼きの有名店で13年修業したのち、複数の飲食店で腕を磨いた。独立を果たす前には、飲食店経営を学び、ラーメン店のメニュー開発などの経験も積んできた。
後藤さんは『麺昇 神の手』を「居酒屋でもあるし、毎日の食事に来てもらえるような食堂でもあります」という。
外食はおいしく楽しくあってほしい。高円寺らしくコミュニティの架け橋にも
「ラーメンは、安くておいしいものという文化がありますよね。ランチや飲んだあとの〆など、短時間で食べるものとして召し上がるお客さんも多いです。でも、ディナーの時間帯は余裕を持って、食事を楽しんでもらいたいと思っています」。そんな気持ちから、18時から21時半までは1人あたり1200円以上の会計になるようにお願いしている。ラーメンにトッピングを加えて豪華にしたり、ビールを追加したりして、ちょっと贅沢できる時間と場所を提供したいのだ。
そんな後藤さんの願いが通じているのか、店に来るお客さん同志が仲良くなったり、果てには結婚したカップルも誕生したりと、店の雰囲気はいい。
辛さと痺れが魅力の四川風辛味噌ラーメンは、食べ終わった後も、痺れの余韻がしばらく続く。それが心地よく、クセになるのも納得の一杯だった。
取材・撮影・文=野崎さおり