ヨネダ2000……清水亜真音(Shimizu Amane・左)、愛(Ai・右)

NSC23期。清水亜真音1999年生まれ、愛1996年生まれ。神保町よしもと漫才劇場所属。2020 年4 月に現コンビ名で結成。2021年、『M-1グランプリ』準決勝進出、『THE W』では決勝進出。2022 年1 月には、『オールナイトニッポン0』でパーソナリティをつとめた。

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雨の金曜日。神保町よしもと漫才劇場に現れたヨネダ2000のふたりは、たぶんすこし緊張していた。だが外に出て撮影が始まると、カメラマンに言われるまでもなく、表情がやわらぎ自由に動き始める。互いの動きを瞬時に察して、自分の立ち位置を的確に決めていく。まるで、ふたりの間だけで暗黙の会話が交わされているようだった。撮影後、ヨネダ2000をはじめ、劇場所属の芸人たちが出場するネタライブを観覧した。

ボケとツッコミを超えた先に「どすこい」がある

――今日のネタは、どういう経緯でつくられたんですか。

清水 月に一度、「お題ネタバトル」といって、各コンビが決められたお題の新ネタをつくって披露するっていうライブがあるんですけど、そのお題が「趣味」だったんですね。人を驚かせるのが趣味っていうのはどうだろう、から考え始めて、「大声を出してそのあと謝る」のを趣味にしようということでつくったネタです。

清水さんが突然大声を出して、愛さんが驚いてびくっとしたところで、清水さんが謝るというシンプルなネタだが、絶妙なリズムで進んでいく。

 いつもギリギリまでネタが決まらないんですけど、今日お見せしたのはこれまででいちばんギリでした。わたしはそんなに焦らないんですけど、今回は焦りました。過去イチで。

清水 基本、新ネタはいつも追い詰められてつくってます。

――追い詰められた末のネタには感じませんでした。昨年の『THE W』決勝でも披露した「どすこい」のネタもですか。

清水 あれも出番の10分前くらいになって、ようやく通しでできたんです。

「どすこい」は、愛さんがひたすら両腕を交互に突き出しながら“どすこいどすこい”と繰り返している横で、清水さんがひとりで5役を演じ分ける。ふたりで別々のことをやっているようで、清水さんが愛さんの突き出しをうまく避けたり、当たったりしてからんでいく。驚くのは、それぞれが関連なく発声しているのに聞き取れること。声も美しい。このふたりにしかできない新しいスタイルだ。

清水 2021年2月に、新ネタライブがあったんです。その日の朝に出来上がった別のネタを持っていったら、愛さんがあまりよろしくない、という顔をして、作り直さなきゃ!ってなって。その時は“どすこい”の突き出しをよけるっていうのだけが頭にあったんです。それが本番の4時間前くらいでした。

 漫才のときは、わたしはツッコミなんですけど、“どすこい”やるだけで大変だから、つっこめない。

清水 わたしはこっちでやってるから、愛さんは“どすこい”やっててくれって。

 最初と最後だけ決めて、わたしはずっと“どすこい”やってた。

清水 でもこれを舞台でやって、そんなに悪くないなって、感覚的にふたりで感じたんですね。こういうのが向いてるんじゃないかなって。

――ボケやツッコミから解放されたネタですが、「どすこい」以前の漫才は、愛さんがツッコミ、清水さんがボケと、明確に分かれていたんですか。

 違和感がありました。ツッコミが得意でもないですし、そんなにやりたくないって言ったんです。で、どうしようって考えた末の「どすこい」だった。そこからだんだんと、わたしがしゃべるネタでもツッコミというよりは、話を聞く。

清水 寄り添った感じ。

 話を聞いて、とまどう、とか。そうしたほうが、やりやすかったので、「どすこい」以降は、そういう感じになりました。

――“ボケとやさしいお友達”っていうスタンス、と別のインタビューでお話していました。

清水 たぶん、ふたりの素の性格に合ったことをしようと思ったら、そうなったんです。愛さんは、ふだんからあまりつっこむタイプではないので。

――漫才とコントでは違いがありますか。

清水 コントになると、ボケとツッコミが反対になるんです。愛さんがボケで、自分がツッコミ。これも合わないなあってお互い思ってて。自分がツッコミができる技量がなかったので、ここでもなんか違うんじゃないかなって話になっていました。

――ネタのときに人格を変えるのではなく、日常の延長線上で考えるのが、やりやすい。

清水 そうですね。

清水 以前は、ネタを書くペースがめちゃくちゃ遅かったんです。書きづらかったんだと思う。自分たちに合ってなかった。「どすこい」で、ネタの考え方が変わりました。

神保町すずらん通りで、「雨に唄えば」。ほがらかさと穏やかさが同居している。
神保町すずらん通りで、「雨に唄えば」。ほがらかさと穏やかさが同居している。

コンビ名に確かに宿る「宇宙」

ヨネダ2000は、2020年4月に結成。だが、さかのぼって2018年2月に現メンバーで「ギンヤンマ」を結成している。翌年、ひとり加わって3人で「マンモス南口店」となるが半年で解散。だから正確には、ヨネダ2000は再結成だ。その後、2021年には『M-1グランプリ』準決勝進出、『THE W』では決勝進出を果たした。

――トリオだった「マンモス南口店」を解散したのち、ふたりはそれぞれの道を行くのではなく再結成を選んだのには、どんな経緯が?

清水 トリオを解散したあと、自分は別の方を探しました。

――あ、ふたりも解散していたんですね。

 そうなんです。わたしはその後も亜真音と組みたかったんですけど、他を探しているからもう無理だなと思って。わたしも一応、探してみたんですけど進まず。なのでわたしはずっと待ち側ですね。

清水 ずっと待ってたっていうのを知ったのは最近だったんですよ。

 たしかに隠してた。他を探してる感じを出してました。

清水 声をかけられたときはびっくりしました。まだおもしろいと思ってるから組みたいって言ってくれて、ああおもしろいって言ってくれた! うれしい!ってなって、もう一回組みました。最初、ギンヤンマを組んだときも、おもしろいって言ってくれたんですけど。

――ヨネダ2000というコンビ名についてなんですが、清水さんのなかで「ヨネダ」が“宇宙”を感じてすごく気に入っている言葉なんですよね?

清水 そうなんです!

――その、宇宙を感じるっていうのが、正直よくわからなくて……。

 わたしも、わかんないです。この話題になると、亜真音は生き生きするんですけど。

――「ウルトラマン」とか、あと2022年1月放送の『ヨネダ2000のオールナイトニッポン0』で視聴者の方からの投稿にあった、「牛丼」も、そうだとか。

清水 牛丼の表記は、「ギュードン」ですね。圧倒的に宇宙でした。

――カタカナ表記だから、というわけでもないんですよね。

清水 そうですね。

――ちょっと考えてみたんですが……。

清水 ありがとうございます! うれしい! みなさんの宇宙を知りたい!

――たとえば、「デスマッチ」。

清水 ああ、デスマッチは違いますね。強いです。

他にもいくつか考えた候補を挙げてみたが見事にすべて「宇宙」ではなかった。

清水 すみません。みなさん、個々の宇宙があっていいはずなのに、違うって言ってしまうのが申しわけないです。

――いえいえ。清水さんの「宇宙」の揺るがない感じが伝わってきました。

自分たちの違和感を解消していく

――今着ていらっしゃる衣装は、ヨネダ2000になってから、ずっと同じものですか。

 いちばん最初は、わたしは白ベースに水玉のシャツを着てました。

清水 自分はアメリカから輸入した変な柄のシャツです。お互い、ぜんぜん好きじゃなかった。

 ぜんぜん好きじゃない。明るく見せようみたいな感じだったから、恥ずかしいよね。

清水 今の衣装は、ふたりとももともと私服だったんです。でも先輩の「素敵じゃないか」の吉野さんに、いい衣装だねって言われて。それがきっかけで、これになりました。

再結成して2年。ネタも衣装も、それぞれの違和感をひとつずつ解消していってたどり着いた境地に、いま立っている。

ヨネダ2000行きつけの神保町スポット

三幸園

創業1966年。人気は焼き餃子だが、愛さんは、「唐揚げがおすすめ。ハーフでも頼めます。あとは野菜がいっぱいのった麺も好きです」。

・11:00~翌2:00LO、(日・祝は~22:00LO)、土休。☎03-3291-8186

新潟カツ丼タレカツ 神保町すずらん通り店

薄くたたいた豚肉にパン粉をつけて揚げたカツに、甘辛醤油ダレで味付け。「タレカツに付く野菜もおいしいんです。テイクアウトもできます」と愛さん。

取材・文=屋敷直子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2022年5月号より