こだわり抜いた5種類の麺をメニューごとに楽しめる唯一無二の店
新宿駅西口からJR総武線の大久保駅方面と並行に走る通りは、言わずと知れたラーメン天国。ラーメン界の猛者がしのぎを削るエリアにあるのが『麺や 麦ゑ紋』だ。
店長の田内康弘さんによれば、オープンは2022年8月。「新ブランドを開発していく話し合いの中で、とことん麺にこだわった店舗を作ろうと誕生したのが『麺や 麦ゑ紋』でした」と話す。
「つけ麺でもだいたいは麺が1種類ないし2種類。だけどうちではメニューによって特徴のある麺を使ったつけ麺をやりたい、と。その想いやコンセプトは店名にも込められています」。
味や香り、食感もすべて違う麺を端からひとつずつ食べてみたくなるが、これらの麺が一度に3種類食べられるとインスタ、TikTokで人気なのが合盛りつけ麺だ。「たぶん他にないメニューだと思うんですよ。女性のお客様で麺が3種類出てくるとは知らずテーブルに運ばれてきたら『わぁ!』と驚く、みたいな反応はよくありますね(笑)」と、語る田内さん。
女性をターゲットにしたわけでなかったが、3〜4割は女性客。意外な反応におどろいているそうだ。とはいえ、平日は近隣で働く人がほとんど。土日、祝日になるとウワサを聞きつけた全国のラーメンファンがこぞってやってくる。
個性豊かな3種の麺だけでなく、つけ汁に鮭節や隠し味に白菜を使った合盛りつけ麺
田内さんの話を聞いたら、合盛りつけ麺950円を食べずにはいられないでしょう。さっそく合盛り一丁お願いしま〜す!
国産小麦と全粒粉、ふすまを加えた香ばしくてほんのり苦味もある中細麺・小麦ブラン麺。国産小麦100%の平打ち麺は沖縄産の塩・島ま〜すをブレンドしている。そして、一反もめんのような極平麺は、厳選した小麦を使った独自製法で加工、切り出したもの。口の中が小麦の香りでいっぱいになる。
当然だが、3種の麺をゆで始めるときはそれぞれタイマーをセットする。「今は1品だからいいですけど、オーダーがたまると最大4玉ずつを一斉に茹でるんですよ。そしたら1種ずつ水で締めて盛り付けるんです。これを3回やるので、混み合うランチタイムはバタバタすることもあります(笑)」と田内さん。
麺だけでなくつけ汁にもこだわりが。
「豚ゲンコツ、豚背骨、豚足と北海道産鮭節をベースに数種の乾物を低温でじっくり炊き合わせています。鮭節を使ってるのがかなり特徴的ですね。よくあるカツオ節やサバ節には酸味があるんですけど、鮭節はそれがまろやかなんです」。
「あとは香味野菜などが入っているんですけど、珍しいのは白菜を加えていること。鍋の最後のスープがまろやか〜な感じ、わかりますか? つけ汁を飲んだだけではわかりにくいですが、これがけっこういい味出すんですよね」。ほほう、いいじゃないですか。
では、いただきます。きれいに並べられた3種の麺が美しい。麺にすだちをかけて、極平麺から食べてみた。う〜ん、もっちもち! つるつるしていて食が進む。1本だけでも幅広だから口いっぱいになる。つけ汁は野菜などの甘みでまろやか。あっさりとしているが、鶏油の香りとコクで食べ応えは申し分ない。
残念ながら筆者にはつけ汁の中の白菜を見つけられなかったけど、後味にほのかな鮭が感じられた。小麦の香りと甘みを感じるつる平麺、穀物の香ばしい風味や苦味も旨味のうちと感じさせる細麺・小麦ブランもつけ汁にマッチしている。ニンニクが利いた豚肩ロースのチャーシューやシャキシャキの江戸菜、瀬戸内産の香り高い海苔もおいしさを援護射撃。これだけ個性がバラバラの麺を、ふんわりとまとめるつけ汁の包容力がすごかった。
まろやかな釜玉麺を劇的に変えるトリュフ&牡蠣ペースト
食後の感想をメモしていると、田内さんが「合盛りつけ麺の人気に追随する勢いの日本一釜玉麺もぜひ食べてみてくださいよ」と、すすめてくれた。うっわ〜! なんておいしそうなんだ!
麺はパスタでもおなじみデュラムセモリナをベースに国産小麦の中力粉を加えたデュラム麺。ほどよい弾力とツルッと感が心地よい中太麺だ。
麺のトッピングはマキシマム濃いたまごと青ネギ、花がつおだけ。アツアツのうちにこだわりの生醤油をベースにした甘いたれを絡めていただく。
田内さんが食べ方のレクチャーをしてくれた。「名前の由来になってる日本一っていうのは、ベースにしている日本一生揚げ醤油からとりました。加熱処理をせず、麹の香りがする搾りたての醤油なんですよ。トッピングにはメンマと鶏胸肉の低温調理チャーシュー、トリュフと牡蠣のペーストがついてきます。最初はそのまま食べてもらって、途中からこのペーストを加えて味変すると、2度おいしく楽しめますよ」。
最初は釜玉うどんみたいな感じで、濃厚な卵とまろやかな甘めの醤油だれ、薬味のネギ、花かつおがおいしい。卵かけご飯にも通じるけど、これぞベストメンバーなのだ。誰が欠けてもいけないし、増えてもいけない。運営が新メンバーを入れるっていうならファンクラブ辞めてやる! という、勢いだったのだが。
トリュフと牡蠣のペーストを入れたら衝撃が駆け抜けた。言うなればモー娘。でいうところの後藤真希。AKB48でいうところの松井珠理奈。一気に鼻を抜ける濃厚なバターに似たトリュフの香りと、磯の香りと濃厚な旨味をもつ牡蠣の風味がまったりまろやかな味を昇華させるのだ。
「ありがたいことにSNSで注目されているみたいで、日本一釜玉麺を目的に来てくださるお客様が多いんですよ。見た目も意識したメニューだったので、女性のお客様に評価していただけたのはうれしいですね」と田内さんがほほえむ。
今は合盛りつけ麺と人気を二分する勢いだという日本一釜玉麺。今日は全5種の麺のうち、4種制覇したから、残るは手揉みらーめんの手揉み縮れ麺だけ。舌に残る感動が失せないうちに早めに再訪したい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢