木馬館の向かいで営業を続ける『君塚食堂』

大衆演劇場の「木馬館」がある浅草の商店街、奥山おまいりまち。ここは江戸時代の中頃から見世物小屋や大道芸などを楽しむ人たちで賑わっていたという。

現在は大衆酒場や洋品店など昭和の雰囲気を色濃く残すお店に加え、新しくできたおしゃれなカフェなども営業している。浅草に住む人々や観光客が行き交う、非常に活気のある通りだ。

大衆演劇場の木馬館もお芝居や舞踊ショーを楽しむファンたちで賑わっている。通りすがりの若者たちも、建物を背にして自撮りを楽しんでいた。

今回訪問する君塚食堂は木馬館の向かいで営業している。昔ながらの浅草の雰囲気を残す大衆食堂で、店主は5代目を数え、おおよそ130年ほどの歴史があるという。単純計算すると明治25年(1892年)の創業となるが、明治初期には営業していたという話もあるそうだ。

メニューは豊富で、定食から丼物、お酒のおつまみなど、和洋中あわせて80種類以上が揃う。オムライスやラーメン、チキンライスや焼きそばなど、常連客によって看板料理と呼べるお気に入りがたくさん存在する。何度も通って、新しい味を発見するのも楽しいだろう。

『君塚食堂』の看板料理、おでんを楽しむ

『君塚食堂』には魅力的な料理がたくさんあるが、おでんも看板料理のひとつだ。店先でじっくり丁寧に調理しており、匂いにつられて足をとめる観光客も多い。

おでん種は大根や玉子、さつま揚げ、つみれやはんぺんなど定番物を取り揃えている。盛り合わせもあるが、1品ずつ選びたい場合は鍋の前で注文する。おでん種は一律価格となっており、合計金額を計算しやすい。

大根もほどよく色が移り、しっかり味が染みているのがわかる。おでん種の仕入れ先について質問してみたが、店員の方は「そんなにたいそうなものを使っているわけではなく、ごく普通のもの」とおっしゃっていた。

鍋の前でおでんをいくつか選び、座席に移動する。瓶ビールを1本オーダーし、のんびり浅草の景色を楽しみながら味わってみることにした。

座席は屋外と屋内にあるが、屋外では木馬館を眺めながら料理やお酒を楽しめる。訪れた日は常連客が数名いる程度だったが、木馬館のお客さんや従業員もよく利用するそうだ。また、土日は競馬をたしなむ紳士や観光客が多くなる。

『君塚食堂』にはお客さんだけでなく、近隣に住むお店の知り合いも頻繁に挨拶に訪れる。小学校にあがった子どもや浅草歌舞伎のチケットにいたるまで、さまざまな話題で盛り上がっている。人情あふれる交流に心がなごむ、浅草ならではの光景だ。

さて、肝心のおでんだが、それぞれの種に味がしっかりと染みていながらやさしい味わいとなっている。おでん汁は昆布と鰹節のスタンダードなもので、懐かしさと安心感が漂う。さつま揚げは柔らかく甘めの味付けで、街歩きの疲れをじんわりほぐしてくれる。お持ち帰り用にも購入したので、詳細は後述したいと思う。

浅草には露天の雰囲気を味わう横丁や料理通を唸らせる老舗の有名店など、さまざまな食の楽しみ方がある。しかし、地域の日常風景に紛れながら肩肘張らずに楽しめる大衆食堂も代えがたい魅力がある。ビールを片手におでんを味わいながら、日頃のストレスをのんびり解消してみてはいかがだろうか。

お持ち帰り用におでんを購入して、自宅で食堂気分を楽しむ

現地でおでんを堪能したが、『君塚食堂』はお持ち帰りもできるので自宅で続きを楽しめる。今回は6種類ほど購入した。

時計回りに12時から、大根、がんもどき、じゃがいも、ちくわぶ、ごぼう巻、玉子(中央)。

お持ち帰りとして購入すると発泡容器に入れてくれ、手提げのポリ袋を渡してくれる。容器にラップをして輪ゴムでとめてくれるが、持ち帰る際は傾けないように注意しよう。

弱火で温めておでん種の中まで火が通ったら、すぐに食べることができる。玉子は電子レンジで温めると爆発する恐れがあるので、コンロなどで温めよう。

大根は内側まで味が染みており、口に含むと噛む必要がないほど柔らかくなっている。おでん汁の出汁の旨味がじゅわっとあふれてくる。

玉子もしっかりと煮てあり、ふんわりと旨味が広がっていく。固茹での黄身はきめ細やかで滑らか、クリーミーな味わいに癒される。

ごぼう巻はさつま揚げと同じように甘めの味付けとなっており、食感もふわっと柔らかい。ごぼうも柔らかくなっているが、独特の風味をきちんと残している。

ちくわぶの表面はとろりとしていて、中は適度な弾力を残している。やさしい味わいのおでん汁が、ちくわぶによってさらにまろやかに感じられる。

じゃがいもは煮崩れせずに中心まできちんと火が通っている。でんぷん質の満足感のある味わいと、ほくっとした食感が楽しめる。

がんもどきはおでん汁の旨みを抱き込んでおり、非常にジューシーだ。人参や刻み昆布など定番の具材が入っており、安心感のある味わいとなっている。

『君塚食堂』のおでんは緊張がほぐれるような、ぬくもりのある味がする。さらに人情味あふれるお店の雰囲気が加わって、おだやかでやさしい気持ちになってくる。浅草の賑わいを思う存分楽しんだら、『君塚食堂』で心も身体も癒やしてみてはいかがだろうか。

『君塚食堂』の基本情報

『君塚食堂』
〒111-0032 東京都台東区浅草2-3-26
03-3841-5686
定休日:水曜日(不定休有)
営業時間:10:00~18:00

取材・文・撮影=東京おでんだね