福井から東京へ、そして父・伯父から2代目へ
古着店や雑貨店などがひしめくエリアに現れる「中華そば」と書かれた昔ながらの提灯とのぼり。のれんをくぐると、昔懐かしい赤いL字型カウンターが目に飛び込んでくる。そこに並ぶようにして座るお客さんの数の多いこと。とうにランチタイムを過ぎている時間帯にもかかわらず、その後も1組また1組と客が入店し、店内はあっという間に満席状態に。
そんな大繁盛ぶりを見せる『一龍』が提供するのは、福井県敦賀市生まれの敦賀ラーメン。豚骨や鶏ガラで出汁を取った醤油味のスープに、中太のちぢれ麺、チャーシュー、メンマ、紅ショウガを具材とするのが基本形だ。
この店のルーツとなるのは、敦賀ラーメンの名店と言われた本場・福井の「一龍」。2015年に惜しまれつつ閉店してしまったが、その店主が下北沢『一龍』の初代店主・坂井良三(りょうぞう)さんの兄なのである。
敦賀ラーメンの元祖と言われる『一力』で修業を積んだ良三さんの兄は、その流れをくむラーメンを提供。店はたちまち人気となり、地元はもちろんラーメン愛好家の間でもその名を広く知られることとなった。
それまで東京でアパレル販売員として働いていた良三さんは、自身も故郷の味を東京に広めたいと、兄のもとで一からラーメン作りを学ぶことに。数年後、慣れ親しんだ下北沢の街に同じ名を譲り受けたこの店を開いたのだという。そのため、提供するメニューは福井の「一龍」で提供していたものとまったく同じなのだそうだ。
現在、店を切り盛りするのは2代目の一雅さん。日々奮闘しながら、父、そして福井の伯父から受け継いだ味を守り続けている。「店には毎日通われるような方もいらっしゃいますし、伯父の店のお客さんだった方が福井からいらっしゃることもあります。うちは、スープを翌日に持ち越すことなく、毎日一から手作りしているので、同じ味を出せるように努力を続けています」。
40年変わらない味
この店で通年提供しているラーメンは、中華そばとメンマそば、にんにくそば、もやしそば、ワンタン麺、チャーシュー麺の6つ。なかでも、チャーシュー麺は麺が見えないほどたっぷりとのせられたチャーシューが印象的な一杯だ。
だが、今回は敦賀ラーメンの基本形であるスタンダードな中華そばを注文。数分してカウンターに現れたのは、黄金色のスープが美しい、どこか昔ながらのラーメン。
スープをひと口すすってみると、奥深い味わいとともに油のインパクトも感じられる。それがなぜか麺や具材と一緒になると、最初に感じたオイリーな印象は何だったのかというくらいするする食べられる。弾力のある麺も、チャーシューも、すべてが完璧に調和が取れているようだった。
改めて店内を見渡してみると老若男女、実に幅広い層から愛されていることがわかる。変わりゆく下北沢の街で、40年間変わらずに続く店は今や貴重な存在かもしれない。初代と2代目、二人三脚でいつまでもこの場所と味を守っていってほしいと感じる店だった。
『一龍』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英