アットホームな空間で料理長こだわりのイタリアンランチをいただく
神保町駅から歩いて1分。靖国通りと平行して走るすずらん通りにある和菓子店『文銭堂』の2Fに『マキアヴェリの食卓』はある。和菓子店の脇の少し奥まったドアから入り、階段を上がる。
店内に入ると左にオープンキッチン、右にはテーブル席が50席ほど並ぶ。ダークレッドのテーブルクロス、壁に並ぶワインボトルとおすすめメニューの手書きボード。広く落ち着いた空間だ。
出迎えてくれたのは、料理長の田口智大さん。父親の裕久さんがオーナー、母親の智江さんがホール担当、長男の智大さんが調理担当、次男の裕生さんがソムリエという家族経営だ。店に入ったときに感じた温かい雰囲気は、この家族経営によるもののようだ。
開業は1996年。神保町に生まれ育った智大さんは、大学に通いながらアルバイトとして『マキアヴェリの食卓』で調理の基本を学んだ。「大学卒業後はこの店で働きながら、休みの日は横のつながりがあるほかの飲食店にヘルプで入ったり、いろんな店に携わってきました」。
智大さんが『マキアヴェリの食卓』の料理長となったのは、2011年。同じ頃に弟の裕生さんもソムリエとして働きはじめる。現在では、勉強熱心で理論派の兄とワインに精通した感性派の弟というタイプの違う2人でお店を運営している。
「最近は少なくなってきましたが、神保町はもともと個人でやっているお店が多い街。今も地元の料理人同士の交流は続いています」と智大さん。「書店が多い街なので、料理の勉強にはいい環境です」。勉強熱心な料理長はイタリアンの枠にとらわれず、さまざまなジャンルの調理法や食材、調味料を取り入れたメニューを研究し、提供しているそう。
気になっていた店名の由来を伺うと、「いくつか説があるんですが、イタリアの政治思想家マキャヴェッリの子孫が生産したマキャヴェッリというワインが最近まで生産されていて、そのワインを扱っているということで名付けられたという説が当店の公式見解です(笑)」。
おいしさがどんどん変わる、絶品冷製クリームソースパスタ
今回は料理長おすすめのランチメニュー、本日のクリームソース、えびとオクラの冷製スパゲティニ~そら豆のポタージュソース1380円を注文。料理長が自信を持っておすすめする一品で、リピーターも多いとのこと。これは期待が高まる。
まずスープとサラダが到着。本日のスープの具材は玉ねぎときのこ。サラダにはフレンチドレッシングがかかっている。自家製のオニオンドレッシングは、やさしい酸味で口当たりのいい味わい。歯ごたえの良いシャキシャキ野菜によくあっている。ランチでもひと手間かける気遣いに感心する。
そしてメインの、えびとオクラの冷製スパゲティニ~そら豆のポタージュソース。トマトの赤とオクラの緑の鮮やかなコントラストに食欲をそそられる。このメニューは、パスタの上下に2種類のソースを使用しているという二重構造になっている。パスタの下には、そら豆を練り込んだ甘みのあるポタージュソース。パスタの上には、白ワインベースで酸味のあるソース。
「まずは全部を混ぜないで、そのままお召し上がりください」と料理長。「食べながら味が混ざっていくおいしさも楽しみのひとつなんです。味の緩急を楽しんでください」。それでは混ぜずにいただきます。
上のソースは酸味があるが、あまり強くはなく、トマトの酸味とオクラのねばねば食感とがあわさって冷製パスタのさっぱりした味わいを引き立てている。下のソースは冷たいポタージュスープ。そら豆と隠し味のスペアミントと自家製コンソメスープが味に深みを出している。
上のソースではオクラのねばねば食感が楽しめ、下のソースではオクラ特有の苦味が甘めのポタージュスープのアクセントとなり、味の引き立て役になっている。オクラがそれぞれのソースで違う役割を演じているのだ。
そしてパスタを食べ進めると、すこしずつ両方のソースが混じり合う。上か下か、ではなく、まだらに混じり合ったところで、違った味わいを楽しめる。“味変”や“1つのメニューで2度おいしい”ではなく、おいしさが変わっていくプロセスも楽しめるのだ。こだわりと技がつまった一皿で、最後まで楽しめる満足と納得のランチなのであった。
30時間かけて旨みを引き出す! 自慢のコンソメスープ
もう1品ぜひ紹介したいのが、自家引きのコンソメスープ990円。鶏ガラや牛肉ブロック、さまざまな香味野菜を30時間かけて抽出したという自慢のメニューだ。近隣のバーなどへも卸しているそう。もちろん、ランチタイムでも注文できる。
透明ガラスの茶器で提供されるスープの、澄んで濁りのない透明度に驚く。一口いいただくと、数多くの素材の味と風味が一体となって口の中に広がり、料理長渾身の一品というのもうなずける。量もたっぷりなので、2~3人でシェアすることもできる。お茶の感覚でいただけるので、食後のコーヒー代わりに頼んでみてもいいだろう。
アットホームで落ち着けるお店でいただく絶品のイタリア料理。ランチタイムでもこれだけ満足できたので、次回はディナータイムでシェフこだわりのイタリアンとワインをゆっくりと楽しみたいと思う。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎