1967年創業。純喫茶としてスタートし、今もその面影を残しまくるザ・昭和のカフェテラス

1966年に竣工した新橋駅前ビル。その1年後に『カフェテラス ポンヌフ』がオープンした。ポンヌフとはフランス語で新しい橋を意味する。つまり、“新橋”。変わりゆく新橋をともに生きてきたポンヌフの3代目の店長・植草さんに話を聞いた。

「僕がこの店に来たのは2007年くらいで、創業当時のことはよく知らないんです。でも、最初はコーヒー、プリン、サンドイッチくらいがあるような、いわゆるふつうの純喫茶だったそうですよ」。

2代目の店長になると日本が経済的に安定していたという背景もあるのだろう。ガッツリ食べられるメニューにシフトしていったという。ナポリタンにはじまり、ハンバーグスパゲティ、ポンヌフバーグ、ハンバーグサンドと今も人気のメニューが続々誕生し、新橋で働くモーレツ社員たちの舌を満足させた。

昭和の面影を残す外観。
昭和の面影を残す外観。

「あるとき、ウチのナポリタンを食べた料理評論家の方が『ウマい!』って言ってくれてから人気になったみたいですね。けっこう有名人の方もお好きだと言ってくださる方が多くて。ありがたいですね」と、植草さん。

食欲をかきたてる食品サンプル! キーホルダーにしたい……。
食欲をかきたてる食品サンプル! キーホルダーにしたい……。

「昔からここで働くおばちゃんたちに『忙しいから皿洗いだけでもいいから手伝ってよ』と言われてたのがここで働き始めるきっかけでした。ちょうど前の仕事を辞めた頃で時間があったし、おばちゃんたちには昔からお世話になってきたので助けてあげたくてね。最初はここで店長になるつもりはなかったんですよ〜」。そのうち調理や仕込みも手伝うようになり、2代目の店長が引退することになって2018年からは植草さんが3代目の店長になったそうだ。

カウンターの上にある丸い電球もレトロかわいい!
カウンターの上にある丸い電球もレトロかわいい!

ふんわりスパイシーなハンバーグと、まろやかななつかし系ナポリタン

「そろそろお料理を……」と切り出すと、すでにハンバーグスパゲティの準備がされていた。筆者が少し驚いていると「あれ? 違うの?」と植草さん。きっと筆者はハンバーグスパゲティを欲していそうな顔をしていたのだろう。いやでも、まんざらでもないですよ。ぜひ、いただきましょう。

ところで筆者は幼少のころからのナポリタン好き。子どもの頃、誕生日には必ず母にナポリタンをリクエストしていたほどだ。メニューを見るとハンバーグスパゲティの解説に「(ボリュームたっぷり)」とある。わ〜い、やった〜!

心のドラムが乱れ打ち! ロマンティックが止まらないメニューたち。
心のドラムが乱れ打ち! ロマンティックが止まらないメニューたち。

まずはハンバーグを焼く。成形した肉だねをフライパンに乗せ、オーブンに入れる。次にスパゲティだ。こちらは太めのゆで置きタイプを使用する。「前の店長は2.0mmのスパゲティだったんですけど、オレが任せてもらうようになってからさらに太くてある程度コシが残る2.2mmに替えました」。

細うどんくらいはありそうな食べ応えのあるスパゲティは2.2mmの極太サイズ。
細うどんくらいはありそうな食べ応えのあるスパゲティは2.2mmの極太サイズ。
まずはラードでスパゲティを炒め、次に玉ねぎ、ハム、マッシュルームを加え、さらにオリジナルソースとケチャップを加えて炒める。
まずはラードでスパゲティを炒め、次に玉ねぎ、ハム、マッシュルームを加え、さらにオリジナルソースとケチャップを加えて炒める。
植草さんはチャチャッと調理するので、カメラが追いつきませーん。
植草さんはチャチャッと調理するので、カメラが追いつきませーん。
アルマイトの皿に盛り付けられるナポリタン。出来上がりの湯気を頭にかぶってご利益をたまわりたい。
アルマイトの皿に盛り付けられるナポリタン。出来上がりの湯気を頭にかぶってご利益をたまわりたい。
ナポリタンの調理と並行しオーブンで焼いていたハンバーグもこんがりジューシーに仕上がった。
ナポリタンの調理と並行しオーブンで焼いていたハンバーグもこんがりジューシーに仕上がった。
仕上げにオリジナルソースをかけたら完成。うわ〜、ハンバーグもナポリタンもキラキラしてるー! 尊い〜!
仕上げにオリジナルソースをかけたら完成。うわ〜、ハンバーグもナポリタンもキラキラしてるー! 尊い〜!

「はい、どうぞ〜!」。植草さんができたてのアツアツをテーブルに運んでくれた。ゆらゆら湯気をたててやってきたハンバーグスパゲティが、まるで両手を振ってあいさつしてくれているみたいでこちらもつい笑顔になる。

ぬらぬらと艶かしい輝きを放つスパゲティ。
ぬらぬらと艶かしい輝きを放つスパゲティ。

やはりひと口目はナポリタンから。トマトの酸味は少なく、まろやかななつかし系の味だ。けっしてソースがベチャついているわけではないのに、太いスパゲティとソースがよく絡んだ一体感。うどんやつけ麺などの太麺はあえて麺の持ち味である小麦の香りをエッセンスとして生かすことがあるが、このスパゲティはソースとのシンクロ感がすごい。しかも適度にコシが残っていて茹で置き特有のブツブツと切れる感じはない。

ナポリタンにベーコンを入れているところもあるが、『ポンヌフ』ではハムにこだわる。
ナポリタンにベーコンを入れているところもあるが、『ポンヌフ』ではハムにこだわる。

また、ふんわりとしたハンバーグは、オーブンで焼くことで中まで火を通しつつ旨味を逃さないのだとか。牛豚の合い挽き肉とプロ用の特別なパン粉を使い、コショウやニンニクが利いている。

「ハンバーグの上にかかっているソースは、合い挽き肉やさまざまな調味料が入ったポンヌフのオリジナルソースで、これはナポリタンにも入っています。どちらもこのオリジナルソースが決め手です!」と植草さんは語る。ナポリタンとハンバーグはまったく違う味なのに、食べ合わせがいいなと思ったのはこのソースのせいだったのかも!

オーブンで焼きふんわり仕上げたハンバーグ。なめらかさを感じるたねの中は粗みじんの玉ねぎがシャキシャキ感を主張している。
オーブンで焼きふんわり仕上げたハンバーグ。なめらかさを感じるたねの中は粗みじんの玉ねぎがシャキシャキ感を主張している。
キレイに完食。ごちそうさまでした。
キレイに完食。ごちそうさまでした。

イイ大人になった今でも、口の周りを真っ赤にしながら無心にすするナポリタンとハンバーグが大好きだ。ボリューム満点でかなり食べ応えがあるけれど、もっと食べられそうなランナーズ・ハイならぬ“ハンスパ・ハイ”に陥っている。

いつか食べてみたい! 夢のオリジナルソーススパゲティとチーズハンバーグ

2代目の店長が考案したレシピをそのまま引き継いでいる植草さん。「今はとても余裕がないので、すぐに実現は難しいんだけど……」と前置きをしながら、今後チャレンジしたいことを語ってくれた。

味も店内も昭和の雰囲気を残す。
味も店内も昭和の雰囲気を残す。

「ウチで働いているおばさんたちが、ナポリタンでも使っているスパゲティに軽く味つけただけのシロに、オリジナルソースをかけたらミートソーススパゲティみたいでおいしい。これを新メニューとして出そうよ! と言うんです。あ、シロってよく洋食屋さんのハンバーグの横についてる付け合わせの白いスパゲティみたいなやつね。あとね、個人的にはとろけたチーズをかけたハンバーグなんかも絶対ウマいよな〜なんて」。

「自分の頭の中にはいろいろアイデアがあるんだけど、ひとりでやってるから大変じゃん(笑)。手間だけじゃなくて物価高だしなぁって思うと、やっぱりタイミングが大事だなと思っちゃうんですよー」と苦笑いする植草さん。

すごくおいしそう! 『カフェテラス ポンヌフ』は6:4で女性が多いというし、チーズとハンバーグなんてすごく常連さんも喜ぶんじゃないですか?

「そう思うんだけどね。うふふ、余裕ができたらね!」と、植草さんは顔をクシャクシャにして笑った。

全国を放浪しながらその土地のグルメをスケッチする段ボール絵師・高木志記さんはポンヌフバーグのとりこに。直筆の絵を店内に飾っている。
全国を放浪しながらその土地のグルメをスケッチする段ボール絵師・高木志記さんはポンヌフバーグのとりこに。直筆の絵を店内に飾っている。
画用紙版も。味わいのあるタッチで描かれたポンヌフバーグ。新メニューが誕生したら高木さんも再来店したくなるかも?
画用紙版も。味わいのあるタッチで描かれたポンヌフバーグ。新メニューが誕生したら高木さんも再来店したくなるかも?

SNSなどを一切やっておらず店から情報を流すことはないため、頻繁に店に来るかお客さんの発信しか情報をキャッチする手段がない。うわ〜、気になっちゃうじゃないですか。全国の『ポンヌフ』ファンのみなさま、新メニューを見つけたらぜひご一報ください。正座して待つ!

住所:東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館1F/営業時間:11:00〜15:15・18:00〜22:00(売り切れ次第終了)/定休日:日・祝(土は不定)/アクセス:JR・地下鉄・ゆりかもめ新橋駅から徒歩1分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢