イギリスで親しまれるリンゴ酒“サイダー”の魅力を日本で発信

鮮やかなブルーの外観が目に留まる。
鮮やかなブルーの外観が目に留まる。

都会の喧騒から離れた落ち着きのある雰囲気で、感度の高い大人たちが集う奥渋(オクシブ)エリア。ここから新たなカルチャーを発信すべく生まれたのが『サイダーノート』だ。

サイダーとは、リンゴを発酵させたお酒のこと。日本ではフランス語の“シードル”という呼び方でなじみがある。ここ数年の間で日本でも少しずつ認知度が高まってきたが、イギリスでは昔から親しまれている定番のお酒だ。

写真中央がオーナーの武田光さん。気さくな人柄でお客との会話を楽しむ。
写真中央がオーナーの武田光さん。気さくな人柄でお客との会話を楽しむ。

オーナーの武田光さんが店をオープンさせたきっかけは、6年間のイギリス生活だった。イギリスのお酒といえばビールが主流だが、もともとビールが得意ではなかった武田さん。そこで、ビールよりもほどよく甘さがあって軽い飲み口のサイダーに惹かれ、現地ではサイダーばかり飲んでいたという。

しかし、イギリスでは当たり前のように飲まれているサイダーが日本ではまだあまり広まっていない。そこから「日本の新しいカルチャーとしてサイダーを広めたい」という想いを持つようになった。

「サイダーは、国や醸造所ごとに味わいに特徴があったり、掛け合わせる素材によって色合いが違ったりと、味わいも見た目もすごく個性豊かなんです」

一度はサイダー(シードル)を飲んだことがある人も多いと思うが、最初の一杯だけでイメージを固めてしまうのはもったいないというわけだ。

落ち着いて飲むことができるモダンな空間。
落ち着いて飲むことができるモダンな空間。

店内にあるお酒は、タップやボトル、缶などを合わせると40~50種類。その中でも特に、樽で仕入れたサイダーをタップ(注ぎ口)からグラスに注ぐ樽詰サイダーにこだわっている。全12タップのうち、樽詰サイダーは常時8~10タップ、残りのタップは厳選されたクラフトビールというラインナップ。世界各国の樽詰サイダーを一度にこれだけの種類楽しめる店は、日本でここしかない。

海外のサイダーはインポーターとのつながりを生かして仕入れ、国内のサイダーは醸造所と交流を持ち直接仕入れている。武田さん自ら全国をまわる中で、仕入れ先を広げることもあるという。

ラインナップは期間ごとに入れ替わり、中には年に一度しか味わえないものや、2~3日で入れ替わってしまうものがあり、他では出会えない希少なサイダーとの一期一会を楽しむことができる。

個性豊かなサイダーから自分好みを見つける

サイダーと一口に言っても、バラエティ豊かな色合いに驚かされる。左のワインのような色のサイダーはチェリーを使用したもの。
サイダーと一口に言っても、バラエティ豊かな色合いに驚かされる。左のワインのような色のサイダーはチェリーを使用したもの。

席に座ったらまずは「おすすめをください」と言いたくなるが、サイダーは種類ごとに味わいが大きく異なるので、個人の好みによっておすすめする一杯は違ってくる。『サイダーノート』では好みからズレがなく“美味しい”と思ってもらえるように「渋みはあったほうがいいのか」「飲み口は軽い方がいいのか」など、普段飲んでいるお酒や好みを探りながらスタッフがぴったりの一杯を提案してくれる。

左がアメリカのサイダー、右がイギリスのサイダー。色合いも微妙に異なっている。
左がアメリカのサイダー、右がイギリスのサイダー。色合いも微妙に異なっている。

「初めて飲み比べるなら、イギリスとアメリカのサイダーが特に味わいの違いがわかりやすいと思います。大まかにいうと、イギリスのサイダーは甘み・酸味・渋味のバランスがよく、酵母感とワイルドさを感じるものが多いです。一方アメリカのサイダーは、渋味が少なく、すっとした飲み口が特徴です」と武田さん。

実際に飲み比べてみると、武田さんの言葉の意味に納得すると同時に「こんなに味わいが異なるんだ」と驚いた。イギリス、アメリカのサイダーは置いていることが多いそうなので、まずは飲み比べてみてほしい。

他にも数種類のサイダーを飲み比べてみたが、甘味があって飲みやすいもの、すっきりと爽やかな口当たりのもの、酸味が強くクセになるもの……それぞれ見事に個性を確立している。

自分好みの一杯が見つかったら、新しい味わいを見つけにどんどん探求してみてほしい。そうするうちに、サイダーの魅力にすっかりはまっているはずだ。

手書きのポップなメニュー表から、気になる一杯を選ぼう。
手書きのポップなメニュー表から、気になる一杯を選ぼう。

ホロホロの豚肉×リンゴソースの黄金コンビがたまらない!

ベーグルサンドイッチセット1100円(コーヒー or 紅茶付き)とサイダーを一緒に。ベーグルは単品で880円。
ベーグルサンドイッチセット1100円(コーヒー or 紅茶付き)とサイダーを一緒に。ベーグルは単品で880円。

また、『サイダーノート』ではパブらしいフードメニューも充実している。今回は、ランチタイム(11:00~14:30)に人気のベーグルサンドイッチの中からプルドポークをチョイスした。ベーグルの間に具材をたっぷりと挟んだベーグルサンドは、一見するとハンバーガーかと思ってしまうほどボリューミーな一品だ。

豚肉×リンゴという組み合わせは、武田さんがイギリスのマーケットで実際に食べて気に入ったコンビ。思い出の味からインスピレーションを受けて誕生した。

ベーグルサンドはテイクアウトも可能。
ベーグルサンドはテイクアウトも可能。

一口食べてみると、もちもちとした歯ごたえのあるベーグルの香ばしさと、プルドポークの深みある旨みがじわじわと押し寄せる。

ベーグルは、小麦粉から生地を作り店内で一から焼きあげたオールスクラッチ。さらに、プルドポークは2日かけて火入れしホロホロになるまで煮込んでいる。そんな手間暇かけたベーグルサンドは、どこか懐かしい味わい。塩気のあるプルドポークと、甘ずっぱいリンゴソースとの相性は言うまでもない。

また、武田さんいわくサイダーは豚肉との相性が良いとのこと。たしかにベーグルサンドを食べていると、爽やかなサイダーが進む。ワインなどの他のアルコールと比べるとサイダーのペアリングはまだ確立されていないが、豚肉×サイダーは間違いなしのペアリングだろう。

ランチと一緒にサイダーを飲みながら、ふと「日本でもこんな風にサイダーが当たり前のように飲まれる日は近いのかもしれない」と感じた。

※サイダーの種類は取材時点(2022年8月)のもの。

住所:東京都渋谷区神山町16-4 堀内ビル 1F/営業時間:12:00~23:30(Drink 23:00LO、Food 22:30LO)/定休日:不定/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩8分

取材・文・撮影=稲垣恵美