創立105年の小湊鐵道。大切に“活かさ”れてきた車両たち
朝9時の五井駅改札は乗車券を買い求める人で混み合っていた。お目当ては週末・祝日限定運行の「房総里山トロッコ」だ。保線用のレールバイクで風を感じて走る爽快感を味わってほしいと、かつて同線で活躍したSLを模したディーゼル機関車とオープンエアなトロッコ車両を特注。2015年にお目見えした。
機関区を見渡せば、主力車両である肌色と朱色のツートン(小湊カラー)のキハ200だけでなく、白地に緑と黄緑線の車両、白地に緑の3本ヒゲ車両、どことなく見慣れたオレンジ一色の車両もある。なんとも車両がバラエティ豊か!
「キハ200以外はキハ40。2021年、うちで40数年ぶりに導入した新形式の車両ですが、JR東日本の各地を走ってた中古なんです。他社なら塗り直すのでしょうけど、外装がきれいなら、許可を取ってそのまま使わせてもらってます。鉄道ファンの方も喜んでくれるかなと思って」
と、小湊鐵道鉄道部車両工務課の荒井康伸さん。実は自身も鉄道マニアで、その知識と情報収集力を駆使して5両あるキハ40の導入に貢献した立役者なのだ。
そしてこの“できるだけ活かす”精神が方々で感じられるのも小湊鐵道のいいところ。11両あるキハ200は若手でも45年、最古参なら61年選手。それを少数精鋭の車両担当者がエンジントラブルや部品の消耗と日々格闘しながら大切に手入れし、車庫から送り出している。三角屋根の機関庫も沿線の駅舎も古めかしくてタイムスリップしたかのような気分になる。大正期の電車を改造したもう走らないディーゼルカーや、貴重なSLも現役たちを静かに見守る。列車の動力も戦後からは変わることなくディーゼルだ。
「電車と違ってディーゼルカーは1両ずつクセが強くて、運転操作も整備もそれぞれ違う。クセをつかむのは大変だけどそこが面白い。今ではディーゼルカーでよかったと思うし、貴重だし、魅力のひとつなのかもしれませんね」
と荒井さん。
創立105年の小湊鐵道。その長い歴史に育まれたチャームポイントを知れば知るほど、きっとあなたもファンになる。
〔チャームポイントその1〕日々の安全を守るスーパーマンあり!
地元出身で2007年入社の荒井さんは、営業も運転士も経験した頼もしき鉄道マン。
どの車両を使うか車両運用のやりくりが主な仕事だが、部品調達、官公庁との交渉、ブレーキやエンジンオイルの交換などの簡単な車両整備もこなす。
「夏は車両故障が多くてよく頭を抱えてます」。
機関区見学会も発案し、時には乗務の助っ人も⁉
〔チャームポイントその2〕文化財だらけの五井機関区!
開業当初に近い状態で今も使い続けられる建造物は、駅舎10、橋5、トンネル3など計22が国登録有形文化財。五井機関区では、炉で鉄を溶かして部品や工具を製造したという鍛冶小屋と機関庫が国の文化財、アメリカ製とイギリス製の蒸気機関車(静態保存)が千葉県の文化財だ。月1回程度開催の見学会で見られる(案内役はもちろん荒井さん)。
〔チャームポイントその3〕地産地消の憩いの場が五井駅前に誕生!『こみなと待合室』
列車の本数も少ないし雨風をしのいで待てる場がない、という声に応えて2021年五井駅前に開設。本社の大会議室を改装した空間で、アルミ格子の窓からホームと列車がよく見える。カフェもあり、地元野菜入りのカレーやジビエソーセージをはさんだホットドッグ、県産牛乳を使ったソフトクリームやカフェラテなどが味わえる。
●9:00~19:00、無休。☎︎0436-21-2411
各種グッズも販売中
取材・文=下里康子 撮影=山出高士
『散歩の達人』2022年10月号より