名古屋発祥の台湾混ぜそば。高円寺でスパイスを効かせてオリジナルの味に
台湾混ぜそばは、太めの中華麺を使う。そこに唐辛子やニンニクで味をつけたミンチ肉をのせ、ニラ、ネギ、ニンニク、魚粉などをトッピングした麺料理。台湾と名付けられながら発祥地は名古屋で、近頃首都圏でも食べられる店が増えてきた。
その台湾混ぜそばを、独自にスパイスを加えて食べさせるのが、高円寺にある『混ぜそばみなみ』だ。
店主の三井航(みいわたる)さんは油そばが名物の店で修行した後、自分で店をやりたいと友人と2人で2015年に混ぜそばの専門店『混ぜそばみなみ』をオープン。後に友人は別の仕事に就いたが”みなみ”という店名は、その友人を含めた創業者2人の名前が由来になっている。
オープンしてからしばらくは、シンプルな混ぜそばだけを出していた。「たくさんのお客さんに来てもらえる方法を考えていたとき、世間で台湾混ぜそばの人気に火がつき始めていたんです」。
麺と具をぐるぐる混ぜるのも台湾混ぜそばの楽しみ
最初は流行にのった形で台湾混ぜそばをメニューに加えたとはいうものの、三井さんはオリジナリティに自信がある。「名古屋の台湾混ぜそばが好きな人にとっては、この店の台湾混ぜそばは別物だと言われてしまうかもしれません」と三井さん。
注文すると三井さんがカウンター上のコーヒー用のミルを操作した。注文が入るごとにコリアンダーシードのホールスパイスを挽いて、生のままどんぶりに加えるためだ。
『混ぜそばみなみ』の台湾混ぜそばがもつ最大の特徴はスパイスだ。パウダー状の八角、花椒、桂皮、クローブを混ぜた台湾の伝統的なミックススパイス、五香粉をベースのスパイスとして、別途粗挽きの黒胡椒とコリアンダーシードを加えている。
「商品開発しているとき、粗挽きのスパイスを使いたいと思いました。カレーのように油でスパイスを加熱する方法も試しましたが、油に香りを移して使うよりも、粗挽きにしたスパイスを生で使ったほうが香りの感じ方に奥行きが生まれておもしろいと思ったんです。口の中で噛んだときに香りが弾ける感じがしますよ」
最初のひと噛みで、粗挽きのスパイスの香りや食感を感じる。その驚きを演出したくて、生のままコリアンダーシードを使っているのだ。
コリアンダーシードが挽き終わると、丼にオリジナルレシピの醤油ダレと香味油を入れて挽いたばかりのコリアンダーシード、黒胡椒を加える。さらに鶏ガラでとったスープに五香粉を溶かしたものを少量。
そこに麺を加えて、たっぷりのニラ、ねぎ、魚粉、刻みニンニクとのり。大きめの粗挽き肉に唐辛子を効かせたものをたっぷり。そして卵の黄身が中央に落とされる。
『混ぜそばみなみ』の魚粉は、かつお節とさば節のブレンド。「かつお節が入る分、さば節だけを使うより、風味が柔らかくなって、スパイスが際立ちます」と三井さん。
台湾混ぜそばは極太麺を採用している店が多いが、『混ぜそばみなみ』では中太麺をオリジナルで製麺所に作ってもらっている。「中太麺ぐらいの細さの方が、表面張力でスパイス入りのタレが麺によく絡むんです」というから、いかにスパイスを食べて欲しいかがわかる。
麺に使う小麦は北海道産100%。全体に対して、0.25%だけ卵白を加えることで、張りのある麺に仕上げている。
混ぜそばなので、麺と具は、かき混ぜて食べる。表面がツルツルしていて喉越しのいい麺と粗挽き肉、野菜などが渾然一体となっているように見えるが、口に入れるとそれぞれが程よく主張する。
「混ぜたときに色々な風味を感じてほしいので、粗挽きスパイスや刻みニンニク、粒の大きい挽肉に魚粉など、食材の大きさをあえて揃えないことで奥行のある風味になるように意識しています」
味変いろいろで麺を食べ切ったら、ライス投入!飽きずに最後のひと口まで
卓上に置かれたソースで、途中で味変も楽しみたい。三井さんによれば、マヨネーズをベースにすりおろしりんごと唐辛子が入った特製ソースが台湾混ぜそばに合うとのこと。りんごのフルーティーさとマヨネーズのまろやかさが合わさったソースがまた別の奥行きを台湾混ぜそばに加えてくれる。
麺を食べ終わったら、ご飯を入れて食べるのも台湾混ぜそばのスタイル。ご飯とソースをさらに混ぜて、最後までどんぶりの中で生まれる豊かな味を楽しめるのだ。
スパイスたっぷりの汁なし麺、『混ぜそばみなみ』の台湾混ぜそば。スパイスにハマる人が増えてきた今、押さえておきたい味だ。
取材・撮影・文=野崎さおり