夫婦で紡ぐ、創業約45年の純喫茶

手描き文字のような店名にも趣がある。
手描き文字のような店名にも趣がある。

買物客をかき分けながら進んでいくと、真っ赤なひさしが目印の店頭が見えてくる。どうやらこのビルの2階にあるようだ。階段の壁面には、訪れた客が残したメッセージが描かれた黒板や、これまで訪れた著名人のサインや写真などが貼られ、この店の歴史を物語っている。

カランカランと音を立てる扉を開くと、店主の中村洋二さん、和子さんご夫妻が笑顔で出迎えてくれた。昭和53年(1978)12月にオープンして以来、喫茶店としてだけでなく、ランチも評判の店としてファンが多く訪れる。

雨の日も風の日も、開店以来ずっとご自宅から約20分かけて自転車通勤されている。
雨の日も風の日も、開店以来ずっとご自宅から約20分かけて自転車通勤されている。

「コーヒーだけでなく、フォークやナイフで食べるクレープも提供していて、当時としては先駆けだったんですよ。でもその頃、この地域ではクレープはあまりうけなかったんですね。そこでランチを始めるようになったんです」と和子さん。

今やオムライスだけでも10種類ほどあり、このほかにもお膳セットやおにぎりのランチセットなどメニューの幅は広がっている。「当時は珍しかったと思うのですが、オムカレーとかスパカレー、サラダスパといった今ではよくあるメニューも、かなり早い段階で提供していた方だと思います」と話す。

小さなキッチンから次々と料理が出てくる様子を見て、お客様が関心されていたとか。それも納得!コンロ2つから手早く生み出される料理は、まるで魔法のようだ。

昭和レトロな内装にも注目を

壁面には名画も飾られて、中村さんご夫妻のセンスが光る。
壁面には名画も飾られて、中村さんご夫妻のセンスが光る。
懐かしいゲームテーブル機は今も現役!
懐かしいゲームテーブル機は今も現役!

店内に置かれた革張りの椅子や、クッションフロア、レジスターや壁面のランプなどは創業時からそのままで、クラッシックな落ち着いた雰囲気を醸しだす。重厚感がありながらも、窓から差し込む陽光が店内を明るく照らし、やわらかな雰囲気をつくっている。

「内装も当時の流行でした。2台あるテーブルゲーム機のうち1台は、今も作動して使えるんです」と洋二さんは話す。

昭和遺産のような貴重さがある内装は、今のようにすべて統一された空間というよりは、どこかそれぞれに個性があり、その違和感こそが、純喫茶ならではの良さなのかもしれない。お客様も学生時代から足を運んでくれる30数年来の常連客がいる一方、最近の純喫茶や昭和レトロブームの後押しもあって若い客も多いのだそうだ。

ふわり、まとまり感のあるオムライス。絶妙な塩加減で上品な味

オムライスと生姜焼きがセットになった、ワンプレート980円とセットコーヒー220円。
オムライスと生姜焼きがセットになった、ワンプレート980円とセットコーヒー220円。
洋二さんは中華料理出身ということもあり、料理は中華鍋で作ることが多い。
洋二さんは中華料理出身ということもあり、料理は中華鍋で作ることが多い。
お皿に盛り付ける時に、ケチャップライスをくるっと包む。
お皿に盛り付ける時に、ケチャップライスをくるっと包む。

数あるメニューの中でも今回注文したのは、ボリュームも満点でおすすめのワンプレートランチ。オムライスと生姜焼きのセットのほか、ハンバーグや牛焼肉なんかもある。

オムライスは卵2個を使って作り、ふんわり包むのがコツなのだそうだ。カウンター越しに調理風景を見ていると、和子さんがサラダを盛り付け、洋二さんが中華鍋を振ってケチャップライスを炒めている。分業と連携で手早く一皿が出来上がっていく様子は、さすがのコンビネーション!

ベーコンと玉ネギのシンプルなケチャップライスだが、主張しすぎず薄焼き卵とのバランスがよい。
ベーコンと玉ネギのシンプルなケチャップライスだが、主張しすぎず薄焼き卵とのバランスがよい。

割ってみると、みっちりと卵に包まれて、見た目以上にボリュームがある。ケチャップライスの酸味が際立つわけでもなく、だからといって卵が主張しすぎるわけでもない絶妙なバランスで、おいしい!

やさしい甘さを感じる生姜焼きは、オムライスと交互に食べても、味の濃さはまったく感じずバランスがよい。淹れたてのコーヒーを飲みつつ、ペロリと平らげた。

 

創業当時、駅には必ず設置されていた伝言板をヒントに掲げたという。ファンのメッセージボードになっている。
創業当時、駅には必ず設置されていた伝言板をヒントに掲げたという。ファンのメッセージボードになっている。

食事を終えて、中村さんご夫妻としばし歓談を楽しんだ。こんな風に気軽におしゃべりできるのも、中村さんご夫妻の和やかな人柄だからこそ。「40数年もお店をやっていると浮き沈みは本当にいろいろありました。お店もやめようと思ったことも何度もありますけれど、こうして続けられるうちは続けていきたいですね」と話す。

時々、2人の息子さん家族がそれぞれお孫さんを連れてお店にも足を運んでくれるというので、家族との会食が楽しみなのだそう。これからも長く、高円寺で愛される喫茶店として続くことを願わずにはいられない。

住所:東京都杉並区高円寺北3-25-26 -2F/営業時間:12:00~21:30LO/定休日:木・日/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩4分

取材・文・撮影=千葉香苗 構成=アド・グリーン