物言わぬ警報機の先は道路となった廃線跡
一生鳴ることもなく、ただじっと立つ一対の警報器。「哀愁」と一言では表せない、しっとりとした空気に包まれています。撤去されずによく残されていたなぁ。廃線後の踏切はたいてい警報器が撤去されますが、ここは残ってくれました。
C11形に牽かれたオハフ61形が、何度もこの踏切を通りました。先ほどの保存車両を思い浮かべ、朝夕のみの運転時にしか鳴らなかった警報器をしばし見つめます。背後の夏雲がゆっくりと流れていきました。
日中線の廃線跡はほぼ道路となっています。警報器の先は線路を転用した小道となっていて、野辺沢川の手前で右へ直角に曲がっていますが、線路は渡河していました。その痕跡は見当たらないけれど、傍らには転車台の土台が残っています。転車台は日中戦争の時に人員不足から使用を止めたそうで、廃止まで復活することはありませんでした。
蒸気機関車は下り列車がバック運転をしていて、バック運転を得意とするタンク式機関車C11形とC12形が使用されていたため、とくに運転上の不具合はなかったようです。どれもこれも生まれる前の話なので、伝聞や資料館の写真を見て知ったことですが、もしC11形現役の頃に日中線を撮っていたとしたら、バック運転の下り列車ばかり追いかけていたと思います。動態保存のSLバック運転を見たとき、かっこいいなぁと感じていましたから(笑)。
野辺沢川の先は、生活道路となったり畑になったりと、廃線跡は途切れながら続き、県道383号線へ吸い込まれます。県道は廃線跡を活用した道路。国道121号線と交差して右へカーブしますが、今度は分岐して直進する生活道路が日中線のルートです。畑の中をゆるやかに左カーブして県道335号線と合流すると、加納の集落に到着します。会津加納駅があった場所です。
緑地帯にポツンと残るレールは確かな遺構
駅のあった位置には駅名標モニュメントが立ちます。気になるのはその先、熱塩加納郵便局付近の分岐道で、335号線は左へ曲がるのに対して、廃線跡の小道は直進しています。小道の分岐にある緑地帯には、草に埋もれて錆びた2本のレールがありました。長さは10数メートルほどです。
いきなり現れる日中線の遺構。あっ!と声を上げちゃいます。周囲は街並みと田園地帯の境い目。訪れた時は説明板もなかったのですが、日中線の遺構には違いありません。道路整備が完了してから新たにモニュメントとして設置したのか、廃止時に一部だけ残したのか定かではありません。
が、年季の入った枕木と土に埋もれかけたバラスト(砂利)の状況から、一部だけ残したのかなと感じました。道路より一段上がった緑地帯にある不自然さは否めませんが、道路整備で地表面を下げたのかもしれないし……。直感です。
廃線跡は再び生活道路となって、畑を進みます。青々とした穀倉地帯に真っ直ぐな道。なんと清々しい。オハフ61形の座席に身を委ね、前方から聞こえるC11形の汽笛と煙の匂いを感じながら、ぼんやりとこういう車窓を見たかった。
そんな妄想乗車から我に帰るように、生活道路は遊歩道へとなりました。まだ整備したばかりなのか、両脇に枝垂れ桜を植栽した直後でした。この時の訪問から2年経過したので、2022年現在は枝垂れ桜も根が落ち着いて、春には美しい光景となっていることでしょう。
さよならSL列車を牽引したC11形が廃線跡に保存される
遊歩道はいったん県道335号線と合流します。右手にこんもりとした林、左手に石積み農業倉庫のある交差点が上三宮(かみさんみや)駅跡で、会津加納駅と同じように駅名標モニュメントがあります。その先で押切川を渡河。廃線跡は県道と別れて小道となり、再び遊歩道となりました。
周囲はあっという間に喜多方市内の住宅地となって、遊歩道が区画を貫いて喜多方駅方向へ進んでいます。と、目に飛び込んでくるのは黒い塊。遊歩道の真ん中にC11形63号機が保存されていました。63号機は日中線を走った機関車で、線路のあった場所に鎮座しています。レールも新たに敷設して、汽車が住宅地をかき分けてやってきた。そんな光景を再現してくれています。
63号機は昭和49(1974)年に日中線さよなら蒸気機関車列車を牽引しました。きっと多くの鉄道ファンに親しまれていたことでしょう。屋外展示となっていますが美しく整備されており、春のしだれ桜シーズンでは、淡いピンク色に染まります。
<保存車両点描>
遊歩道は喜多方駅手前まで続き、磐越西線の敷地へ合流します。11.6kmと短い路線ではあるものの、全区間を徒歩で踏破するのは気合いれないといけません。熱塩までのバスは廃止されたと聞いたので、レンタル自転車か車で巡ることになります。せっかくなので、喜多方ラーメンに舌鼓を打ち、足跡を巡って熱塩温泉に一泊というのも良いでしょう。読んで字のごとく、泉温は熱め、塩分濃いめの塩化物泉でした。熱かったけれど気持ちよかったな~。
取材・文・撮影=吉永陽一