宅建登録でおなじみの都庁へ。意外とお金がかかるのだ。
こっち方面は何か用事がないと来ない。オレは宅建士の登録と宅建士証の交付で2回来たな。
ご存知だっただろうか。宅建士と名乗るには合格だけじゃだめなんだ。資格登録を申請して、宅建士証を交付してもらって初めて宅建士になれる。
オレはどうせなら記念にと、郵送でも申請できるみたいなんだけど、2回都庁の不動産業課に来たんだ。ちなみに宅建士の登録手数料は3万7000円。まあまあ高い。
登録申請が受付されると、1~2ケ月程度で登録が完了して、登録通知ハガキが届く。そうしたら次は宅建士証の交付をしてもらう。交付申請手数料は、4500円。また金がかかる。交付は即日だ。何となく30分くらいぼやぼやしているうちに交付してもらえる。
今日はそんな都庁の展望室から街を覗いてみよう。
「こういう風景って気持ちいいよね」
エルボーはそういって、チラっとオレを見る。
「……そうだね」
オレは優しくエルボーに答えてみせる。上出来だ。共感できた。
「女性の心を掴むには、まずは共感しろ」となにかの本で読んだのでドキドキしつつまずは共感してみた。というのも、こんな風景からインスパイアされて「タワーマンションを買おう」なんて言われた日にゃ目も当てられないし、オマケに「貯金って1億円ある?」なんて聞かれたら、またオレは卒倒しちまいそうになるが、でもな、まずは共感だ。
するとエルボーは、こんどはオレをちゃんと見た。
そして笑いながら言った。「あのさ、ほんとはうんちくを語りたいんでしょ」
……では語らせてもらおうじゃないか!
まず超高層ビルが林立する風景をみて「?」と思ってもらいたいことが2つある。
1つ。
超高層ビルが一か所に集まって建てられているのはなぜか?
2つ。
ここが超高層ビル街になる前は、何があったのか?
超高層ビルが一か所に集まっているのはなぜだ?
では1つ目。
「超高層ビルが一か所に集まって建っているのはなぜか?」なんだけど、「どうしてこのエリアだけ超高層ビルの建築が許されているのか?」ともいえる。そもそも建築物の高さ(大きさ)は容積率とかで規制されている。
本来のこのへんの容積率は商業地域で800%〜1000%(せいぜい8階〜12階)くらいで、住居地域では200%〜400%(せいぜい3階〜6階)くらいなので、展望室から見てもこんな感じだ。
ふつうだとこの地域に超高層ビルは建てられないんだけど、現にこうして建っているんだから、そこには仕組みがあるのです。
そうです。都市計画です。
どんな都市計画かというと「特定街区」。
特定街区制度は、形の整った一定規模以上の街区(広めの道路に囲まれた一区画・ブロック)を対象に、その街区にドドーンと超高層ビルを建てさせちゃおうというもの。
そりゃ一般的な容積率などの建築ルールに縛られていたんではこの計画は無理だよね。なので、特定街区では一般的な建築ルールは適用除外で、超高層ビルを建築するための特別なルールが設定されている。
ちなみに、この西新宿界隈には10以上の特定街区が指定されていて、その特定街区ごとに特別ルールが定められていて、その特別ルールに基づき、特定街区一つひとつにドドーンと超高層ビルが建築さているというわけです。
この地図がわかりやすいかな。
そんでね、都庁の展望室から地上に降りると、敷地内に「ここは特定街区です」という意味合いのプレートがあるよ。
超高層ビル街になる前は、なにがあったのか?
続きまして2つ目。
「ここが超高層ビル街になる前、このへんはなんだったのか?」なんだけど、再開発とかを考える場合、これ、けっこう重要です。
というのもですね、再開発としてランドマークとなる超高層ビルを建てるにしろなんにしろ、広大な土地が必要だ。もちろん都会で考えるならば、そんな注文通りの空き地が「はいどうぞ」とあるわけないから、なんかの跡地とかだよね。
もちろん、この西新宿の超高層ビル街になっている界隈も、なんかの跡地です。こんなに広い跡地。いったいなんの跡地でしょ。
ヒントはさきほどの地図。
それぞれの特定街区、きれいな四角。長方形。
まるで大きなプールがきちんと並んでいるように見える(でしょ・笑)
そうです。
プールだったのです。
ウソです。
でも近い。
淀橋浄水場がここにあったのです。
東京都水道局のホームページに《東京の水道・その歴史と将来》というページがあったので、そこから一部引用してみます。
▼近代水道の創設
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/suidojigyo/gaiyou/rekishi.html
明治時代を迎え、江戸から東京へと変わっても水道は依然として江戸時代のままでした。しかし、上水路の汚染や木樋の腐朽といった問題が生じ、また消防用水の確保という観点からも、近代水道の創設を求める声が高まりました。さらに、明治19(1886)年のコレラの大流行は近代水道創設の動きに拍車をかけました。こうして、明治21(1888)年、東京近代水道創設に向けて具体的な調査設計が開始されました。この水道は、玉川上水路を利用して多摩川の水を淀橋浄水場へ導いて沈でん、ろ過を行い、有圧鉄管により市内に給水するもので、(中略)明治44(1911)年に全面的に完成しました。
ちなみに当時の「コレラ」の表記は『亜細亜虎列刺』だったみたいだよ。お察しのとおり、『亜細亜虎列刺』大流行の原因は、やはり飲用水の不衛生。
なので東京の威信をかけて、みんなの命を守るため、上水道の一大革命を試みたのだった。井戸や神田上水、玉川上水の水をそのまま飲むのではなくて、浄水場を作って濾(ろ)過し、近代的な水道を作り上げようじゃないか、と。
かくして、明治のコレラ禍を救い、大活躍を見せた淀橋浄水場。だがしかし、周辺の宅地化の進行にともない邪魔者扱いに、というよくある話。で、どっか遠くへいけというとこで、郊外に去っていきました。
淀橋浄水場が廃止されたのは1965年(昭和40年)とのこと。
そんな「淀橋浄水場」の思い出が、西新宿の特定街区「8街区」の新宿住友ビルの1階「三角広場」に展示されています。
三角広場にピアノの音色が響く。「このビルにも街角ピアノがあるね〜。太鼓とかにすればいいのにね。」「ここで太鼓とか超響いてうるさそう(笑)」
そんな他愛もない話が、愛だ。
念のためだが、愛は尊い。
そんなシアワセな気持ちに包まれたオレは、扉の外にある「恋弁天」に吸い寄せられる。
「なんだろこれ」
「ん、恋、なんだって?」
なんでこれに目がいったのか不思議だ。
あ、そうか、恋か。
そうだった、オレたちは恋人どうしだった。
恋をしていなければ、こんなへんてこりんなオブジェ、たぶんスルーしてしまうにちがいない。
「詩」が書いてある。
それではここで、宅建試験風に出題だ。判決文問題のパロディーだ。解いてみてくれたまえ。
次のアからエまでの記述のうち、恋弁天の「詩」によれば、正しいものはいくつあるか。
ア エルボーは新宿の弁天だ。
イ エルボーはオレの恋に水をささない。
ウ オレは正気だ。
エ 淀橋浄水場は恋愛の聖地だった。
ア:誤り たぶん弁天ではない。
イ:誤り それは微妙だ。
ウ:誤り 恋はみづもの 水あれば心は狂い……
エ:誤り たぶんちがう。
正しいものは「なし」!
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人