支柱がくぃっと曲がった標識=標しくぃ

道路沿いに設置されている道路標識やカーブミラー。時たま、支柱がくぃっと曲がっているものがある。高下龍司さんは、支柱の曲がった標識を「標しくぃ」と名付け、鑑賞を続けている。

「支柱が曲がった道路標識のことは、昔から道を歩くたびに気になって目に留まっていました。小中学生の頃は、友だちとふざけて『キックして曲げた』ふりをして遊んだり。

ある時、ライター・斎藤公輔さんが書かれた記事「街のレアキャラ「右目室外機」を探せ!」(デイリーポータルZ)を読んだことをきっかけに、路上観察を楽しんでいる方たちがいることを知りました。

僕自身もなにか独自のテーマで発信してみたいと思ったところ、昔から支柱が曲がった道路標識が気になっていたことを思い出したんです。

『標しくぃ』というネーミングを思いついて、2017年末から撮りためた写真をSNSで公開するようになりました」

支柱がくぃっと曲がったカーブミラー
支柱がくぃっと曲がったカーブミラー

そもそも、なぜ支柱が曲がっているのだろうか。

「基本的には、トラックなどの大型車が標識と接触しないために曲がっています。カーブミラーに関しては、見えやすい角度に調整するために曲げられることもあります。また、道路の下が暗渠などで標識が立てられない場合に、設置位置をずらすために支柱を曲げることもあるようです」

大型車との接触を避けるために支柱が曲げられる(イラスト:高下龍司さん)。
大型車との接触を避けるために支柱が曲げられる(イラスト:高下龍司さん)。

ルールに基づき設置が必要な公共物だからこそ、場所ごとのやむを得ない状況に対応した、設置者側の技術や試行錯誤が垣間見える。それらが結晶した風景が、なんとも味わい深い。

イリュージョン系に崖っぷち系……多様な曲がりっぷり

これまで撮影した標しくぃは600枚ほどにも及ぶという高下さん。その魅力を伺ってみた。

「なんと言っても『曲がりっぷり』ですね。下の方で曲がっていたり、真ん中の方で曲がっていたりと、曲がり方も様々あります。曲線美という言葉があるように、良い曲線を見かけるとグッときますね。真っ直ぐだったらなんてことないのに、曲がっていることによって物語が見えてくるというか」

高下さんは、これまで観察した中でもとりわけ特徴的な標しくぃを主に3つのタイプに分けている。

①イリュージョン系

「1つ目が、『イリュージョン系』です。川や排水溝に沿って取り付けられた柵をすり抜けるように設置された標しくぃです。水の流れるところには、イリュージョン系がありがちです」

柵のわずかな隙間に支柱をうまく通しながら設置するには、曲げ方や設置位置に細かな計算や調整が必要だろう。職人技を感じる。

柵をすり抜ける「イリュージョン系」。
柵をすり抜ける「イリュージョン系」。

②崖っぷち系

「次が、『崖っぷち系』です。遠くから見ると普通の標識やカーブミラーに見えるんですが、近づいて見てみると、水路際などで背後に何もない場所に設置されており、土俵際で踏ん張っているような状態の標しくぃです」

人間に置き換えると、崖っぷちで後ろに落ちないよう、腹筋を使ってなんとか持ちこたえている状態だろうか。冷や汗ものだ。

土俵際でふんばる「崖っぷち系」。
土俵際でふんばる「崖っぷち系」。

③ひょっこり系

「最後が、『ひょっこり系』です。電柱や壁からひょこっと顔を出している標しくぃです」

手に汗握る崖っぷち系と比較して、かわいらしい。

背後から恥ずかしそうに顔を出す「ひょっこり系」。
背後から恥ずかしそうに顔を出す「ひょっこり系」。

解説を伺いつつカテゴリーごとの標しくぃを眺めてみると、「くぃっ」と曲げざるをえなかった標識たちの佇まいに、どこか申し訳なさげな哀愁すら感じられる。

これらの分類の中でもとりわけ思い入れがあるのは、地元で見つけた「イリュージョン系」の標しくぃだそう。

地元で出会った「イリュージョン系」。
地元で出会った「イリュージョン系」。

「支柱が曲がっていること以外に大きな特徴がない、いわゆる『ノーマル系』と呼んでいる標しくぃを何十枚と撮り続けている中で、『果たしてこれは面白いのか?』と我に返ってしまったことがありました。

もう少し撮り続けて数が増えれば何かが変わるかもしれない、と思って続けていたら、写真の『イリュージョン系』の標しくぃに出会ったんです。

実はこれを見つけたのは、実家のすぐ近くでした。地元にこんなものがあったのかという驚きもあり、『観察を続けなければ』と思うきっかけになった一枚でした。続けていくうちに、『崖っぷち系』など他のユニークなタイプも見つかるようになっていきました。

この標しくぃに出会わなければ、飽きて辞めていたかもしれませんね」

 

「標しくぃ」という視点によって、なじみの街の見え方がガラリと変わるような瞬間だ。

「標しくぃ」と声に出してほしい

上空に設置されるタイプも。
上空に設置されるタイプも。

生活圏内をメインに観察を続けている高下さん。

「路上観察自体が好きなので、標しくぃを撮るためだけに出歩くようなことはせず、色々なものに目を向けながら、生活圏内である関西中心にマイペースに観察を続けてきました。

ただ、無理せずに見つけられる標しくぃが徐々に少なくなってきました。SNSのハッシュタグ『#標しくぃ』でアップされた写真の中には、直角に曲がったタイプや上から吊り下げられたタイプなどの珍しいものもあります。これからは他の地域にも遠征してみたいですね」

まずはカーブミラーから入っていくのがおすすめ。
まずはカーブミラーから入っていくのがおすすめ。

これから標しくぃを楽しんでみたいという人に向けて、鑑賞のポイントを伺ってみた。

「繁華街よりは住宅街のほうが見つけやすいですね。繁華街は道路幅が広いためか、標しくぃ自体が少なく、またあったとしても人が多くなかなか写真が撮れません。

標識があったら、まずは支柱が曲がっているかどうかに注目してみてほしいです。

道路標識よりもカーブミラーのほうが、曲がっている確率が高いので、まずはカーブミラーから入っていくのがおすすめです。カーブミラーはオレンジ色が多いので、目にも留まりやすいと思います。ただし写真を撮る場合は、支柱の足元に犬のマーキングが残っている場合もあるので、ご注意ください。

見つけたらぜひ、周りに聞こえる大きさで『標しくぃ』と声に出して言ってみましょう(笑)。口に出すことで脳に刷り込まれていくので、ぜひ『標しくぃ』という言葉を覚えてほしいです」

「標しくぃ」という絶妙なネーミングの効果で、無機物の標識が、途端に愛らしい生き物に見えてくるのだ。

 

取材・構成=村田あやこ

※記事内の写真はすべて高下龍司さん提供