あのパンダは何モノなのか?
そもそも、この薬局の店先にいるパンダは何者なのか。漢方薬局でよく見かけると思っていたら、それもそのはず、パンダは中国漢方の製造や販売を手掛けるイスクラ産業のキャラクターで、イスクラ産業の製品を扱う「日本中医学研究会」の会員店に置かれているという。イスクラ産業のHPによれば、名前はニーハオ・シンシン(你好星星)。男の子で、好きな食べ物は笹だそうだ。パンダとして真っ当な食生活である。誕生日は1973年8月10日。つねづね造形が完成されているなぁと思っていたところ、「虫プロ」のデザインだということで、納得させられた。
48体のシンシンの状況は千差万別
ひとまず東京中40軒の漢方薬局を回って、48体のシンシンの状況を調べてみた(数が合わないのは、1店に複数のシンシンがいる場合があるからだ)。すると、以下のようなことが分かった。
まずシンシンの置かれている台について。31体は赤い六角柱の台座の上に立っていた。他は「中国漢方」と書かれた円盤の上に乗っているものが9体。折れてしまったのか、もともと無い仕様なのか、台座がないものも8体いたが、いずれも椅子や座布団に座らせてもらうなど大事に扱われていた。
48体のうち43体はシンシン本人が一人で立っていたが、5体はスリング等で小さいパンダを抱いていた。これらのシンシンには「漢方で妊活」「子宝相談」などの言葉が添えられており、薬局のアピールポイントとなっているようだ。しかしシンシンは男の子ではなかったか。小さな弟妹の世話をしているのか、あるいは育児をする父親なのか。プロフィールによればシンシンは今年で47歳ということなので、あながちあり得ない話でもない。
パンダなのに服を着ている方が多い?
そして服装である。裸体のみが19体と最も多く、シャツ等の洋服8体、チャイナ服7体、裸体にスリング3体と続く。人間用の服を着せているのかなと思うものもあったが、シンシンのワッペンが付いたシャツやチャイナ服はシンシン専用に凝った作りがなされており、思い入れの強さが伺える。サッカー日本代表ユニを着たシンシンもいたが、こちらもシンシン専用服である。一方、神宮球場に近い薬局では、ヤクルトのユニフォームを着たシンシンがいたが、こちらは人間用の服であろう。また冬だからか、裸体にマフラーのみを巻いているシンシンも2体いた。パンダだから許される格好である。
で、さて。マスク事情はどうなのか?
ところで当初の目的に戻ろう。果たして48体のうち、マスクをしているシンシンはどれほどいたのだろうか。結果、白衣にマスク姿が2体、裸体にマスク・マフラー姿のシンシンが1体、裸体にマスクのみが1体、計4体であった。調べた中では12人に1人がマスクをしている計算になる。マスクシンシンは圧倒的少数派だ。店にいる2体のシンシンがともにマスク姿、という薬局で話を伺うと、シンシンにマスクをつけた理由は「別に今だからというわけではなく、薬局っぽいと思って」ということであった。また、裸体にマスクのみを付けているシンシンをよくよく見てみれば、鼻部分がへこんでいるように見える。他の店でも、やはり何かにぶつかりやすいのか、鼻部分が壊れてしまっているシンシンを何体か見かけた。マスクは、こうしたトラブルを隠してくれるアイテムでもあったのだ。
結論としては、今のご時世とシンシンのマスクとは直接の関係はないようである。しかし今回の調査中に、マスクをしたケロちゃんを見かけたのだが、こちらは花粉症という設定のようであった。いずれにしても一日も早くマスクの供給が元通りになり、またマスクが必要な状況が収束することを願うばかりである。
画・文・写真=オギリマサホ