隠れ家風なお店で楽しむステキなひと時
お酒のおつまみで不動の人気を得ている料理と言えば、餃子が思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。街中華のお店などへふらっと立ち寄ると、瓶ビールをグビグビと飲みながら焼き立ての餃子に舌鼓を打っているテーブルが必ずひとつはあるはず。それだけ餃子は酒のつまみ界における不動のセンター、そしてその相棒はビールと相場は決まっているものだったが……そうした法則に当てはまらない店もある。
それがズバリ『餃子とワイン屋』。文字通り、餃子にワインを合わせて楽しもうという不思議なコンセプトの店である。
大森駅から歩いて4~5分……とあるが、駅から商店街を抜けていくと居酒屋どころか飲食店自体がまばらに。少々不安になりながら地図通りに進むと、住宅を兼ねたビルの地下へ進む階段に店名が記された看板が。まさに隠れ家感満載のお店である。
「『駅から4~5分』って僕らも聞いてオープンしたんですが……感覚的にはもうちょっと歩きますよね(笑)」と、答えてくれたのがこの店の店主である渡辺譲さん。もともと洋食をメインとした料理人として活躍され、お店を開くにあたり自身の強みを生かしたいという思いから、異色のお店が生まれたという。
「実はこの店は私の妻がオーナーの『餃子とビール屋』という店の姉妹店なんです。私たちが『自分たちが行きたくなる店を作る』というコンセプトで始めて、私は得意の洋食とワインをメインにしたお店にしています。ただ、両店とも餃子をメインにしようということで、こういう名前になりました」。
絶品餃子の秘訣は餡の割合にあり
餃子とワインという組み合わせはちょっと聞きなれないが、洋食の世界では赤ワインは肉料理と抜群の相性を誇るのは良く知られている。それだけに餃子に合わないわけがないのだが……。そんな『餃子とワイン屋』の餃子は餡作りからすべてオリジナル。豚のあらびき肉とキャベツ、ニラを混ぜた餡を力強くこねて仕上げていく。
「餃子のレシピは『餃子とビール屋』とは変えず、どちらも同じなんですが……面白いことに僕と妻とでは手の温度が若干違うので肉の脂の溶け具合が違って、若干味に違いがあるんです」と、分析する渡辺さん。そもそも姉妹店の『餃子とビール屋』は大森からほど近い立会川に店を構えているという。近いエリアで似たコンセプトの店を出した理由についてもたずねてみた。
「材料の受け渡しが2店の間でスムーズにできる距離を考えて、こっちの店は大森にしようという感じで決めたんです。あと、大森駅って単線の乗降者数が実は日本一らしくて。それだけ人が乗り降りしているなら、うちみたいな個性的な名前の店に興味を持ってくれる人もいるかなって思って」と、出店のねらいを明かしてくれた。
そうした渡辺さんの計画は見事に的中。駅から少し離れた隠れ家感のある店だが、オープン以来常連さんたちが毎日のようにやってきてくれているという。それだけでなく、一人でふらっと入ってきたお客さんに対してもフレンドリーに接してくれる渡辺さんの人となりもあって、気が付けば客が客を呼んでくるといった状態に。お店全体がコミュニティーのようになり、今ではすっかり大森の街になじんでいる。
「お客さんは6.5:3.5くらいで男性客の方が多いですかね。仕事帰りのサラリーマンの方が仲間を連れて飲みに来てくれたり、お酒好きな方がはしご酒をするのにスタート地点としてうちのお店を選んでくれたりとか。別のお客さん同士で来店したのに、うちのお店で意気投合して、お店を出るときには一緒に別の店に行くなんてこともありますね」と、お店自体が出会いの場になっているような雰囲気すらある。
だが、そうしたお客さんが集まる要因になっているのはこのお店のクオリティの高いメニューがあってこそ。インタビューをしながら待っていると、とうとう自慢の餃子が焼きあがった。
実際に食べてみると、肉の比率が多く、渡辺さんの「にくにくしい餃子」という評どおりに実にパワフルな味わい。それだけに赤ワインとの相性は抜群だ。
お酒が苦手だったとしても、これで白飯をガッツリと食べたくなるに違いない……と思っていたら、お客さんからの要望に応えてお店でもライスのメニューを用意しているという。「焼き餃子」は子供たちにも人気なのだそうだ。
おいしい餃子とワインで過ごす大森の夜
ちなみに餃子と合わせるワインは常時20本前後揃えているという。仕入れている酒屋さんからのおすすめはもちろん、ワイン好きな女性スタッフが初心者でも安心して飲めるワインをチョイスしている。そのため、この店でワインデビューした方も多いという。
「私も妻もお酒好きというのもあって、『自分やみんなが来たくなる居酒屋を作りたい』という思いでやってきましたが、こうして大森の人たちに愛してもらえているのは本当にうれしいことですね。この記事を読んで、うちのお店に興味を持ってくれた方がいたら、『大森の街』を体感するにはピッタリなお店だと思いますので、気軽に来てもらえるとうれしいです」と、最後に渡辺さんはステキなコメントで締めくくってくれた。
ちなみにこのお店の予算は渡辺さん曰く「2000円もあれば、おなか一杯になれます」とのこと。餃子とワインのマリアージュを楽しみに行ってみるのも悪くない。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘