岡山の老舗豆腐店『山本豆腐店』が運営する豆腐料理専門店
恵比寿ガーデンプレイスやエビスビール記念館、ウエスティンホテルと大きな建物の裏手の閑静な住宅街にある豆腐専門店『Balloom東京店』。ここは岡山の老舗豆腐店『山本豆腐』のアンテナショップだ。3代目店主の山本加津子さんに話を聞いた。
「『山本豆腐』は私の祖父で創業者の山本春夫が岡山市内に小さな豆腐店を開いたことから始まりました。会社の創立は昭和34年(1959)ですが、それ以前から曽祖父が豆腐店を営業していたようです」と語る。
「うちの豆腐はスーパーに卸していないので、知名度は低いです」と謙遜する山本さんだが、学校給食、病院や自衛隊、刑務所に卸しているそうで、岡山市出身の人は知らず知らずのうちに食べているかもしれない。
現在の『山本豆腐』は、山本さんのご両親(2代目)が店を守っている。「伝統を引き継ぐおいしい豆腐を選んで食べて欲しい」という思いから作られたのが『Balloom』だ。
「2013年にオープンした『Balloom岡山店』は、私がニューヨークで見つけてきた雑貨やコスメを販売していて、さらに豆腐を使ったものを食べてカラダの中からキレイになってほしいという願いを込めて営業を始めました。小さな店なのでバスタブに浸かるようにゆっくりとお食事していただきたいな、と最初は『Bath room』って付けたかったんですけど、トイレのイメージもあるのでBath roomとMy roomを合わせて『Balloom』という店名にしました」。
食事もカフェも大豆づくし! アンティークに囲まれた店内で概念を覆す豆腐を味わう
『山本豆腐』の豆腐は、産地にはこだわらず、国内外に限らず吟味した大豆をふんだんに使用し、初代から続く製造工程を遵守しながら毎日手作りする。山本さんによれば、スーパーなどで売っている一般的な豆腐の大豆含有量は10%以下なのに対し、山本豆腐は12~14%も大豆を使用しているのだとか。
「しっかりとした食べ応えがあって香りも味もいい。そんな『山本豆腐』こだわりのお豆腐を選んでもらい、おいしい調理法を提案したくて2017年に東京・恵比寿にアンテナショップを出しました」。
店頭では、毎日絞る豆乳や豆腐を販売している。「岡山で豆乳や豆腐、油揚げなどを作って、市内で卸しもやって。さらに東京に持ってきて販売、調理も。岡山の店は両親が現役なのでおまかせしていますが、基本ワンオペなので忙しいです(笑)」。岡山と東京の往復だけでも大変なのに、パワフルな山本さんには頭が下がる。
交友関係が広い山本さんは、知人から恵比寿に店を出すことをすすめられ、『Balloom東京店』をオープン。「豆腐の和のイメージじゃなくて若い人にも魅力を感じていただこうと洋館のようなデザインにしました。実は、屋号を継ぐ前はアンティークを取り扱う店で働いていたんです」。店内のインテリアはすべてアンティーク。歴史ある建物のように感じるが、実は新築なのだとか。食器も滞在経験のあるニューヨークで買い付けたという。
洗練されたセンスを持つ山本さん。豆腐屋さんという異業種に転職することには抵抗がなかったのだろうか。
「日本はものづくりの国だし、それをやめたら日本は潰れてしまうと思うんですよ。それに、私は豆腐屋に生まれてうちの豆腐を食べて育ちましたし、シンプルでおいしいものなので残していきたいなと思いました」。
お豆腐作りの伝統を守っていき、レストランは時代に合わせて変化していこうと考えている山本さんだ。
大豆そのまんまのおいしさがダイレクトに伝わる豆腐づくしの定食
さあ、自慢のお豆腐料理をいただく時間となりました。ランチは3種類あるが、シンプルに豆腐のおいしさを感じられそうなお豆腐屋さん御膳1570円を選んだ。
やはりいの一番に手をつけたのは豆乳出汁の湯豆腐。自慢の濃厚な豆乳に鶏ガラスープ、岡山の醤油でほんのり味付けただけなのだが、大豆の旨味や香りがダイレクトにわかる。鳥の小皿に入ったごま油と塩、梅肉のタレをつけて食べてもいいが、そのまま食べるのも大豆のおいしさがわかっていい。
シンプルだけど、お豆腐がメインのおいしい料理をひとつひとつ丁寧に提供している。2017年のオープン以来、子どもからお年寄りまで「ここのお豆腐じゃなきゃダメ」というファンが続々増えているそう。山本さんも「大変だけどキチッと作っていると味って伝わるんですよね。食べ残しも少ないです」とうれしそうだ。
毎日の味噌汁やお酒の定番・冷奴、国民的スターの麻婆豆腐。物心ついた頃から日本人のほとんどがお世話になってきたのに、肉や魚を使ったいわゆるご馳走にうつつを抜かしてきた。山本さんが目指すのは豆腐がもっと主食級になること? と尋ねると、「いや豆腐は永遠の脇役・スーパーバイザーでいいんです。でも、だからこそ毎日食べて欲しい。そんな料理を提案していきたいですね」。
山本さんたち、お豆腐を作ってくれる職人がいるからこうしておいしい豆腐が食べられるんだよなあ。毎朝、冷蔵庫をあければパックに入った豆腐がやさしくほほえんでくれる。今日は当たり前の幸せに感謝しながら、さいの目に切った豆腐をそっと鍋に入れた。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢