びっくりするほどシックでおしゃれな店内
店員の大きな声が飛び交っていて、脂多めの大盛麺をスピード全開でワシワシ食べないと叱られるんじゃないか。看板の筆文字もなんだか怖いし……。『麺屋武蔵』に対してそんなイメージを勝手に抱いていた。が、ごめんなさい、そんなことないです。全然間違ってました。
シックなインテリアに暗めの照明がスタイリッシュ。ほんのりジャズが流れるしゃれた空間は落ち着いたムード。ピカピカに磨かれた広めの厨房ではスタッフが無駄なく、かつ和気あいあいと仕事を進めている。
開店前に毎朝行われるのが試食の儀。ラーメンやつけ麺合計6種をスタッフ全員で試食して、スープの出来や魚介の濃さ、塩味の強さなど多方面に渡ってチェックする。同じ分量と方法で作っていても、気温や湿度の変化によって味に違いが出るのは仕方のないこと。しかし、きちんと試食し対策を練ることでブレは減らせる。繊細さを感じる開店前のルーティンだ。
カロリー無視のごっついヤツがやってきた!揚げ物、揚げ物、そして麺
「繊細」とは真逆のビジュアルがやってきた。麺屋武蔵オリジナルである包丁切麺の極太麺の上に豚天1個、鶏天2個、それから味玉と海苔がどかんとのっている。通常の製麺機では切ることができないという多加水の麺は、角がきりっと立った形状で凛々しい。茹で前で180gの並盛りから3.5倍盛りの630gまでは同一料金なので、空腹具合に合わせて量を調節しよう。
豚肩ロースを揚げた豚天と麺をつけ汁にどぼん。麺は重みを感じる太麺で、すするというよりつけ汁のついた麺を箸で持ち上げてワシワシ食べる感じ。どろりと粘度の高いつけ汁は魚介の風味がたっぷりで、思いのほかこってりしていない印象。塩味もいい具合だ。豚骨の濃厚な旨みも十分、角がしっかりしたシコシコ麺につけ汁が思い切り絡みつく。弾力はかなり強く、噛む度にモチッモチッと跳ね返ってくるようだ。かな〜り濃厚なつけ汁とゴツい太麺、それぞれ個性がめちゃくちゃ強いが、食べてみるとこのつけ汁にはこの麺でなきゃ!という絶妙なバランスに気付く。
豚天は薄いように見えていたが、衣にスープが浸りまくったため、食べごたえのある厚み。ひと口食べてみると、スパイシーな味がついていてかなり旨い。豚天の衣に磯辺揚げみたいな味やニンニクの風味があり、複雑でパンチのある味わいだ。カラリと揚がったサクサクな外側に対して中はふっくらしっとり。つけ汁につけてもつけなくても成立するおいしさだ。唐揚げも同様だった。こちらのほうがゴツっとした塊感があってボリュームたっぷりなのだが、思いの外食べ心地が軽い。これならサクサクっといくらでも食べられそうだ。
麺屋武蔵は数あれど、特殊なフライヤーで揚げる揚げ物はここだけ
中はしっとり、外はサックサクの抜群揚げ物の秘密は特殊なフライヤーだ。実際に見せてもらってまず気づいたのは揚げ油の美しさ。黄金色で透き通り、油を新しく入れ替えた直後なのかと思うほどだ。まさにこれがこの店で使っているフライヤーの特徴。自動で常に浄化される油はいつでも新鮮。おかげで揚げ物はカラッと油切れがいいから軽く食べられる。なるほどたっぷり食べられるワケだ。
中毒者続出の「悪魔ぜそば」は、カロリー無視の悪魔フード
もう一つの名物が悪魔ぜそばだ。主な味付けはラーメンタレで、包丁切麺の上に自家製の壺ニラ、天かす、あおさ、刻みチャーシュー、ネギをどさっとのせ、さらに卵黄をオン。そして忘れちゃいけないのがニンニク。結構入ってます。
混ぜまくると醤油味のラーメンタレと香味油でゴリゴリ麺がツヤツヤに。こちらもすするのは難しく、持ち上げてひと口。ガツン!と来たのは壺ニラの風味、追ってきたのがニンニクだ。ガリガリっとした天かすの歯ごたえと、濃厚な醤油と油をまとってシコシコの麺。つけ麺と同じ麺を使用しているが茹で時間が短いため、より強くゴツい歯ごたえになり、濃い味つけにピッタリだ。ゴリゴリのパワーフードに夢中になりつつ時折香るあおさの風味もたまらない。これは元気出る味だ〜。
超絶油ギッシュにちょっと疲れたらレモンペッパー酢で味変を。まずは少しだけかけて様子を見ると、さわやかな酸味でなかなかよさそう。それならばと大胆にどばっとかけてみた。油が適度にマイルドになり、胡椒の風味でパンチもプラス。これもなかなか旨い!最後に余ったタレにご飯を入れて混ぜ飯にするのもオススメとのこと。フライド鬼オンも追加で入れたらおいしそう〜!と思ったが、お腹はもうパンパン。今回は非常に残念ながら断念。次回はぜひとも試したい。
求めるのは、自分の納得する味とおもしろさ。すべては丁寧な作業から
麺屋武蔵の他店舗の立ち上げを経て、2021年にこの店の店長になった大原さん。とくに大切にしているのは温度や時間などの調理工程だ。毎朝の試食で味のブレをなくすこともそうだが、一つひとつを丁寧に作業することがおいしさに繋がると話す。「もっといける」と納得いくまでブラッシュアップを重ねる。そのため、定番メニューであっても長い時間をかけて変わっていくし、ときには思い切ったリニューアルをすることも。「大体、ラーメンに揚げ物のってたらおもしろいでしょ」。客を飽きさせず、新しく自分がおもしろいと思うものを打ち出すエネルギー。これからも変化が楽しみな店だ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ 構成=アド・グリーン