女性店主がひとりで切り盛りするはるちゃんラーメン
JRのほか、東京メトロ銀座線や都営浅草線、ゆりかもめなどさまざまな路線が入り組む新橋駅。それらのすぐ近くにあり、レトロで味な店がギッシリ詰まっている新橋駅前ビルの1階に『はるちゃんラーメン』がある。
オープンは2021年の8月。木の温もりが感じられる店内は、座っているだけでもほっこりできる。店主のはるちゃんに聞いた。
「内装は“料理好きのはるちゃんち”みたいな感じで(笑)。木目を基調、ライトは暖色系にしてリラックス感を演出しています。お客様には肩肘張らずに、少しいいものを召し上がっていただきたいと思っています」。
『はるちゃんラーメン』は昼のみの営業だが、サラリーマンの街・新橋に構える店には次々とお客さんが訪れる。たった6席ということもあり、開店前からお客さんが並んでいるそう。
「だいたいは並んで待っていただいてますね。男性の会社員の方がほとんどですけど、最近は女性も増えてきています。6席とはいえ、1人で店をやっているのでけっこう大変です(笑)。でもラーメン店で働いて20年くらいなので慣れていますよ」とはるちゃんは語る。
あっさり、やさしい味の中華そば。食べごたえのあるもちもち中太麺とたっぷり乗った2種のチャーシュー
『はるちゃんラーメン』のメニューは中華そば890円ともり中華があるのだが、現在もり中華はおやすみしている。厨房で作業しながらはるちゃんは「うちの中華そばは、食材も作り方もシンプル。食べ終わるまでアツアツなことと、柔らかいチャーシューがポイントです」と答えてくれた。
中華そば890円をオーダーをすると、小柄なはるちゃんひとりがやっと動けるくらいの厨房で、すぐ中華そば作りに取り掛かった。木箱から麺を取って茹ではじめ、チャーシューを必要な分だけ切り出す。「切り置きはせず、必ずオーダーが入ってから必要な分のチャーシューを切ります。少し手間ですけど、切りたてのほうがおいしいので。これもこだわりですね」とはるちゃん。
ほどなくして中華そばがカウンターの上に置かれた。スープが並々に注がれているので、こぼしそうで怖い。立ち上がって慎重にテーブルの上に置いた。
早々に撮影をして、熱いうちにいただきます!
動物系と魚介系が混じったスープだ。醤油なの? 塩なの? ちょっと迷うのだけど、お吸い物みたいに塩味だけどふんわり醤油が香るようなあっさりスープ。ふう〜、ほっとするやさしい味だ。中太の麺はやや平たく、つるっとした喉越しが心地いい。
豚のウデとバラを醤油で煮たチャーシューはどちらも柔らかいが、部位による味わいの違いが楽しい。心なし量も多い?
「そうですね、チャーシューは60gで麺は180gあるので、平均的に見ると多めだと思います。スープを並々にするのは、最後までアツアツを食べて欲しいから。チャーシューを仕込むときに出る豚肉のだしに煮干しや香味野菜を加えて塩味ベースのスープを作っています」と、はるちゃんの解説を聞きながら箸が止まらない筆者。
すると「あ、半分くらい食べ終わったら卓上のニンニクを入れてみてください! 味が変わっておいしいですよ」とアドバイスを受け、さっそく試してみた。
大盛りのニンニクをドーンと乗せてみた! なるほど、パンチがある味に激変した。草食系だった同じクラスのアイツが、夏休み明けに別人になってたみたいな。どうしたー? 何があったー⁉
そもそもがピュアな味だっただけにほかのテイストになじみやすいのだろう。……なんて考えているうちに完食。見た目ではわからなかったが、確かに全体的に量が多めかも。食べ応えがある1杯だった。
ほっこり、ま〜るい醤油味。“ラーメン”ではなく“中華そば”にこだわる理由
現在は中華そば1本で営業する『はるちゃんラーメン』。動物系と魚介系のスープにキリリと醤油がきいた昔ながらの淡麗中華そばというよりは、あっさりしながらまろやかさもあるやさしい味わいだ。はるちゃんが目指すのはどんなテイストなのだろう。
「そうですね、ネーミングとしては“ラーメン”よりは“中華そば”のほうがなんとなく温かい響きだなと思ったからです。作り方は基本に忠実にシンプルな食材を使っていますから、昔からある東京ラーメンというか、素朴な味わいだと思いますよ。お客さんにもうちの中華そばを食べて、ほっとできたり温かい気持ちになってもらえたら!」とはるちゃん。
必ずお麩をトッピングするのもはるちゃん流。全体的に茶色っぽいイメージの中華そばが、パッと華やぐ。そんなアイデアと心遣いにもはるちゃんの「食べてくれた人に幸せを感じて欲しい」という気持ちが現れているのだ。
ま〜るくてやさしいスープだが、一本芯が通ったような力強さをもつ『はるちゃんラーメン』の中華そば。女性ながら無骨な一食入魂の姿勢、おみそれしました!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢