光を採り込む透明な壁・ガラスブロック
ガラブロさんは、街角のガラスブロックを鑑賞し続けるガラスブロックマニアだ。
「もともと街歩きをして、看板やユニークな貼り紙といった、街中のちょっと変わったものを探して写真に撮るのが好きでした。街の中でたまに見かける四角いガラスの壁を見るたびに、なんだか心に引っかかるものを感じ、見つけるたびに写真に撮っていました。見ると昔を思い出すような、懐かしい気持ちになったんです。
ある時、その四角い壁に『ガラスブロック』という名前があることを知りました。名前を知ったことでもっと写真を撮って集めたい、と思うようになりました。
2017年の秋頃から、撮影した写真をインスタグラムに投稿しています。これまで撮影したガラスブロックの写真は、2500〜2600枚くらいになりましたね」
「ガラスブロック」という名前の通り、ブロック状になったガラスを組み合わせて壁状にしたものが、建物の一部に用いられる。
「現在のガラスブロックは、半分ずつに分かれた箱状のガラスをくっつけて、中が空洞になった四角いブロックにするのが主な作り方ですが、もともとガラスブロックがヨーロッパで誕生した20世紀初頭は中が空洞ではなく、レンガ同様にガラスを塊にした『ガラスブリック』だったそうです」
民家や公共施設、商業施設など、ガラスブロックは様々な場所に用いられている。
「ガラスブロックは街のいたるところにありますが、特に病院に多いですね。ガラスブロックという名前を知らない方に写真を見せると、『病院にあるやつだね』という反応が返ってくることが多いです。遮音性があるので、歯医者などでは機械音が外に漏れない効果がある、と聞いたこともあります。
公衆トイレのような場所には、光や視線を通さないタイプのガラスブロックが使用されています」
適度に光を通しながら、プライバシーを守ることができるガラスブロック。
後述するように表面の凹凸や模様のバリエーションが様々あり、施設の用途や希望に応じて外部からの光や視線をコントロールすることができるのだ。
時間帯や設置場所……表情の変化を味わおう
①デザインのバリエーションが豊富
ガラブロさんのインスタグラムには、これまで撮影したガラスブロックの写真がずらりと並ぶ。タイムラインを眺めていると、ひとくちにガラスブロックと言っても、ガラスの表面の模様に様々なバリエーションがあることに驚く。
デザインのバリエーションの豊富さは、ガラスブロックの魅力の一つだ。実はそれぞれのデザインには、風情ある名前がついている。
「『プレーン』『モール』『コロナ(ルナ)』『たまゆら』というのが、主なラインナップです。これらは、日本のガラスブロックメーカーの商品名です」
「珍しいタイプでは、薔薇のような模様をしたものも。これは詳細が分からないのですが、ガラスブロックの愛好者たちは『薔薇』と呼んでいますね」
②時間帯による表情の変化
ガラスという素材の特性上、時間帯や季節による変化もまた魅力の一つだ。
「夏の日差しを受けると、光の反射でプールの水面のような雰囲気になります。また、夜になると建物内の明かりが外に淡く漏れ出て、生活の匂いや人の営みがガラス越しに垣間見えてきます。このように、時間帯による光の加減で表情が変化するところは魅力ですね」
③建物の佇まいの味わい
建物にはめ込まれたガラスブロックを、建築や看板などとセットに味わうのも楽しい。
「ガラスブロックが一般的に建物に用いられるようになったのは、工場での大量生産が始まった1960年代以降です。昭和の雰囲気を残した建物にガラスブロックが用いられる様子は、独特の味わいがあります。もちろん今の建築でも素敵な使われ方をされていますが、私としては少し古い建物に使われるガラスブロックの佇まいに惹かれてしまいますね。
1960〜70年代に作られた建物は、そろそろ建て替えの時期が来ています。一度見た建物が、次に行くとなくなってしまったということは、割とあります。残っているうちに見ておかないとな、とは思っています」
偶然での出会いを大切に
街歩きがライフワークというガラブロさん。ガラスブロックも偶然の出会いを大切にしているそう。
「車に乗らない生活をしているので、主な移動手段は歩きと公共交通機関と、たまに自転車です。時間のある時は、たとえば新宿に行くのに新大久保で降りるなど、一駅手前の駅で降りて、ひと駅分歩いたりしています。初めての街の場合は、集合時間の少し前に行って、周りを歩いてみたり。
ガラスブロックも、そうやって歩く中で見つける偶然の出会いを大事にしています。調べて行くこともあるんですが、『ガラスブロックを探しに行こう』と思わないで歩いている時に、思いがけない場所で思いがけない使い方やデザインをしたガラスブロックを見つけるのが、一番うれしい瞬間ですね。
撮影する時は、街の住人や通行人の方にご迷惑にならないようにということは大前提に、引きと寄りで撮影し、ガラスブロックが使われている状況やガラス自体のデザインを記録しています」
今まで出会ったなかで、思い出深いガラスブロックの一つも、旅の途中で偶然発見したものだという。
「今年の春に千葉の銚子を旅したんですが、漁港の近くの住宅地を抜けて海へ行こうとしていた途中で、ブロック塀にあしらわれたユニークなガラスブロックに出会いました。『みやび』というパターンの砂時計のようなデザインで、色付きのガラスと透明なガラスの組み合わせが素敵で。よく晴れた日だったので、光が通った様子もきれいでした。
漁港の独特な雰囲気の街中でたまたま見つけたので、発見した瞬間すごくテンションがあがりましたね」
時間と気持ちの余裕と、直感
ガラスブロック目線でおすすめしたい街を伺うと、下町かと思いきや、意外にも「銀座」をおすすめいただいた。
「ガラスブロックに興味が湧いた方におすすめしたいのは、銀座です。銀座の数寄屋橋にある銀座メゾンエルメスは、建物全面がガラスブロックに包まれていて、ガラスブロック界では超有名な建物なんです。普通のガラスブロックより大きなサイズのブロックが使われていて、ブロックの中にエルメスの商品が入っていたり、ガラスブロックを使ったインスタレーションも行われたりします。
このビルの手前に以前あったソニービルが何年か前に解体されて、数寄屋橋交差点からビルの全面が見えたんです。次の建物が建ってしまう前に、ぜひ見に行ってほしいですね」
「メゾンエルメスの近くにも、古いガラスブロックが壁一面に使われた建物をはじめ、素敵なガラスブロック建築が何軒もあります。他のお店に立ち寄りながら散歩してみると楽しい街ですね」
これからガラスブロックを楽しんでみたい、という方に向けて、鑑賞のコツを伺ってみた。
「普段よりゆっくり街を歩いてみることです。寄り道をしたり、入ったことのない道に入ってみたり。時間の余裕と気持ちの余裕があった方が、ガラスブロックも街歩きも楽しめると思います。
もしガラスブロックや、ご自身の気になるものを発見したら、近づいたり、少し離れたりして、そのもの自体や、街の中でどういう使われ方をされているのか観察すると、より魅力を味わえます。
でも一番大事なのは、『直感』です。何年も活動して知っていることが増えると、『ああ、こういうパターンか』など、頭で処理して純粋に楽しめなくなってしまう場合もあります。『いいな』『きれいだな』『好きだな』と思った最初の印象は忘れないようにしています。
持ち歩くいい道具としてはスマホと、歩く距離が長い場合は動きやすい服と歩きやすい靴で出かけるといいと思います。絶対ガラスブロックを撮影したいという場合は、ガラスブロックに写り込んだ時に目立たない、黒や紺などの暗めの服がおすすめです」
ガラスという素材ゆえ、時間による太陽光の反射や照明の光といった、周りの状況を反映しながら様々な表情を魅せてくれるガラスブロック。
偶然と直感を大切にするからこそ、キラリと宝石のような存在感を放つのかもしれない。
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべてガラブロさん提供